実力者アモーン
「さ、お喋りはコレ位にして…そろそろ始めるとすっか?で、ゴング係は居ねぇがどうするよ?」
フットワークの確認を兼ねてピョンピョン跳ねながら俺が訊くと…
「アホゥが…もう始まっとるわいっ!」
奴はそう答えながら弾丸みたいなタックルを仕掛けて来よった!
〝は、速いっ…!!〟
跳ねてる最中やった事もあり、反応が遅れてしもた…
腰を引いて切るのが不可能と悟った俺は流れに身を任せて、倒れ込みながらガードポジションを取る事を選んだ。
しかし…
〝と、止まらへん…やとっ!?〟
勢いが凄過ぎて、寝技に引き込むすら出来へんかった。
そしてそのまま端まで押しやられ、背中がロープに触れたと思った刹那、身体がフワリと宙に浮いた…
奴はロープの反動を利用して、そのままフロントスープレックスに移行したんやっ!
もの凄い勢いでマットが眼前に迫るっ!!
思わず手を出しそうになるけど、この体勢で手をついたら脱臼・骨折の危険を伴う…
〝や、やべ…っ!!〟
俺は咄嗟に身体を捻り、側面から落ちながら何とか受け身を取った。
それでもダメージが完全に消される訳やあらへん。揺れるリングの上、俺の身体が魚の様に大きく跳ねた…
「ガハッ…!」
呻く俺の身体をガッチリとホールドしたまま、アモーンの奴が耳元で囁く…
「ほう…上手い事逃げたのぅ。せやけど今度はどないかな?」
又も身体が浮かされるっ!
奴は背後から俺を持ち上げると、今度は後頭部からリングへと落としたんや…
ジャーマンスープレックス!!
きっちりと受け身は取ったけど、耳をつんざく様な音と共に再びリングが大きく揺れた。
「フング…ッ!!」
アマレスで国体に出場した奴のスープレックス…立て続けに食らってノーダメージな訳あらへん。
堪え切れずに呻き声が漏れてまう…
頭を直撃した訳や無いのに、景色が蜃気楼みたく歪んで見えた…
投げ終わり、ゴロリと横へ身体を捻ったアモーン。
その腕は相変わらず背後から俺の腰へと回されている。
「まだまだ行くでぇ♪」
じょ、冗談や無いっ!
いくらタフが売りの俺でも、これ以上食らってしもたら流石にヤバいっ!!
「そ、そない好きにさせっかよっ!」
持ち上げられる前に身体を捻り、仰向けになりながら奴の左手首を右手で掴んだ。
そして奴の肩越しに左手を回し、自分の右手首を握りながら絞り上げたっ!
「どやっ!?このアームロックが反撃の狼煙じゃいっ!!」
言いながらも不安は残る…
本来なら両足で相手の腰をロックせなアカンのやけど、体勢が不十分で左足しか腰に回せてない。
奴の身体の下にある右足を何とか外に出そうともがいてみるけど、残るダメージと体格差で上手くいかへん…
「フフン♪残念やったのぅ…こんなもんはこうすりゃ簡単に…」
そう言って嗤ったアモーンが、腰をロックされる前に前転して技を解いてしもた。
そして俺も奴もすかさず立ち上がる。
「な?簡単に抜け出せたやろ?ハハハ♪」
「チッ…!」
流石はレスリング経験者や…既存の基本技で仕留めるのは至難の業らしいのぅ…
「さて…仕切り直しやのぅ。まぁ俺の奇襲を凌いだ、それだけでも褒めたるわいな」
「当たり前田のニールキックやっちゅうねんっ!俺から挑んでおいて、あの程度でヤラれてしもたら格好悪ぅてしゃあないわいっ!!」
見栄を切りながらアップライトに構えを取る。
「そらそうやのぅ♪せやけどな、あのまま寝といた方が良かった…そない後悔する事になるかも知れんでぇ…?」
奴も同じくアップライトに構えながら嗤った…
それはゾッとする様な笑顔で。
〝もし肉食獣が嗤うんやったら、草食動物を見つけた時にこんな顔で嗤うんやろなぁ〟
そんな間抜けな事を考えていたら…
「ボ~ッとしてんじゃねぇよっ!」
奴の叫び声と同時に、俺の膝横を痺れが襲った。
「ガアッ…!」
足の力が抜け、カクンと腰から崩れ落ちる。
「そらよっ!!」
マットに膝をついた俺の頭部へ、容赦の無い追撃が放たれたっ!
腕をクロスして何とかガードしたが、電流の様な痺れが全身を貫いた。
「グゥ…」
頭の位置が低かった為、実質ミドルキックの威力で襲われた訳や…
しかしそれを差し引いても、この威力の蹴りを何度もガードしてたら腕が使い物にならんくなる。
「どやぁ?俺の蹴りの味は?…忘れた訳やあるまい?俺が1番得意なんはレスリングや無くて空手やって事を…よ」
「ああ…ちゃ~んと覚えとるで…せやからよ、こっから暫くは俺も立ち技で相手したろか…そない思ってな♪」
再び構え直した俺をアモーンが睨める…
「ほう…言うねぇ…そいつぁ楽しみだわ♪」
舌舐めずりした奴の背後を、黒い闘気が包み込んだ様な気がした…




