うんちく
軽快なステップを踏むアモーンに対し、俺は先のローが効いててフットワークが使えへん…
たった1発のローでコレやもの、その怪物ぶりに先が思いやられるで…
奴は前に言うとった
〝空手の最も得意な間合いは喧嘩の間合いや〟と。
つまり密着する程の距離が奴の間合いなら、俺に出来る事は奴を中に入れない様に制空権を取る事…
せやけど残念ながら、今の俺はフットワークが使えんと来たもんだ…
なかなか上手く行かへんもんやのぅ…
それでもジャブの連打と前蹴りだけで何とか間合いを保っとる俺、凄くね?
そんな心の中での自画自賛を見透かしたのか、呆れた様にアモーンが言う。
「ようよう…やる気あんのかテメェ?
立ち技で俺の相手するって大口はどうしたよ?」
いや…仰る通り…まっこと面目無い…
なぁんて事を言うはずも無く、俺は強気にこう返したんや。
「そう言うお前こそ大した事無ぇなオイッ…
俺の膝にダメージが残ってる事くらい判ってんだろ?それやのに未だ間合いに入られへんとはな。それで空手が1番得意たぁ…ハンッ!片腹痛いね♪」
この台詞で奴の米噛みに血管が浮いた。
おぅおぅ♪怒っとる怒っとる♪
ええぞええぞ…もっと怒れ!
なんせこれが俺の〝作戦〟やねんから♪
え?どんな作戦やねんってか?
聞きたい?あそぅ…聞きたいの?
もう全くしょうがないなぁ…お客さん、アンタも欲しがるねぇ♪
じゃ、ちょっと長くなるけど、よ~聞いてんか!
へ?試合中やのにそんな話して大丈夫なんかって?
大丈夫大丈夫!クソ作者が実力を行使して〝ザ・ワールド〟を発動して時間止めてっからさ。
ま、主人公補正とでも思っといて♪
んじゃま、とりあえず〝プチ格闘技講座〟の始まり始まり~(はい拍手っ!!)
先ずは…
空手とキックボクシングの闘い方の違いがよく解らないって人が結構多いんやけど、まぁ1番大きな違いを簡単にザックリ言うならば〝顔面パンチ〟が有りか無しか…これやね。
キックボクシングやムエタイなんかは顔面パンチが有りやから、容易く相手との間合いを詰められへん。
せやから必然的に、細かい技の応酬で相手の隙を作る迄は〝見合い〟の多い試合展開になりやすい。
対してフルコンタクト空手は顔面パンチが来ない事が判ってるから、怖がらずに相手の懐へ飛び込む事が出来る。
その結果、試合開始早々から近い間合いで技を応酬する展開に発展しやすい訳。
え?それやったら顔面パンチ有りの喧嘩は、空手よりキックボクシングの方が近いんとちゃうんかい!って?
空手が得意な間合いが喧嘩の間合いってのは矛盾するやないかっ!…そう仰りたいのですね?
解ります…解っております…
この不惑 勇、ちゃ~んと解っておりますとも!
では解説いたしましょう!!
それにはグローブの存在が大きく関係してるのであります…
喧嘩をした事ある人間にしか理解出来んかも知れんけど…喧嘩は基本的に、技術よりも根性を比べ合うもんや。最初から素手の拳を顔面に貰う覚悟は当然出来てる。てか、そんな覚悟は必須科目や。
だから互いにそれを恐れず相手に突っ込む訳やな。必然的に密着しての殴り合いになる…
つまり空手の間合いはこの間合いに似てるって事やな。
ところがグローブを着けた格闘技のパンチってのは、根性で耐えられる〝単純な痛み〟や無いんよ。
皆んなも知っての通り、脳ミソその物が揺らされる…だから身体が麻痺して言う事をきかへん様になる訳。
どんだけ根性あろうが全身麻酔には耐えられへんやろ?それと一緒や。
つまり1発エエのを貰ったらそれで終わる可能性が高い…グローブの存在のお陰でな。
結果、間合いを保ちながら技を応酬する形になる。
この点からしても、やっぱ空手の方が間合い的には喧嘩に近いかなぁとは思う。
勿論これは、空手とキックボクシングを比べた場合の話やで?
組技の有り・無しでもまた変わってくるし、それを言い出したらキリあらへん。
結局はMMA(総合格闘技)に行き着いてまうやろぅしな…
おっと、話がそれたな。
こっからは俺の作戦ってやつの話。
いやね…奴が使うのはフルコンタクト空手…
つまり顔面パンチを禁じてる流派な訳やん?
つまり顔面パンチに不慣れな訳やん?
ここは突け込むべき弱点やん?
そこでさっきの挑発が活きてくるって事よ!
挑発された奴はオープンフィンガーグローブを着けてるのも忘れて、強引に懐へ入ろうとするやろ?
何故ならバカやから!
そこでカウンターの顔面パンチを狙うって寸法♪
ゴリラのパワーを逆に利用したろって訳やな。
しかぁ~しっ!奴は人間様がそこまで考えてる事になど気付いていない…
何故ならバカやから!
ん…あれ?でも俺…何か1つ大事な事を忘れとる気がする…
え~と…なんやっけかなぁ…?
……あ~っ!もうっ!思い出せんっ!!
モヤモヤすっけどしゃあない…
そろそろ試合再開せな、クソ作者の〝ザ・ワールド〟もそろそろ限界やろうし。
てな訳でザ・ワールド解除っ!!
「片腹痛いとは上等や…そこまで言われちゃあ期待に応えん訳には行かんのぅ…」
そう言ったアモーンが、左右のローキックから強引に飛び込んで来よった!
よっしゃ!しめしめ…作戦通りやないかい♪
ここは落ち着いて、狙い済ませた右を合わせ…
〝ガハッ…!?〟
「おい!そんなカウンターが俺に当たると思ってた訳?甘いねぇ…逆に自分がカウンターで沈むたぁ片腹痛いね♪」
さ、さっきの…大事な事っての…お、思い…出した…わ…
こ、こいつ…ボクシングもやって…たん…やった…
か、完全に忘れてたでぇ…
震えながら立つ俺を見て、ニヤニヤしながら奴が言う…
「俺がボクシングも出来る事、完全に忘れとったやろ?しゃあないよな…何故ならバカだから♪」
ムキィ~ッ!
ダウン奪われた事より何より、その言葉が1番悔しい~っ!!
絶対に一矢報いたるからなっ!!
あ、でもそれは次回に持ち越し…
そんな訳で来週をお楽しみに~♪
(なんやねん…このクソみたいな終わり方…)




