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中指 立てたら  作者: 福島崇史
87/248

TK

アモーンの奴が、構えをアップライトからクラウチングに変えた。

なるほど…蹴り技を捨て、ボクシングとレスリングどちらの技術も出しやすい構えを選んだっちゅう訳か。

なら先ずは…こいつでどないやっ!?

クラウチングスタイルの相手を攻めるセオリー、ローキックを放ってみた。

しかし奴はブロックするまでも無いとばかり、バックステップでヒラリとかわす…


「ちぃ~とばかし踏み込みが甘いんとちゃうかワレ?」


余裕のニヤニヤ顔が神経を逆撫でするが、俺かて最初(はな)から当たるとは思ってへん。

今の1発は、奴の反応を見る為に出しただけや。

更に!今の動きで1つ攻め手を思いついちゃったもんね♪

やっぱ俺って天才!!


「よう…?なんかニコニコしとるみたいやけど、何かええ手でも閃いたんけ?」


〝ギクッ!〟

「ア、アホ言え…そ、そんな簡単に閃いたら、く、く、く、苦労せんわいっ!」


「いや…わかり過ぎるやろ…誤魔化すん下手か?喋る前に〝ギクッ!〟ってなってたし…」


「やかまし、やかまし、やかましいっ!男が勝負の最中にベラベラ喋んなっ!!」


「…どの口が言うとんねん…」


ふぃ~…あ、焦ったでぇ…作戦が思い付いたの危うくバレるところやった…何?こいつも人の心が読めるの?ニュータイプ?


「ま!ワレが何を閃いたかは知らんが、何なりと試してみたらええ…出来るもんならなっ!」


クッ!またあの笑みやっ!ほんまムカつくでぇ…

その顔面に蹴りを叩き込んでやりたいところやけども、俺は〝グッと我慢の男の子〟を発動させて、奴へと再び右のローを放った!

先と同じく、奴がバックステップで距離を取る。


「だから当たらへんて言う…何っ!?」


へへへ…かかった♪

俺は奴がそう動くんは読んどった。

せやからローを捨て技にして、アモーンがバックステップするタイミングでタックルへと移行したんやっ!

両手でその(ぶっと)い脚を2本とも刈る!!

よっしゃ!テイクダウン成功やっ♪

すかさず横四方固めで抑え込みながら、マウントへ移る隙を窺うっ!

隙を!

隙を…

隙を?

いや、全く隙がありませんやんっ!!

奴は膝を立てたり俺の顔を押したりして、巧みに防御して来よる…

ここは俺に見せ場を与えるとかさぁ普通するよね…?

空気読めんかなぁしかしっ!

せやけど何故か防御するだけで、奴は反撃に転じて来えへん…

不思議に思いながらも暫く攻めてると


「ようよう…俺、そろそろ動いて構へんか?」

そんな事を言って来よった!


「あんっ!?」


「いやな…お前、寝技のオリジナル技を開発したい言うてたやろ?せっかくレスリング経験者の俺からテイクダウン奪った事やし、敬意を表して暫く好きに攻めさせたろぅと思って防御に徹したんやけども…お前があまりに下手くそ過ぎて展開が変わらへんからよぅ…」


ングッ…コ、コイツなりに空気読んでくれてたのね…せやけど舐められたもんやっ!

(いや、アンタさっき空気読めんかなぁとか言うてましたやんっ!! ←思わず漏れた作者の声)


「ふざけんなっ!勝負始める前に言うたやろがいっ!手加減も恨みっこも無しやって!!」

ムカついたからこない返してやると…


「ほぅかぁ…ほな遠慮無く♪」

そう言って難なく俺の抑え込みから脱出しよった。やっぱ流石に寝技上手いわ…

いや!感心しとる場合や無いっ!!

脱出しただけでは満足せず、そのまま俺の上に跨がりやがった!

ぬぅ…なんたる強欲や…やっぱ空気読めん奴っちゃでぇ(いや、アンタさっき…<以下略>)


「早くもマウントを頂きました♪

さて…どうするよ?」


クッ…コイツの顔から余裕の笑みを消してやりたいっちゅうのに、ず~っと余裕無いのは俺の方っ!ほんまず~っと!不公平っ!!

いや…そんな不満を言うてても埒があかへん。

俺は〝エビの動き〟で何度も腰を跳ね、奴のバランスを崩そうと試みた。

せやけど流石はアモーン、ロデオを乗りこなすみたいに上手い事バランスを保ちよるわ…

ならばっ!とばかりに腹筋の要領で上半身を上げ、(デコ)を奴の顎先へと叩き込むっ!


「ガアッ!!」

骨のぶつかる音と共にアモーンが仰け反った!


〝好機っ!〟

心の中で叫ぶと今度は、下半身を浮かせて背中側から両足を奴の頭部へと引っ掛けてやった!

俺の足に引っ張られ、アモーンが仰向けに倒れるっ!!

俺はその隙に脱出し、すかさず立ち上がった。

へ?せっかく逆転のチャンスやったのに、何で攻め込まんと立ち上がったんや…ってか?

だって…あそこで攻めても又直ぐに逆転されそうやってんもんよ…

あ!でも弱気からとちゃうでっ!

態勢を立て直す為の戦術的撤退やからなっ!!


「ほう…上手い事逃げたやんけ?」


「応よ!格闘技界の賢者こと、高阪(こうさか) (つよし)さん直伝の〝TKシザース〟じゃいっ!…あ、直伝てのは嘘…ゴメン…」


頭を掻いた俺にアモーンが言う…

「ふぅ…また仕切り直しやのぅ…せやけど飽きてきたわぁ。悪いけどそろそろ終わりにさせて貰うでぇ?このまま続けたところでお前に変化は無さそうやしのぅ…」


「へっ!ぬかせっ!!俺は超スロースターターでな、最後の最後で逆転するタイプなんやっ!

よく言うやろ?ヒーローは遅れてやって来る…ってな♪」


「誰がヒーローじゃアホゥ…てか、そもそも今の言い回し、使い方あってんのけ?」


「んぐっ…そ、そんな細かい事はどうでもええねんっ!とにかく余裕こいてっと、最後に泣きっ面晒す事になるぞって話や♪」


「へぇ…そいつぁ楽しみだわ♪」

舌舐めずりしながら怖い笑顔で立ち上がったアモーン。


再びスタンドで構え合う俺達。

そして数分後、この勝負に決着がついたんや…







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