ポイッ!
約束の深夜2時が近い。
俺がベッドを抜け出すと、アモーンの寝床は既にもぬけの殻やった。
俺は〝戦闘服〟の黒タイツに着替えると、その足で道場へと向かった。
道場へ近付くと、バシーン!バシーン!と言う音が耳へ飛び込んで来た。
どうやらアモーンの奴がリングで受け身を取っとるみたいや…気合い十分やのぅ♪
俺も負けじと気合いを入れる為、自分の頬をパンパンと叩いてから道場の扉を開いた。
「遅ぇぞコノヤローッ!自分から誘っときながら遅れて来るたぁ上等やんけ、テメエ…宮本武蔵気取りか?」
入るなり浴びせられたアモーンの怒声。
道場の時計に目をやると、なるほど確かに2時を5分ほど過ぎてしもてる…
「おう…すまんすまん。これは確かに俺が悪いわな…お詫びにコレやるからよ、そないウホウホ言わんといてくれや♪」
俺は朝食用に買っといたバナナを1本、奴の眼前に差し出したんや。
え?何でかって?
だってコイツ…ゴリラだらけの寮の中でも、ズバ抜けてゴリラなんだもの。
なんや島井の事を思い出す程に…
そんな訳で島井と山田のゴリブラザーズに続く、3匹目のゴリラ発見!
近々、島井の奴にもLINEで教えたろっと♪
「要るかアホッ!!」
アモーンが俺の手を叩いたせいでバナナがリング上に落ちる。
一瞬、バツが悪そうに立ち尽くしたアモーンやけど、直ぐにそれを拾うと皮を剥いてモシャモシャと食べ始めた。
「いや、食うんかいっ!!」
「だって…バナナに罪は無えし、食い物は粗末にすんなって母ちゃんにもうるさく言われてたしよ…」
お、おぅ…見掛けによらず素直なのね…君…
奴は残った皮をゴミ箱へポイッと投げると
「おまたせ♪さあ闘ろかっ!?」
そう言って気を吐いた。
あのぅ…闘る気満々のところ申し訳ないんやけど…
「あのよ…今放り投げたバナナの皮、ゴミ箱に入ってないんやけど?」
「へっ!?」
慌ててリングを下りたアモーン、そのままゴミ箱に捨て直すのかと思いきや、何故かバナナの皮を手に再びリングに戻って来た。
「いやいや…なんで捨てんと持って来てんのん?ハッ!さてはお前…それすらも後で食べる気やなっ!?」
「食うかいっ!」
「いや、照れんで宜し♪」
「照れてへんわっ!…ったく」
「じゃあ何で持って戻ったんな?」
「分かりきった事を訊くな…格好よく投げて入れる為やんけっ!」
ズルッと肩を落とした俺を尻目に、再びポイッと放り投げたアモーン…
「あれ?っかしいなぁ…」
またも皮を手に戻り、ゴミ箱目掛けてポイッ!
「ん~…どないも調子が悪ぃなぁ?」
首をかしげてリングを下りる…
「もうええわっ!アホゴリラッ!不器用ゴリラッ!ノーコンゴリラッ!!」
痺れを切らした俺はそう叫ぶと、奴より先に皮を拾ってリングへと戻ったったった(あ…〝た〟が1個多いな(汗))
「なんでお前が拾ってんねん…」
「やかましいっ!そこで黙って見とれっ!!」
不服そうなアモーンを一喝して制すると、俺も無造作にバナナの皮をポイッ!
すると綺麗な放物線を描きながら1発でゴミ箱へIN!
「シャアコラッ!見ぃ~たかぁ~ご先祖様よっ!?所詮ゴリラは進化した人間様には勝てんっちゅう事っちゃ♪」
勝ち誇る俺を恨めしそうに見やったアモーン…
「ワレ…こんな勝負する為に俺を呼び出したんかい?」
あ、それもそうね…ほんならそろそろ本題に入りますか…ハハハ
「いや悪ぃ…てか、何で俺が謝ってんねんっ!お前が余りに下手っぴやから悪いんやんけっ!!」
「やかましいわっ!!で、ルールはどないすんねんっ!?」
え~…完全に逆ギレですやん…
少し引きながらも俺は問いに答える。
「お前が奥堂コーチと闘ったあの時と同じでええやろ。とりあえずオープンフィンガーグローブとレガースは着けようや?」
「委細承知っ!」
グローブとレガースを着用し終え、改めてリング上で対峙する…
俺達を包む空気が一気に張り詰めた。
レスリングや空手の実績、奥堂コーチとの闘いぶりを見ても、現時点で俺達の中では実力がズバ抜けてるのはコイツやろう…
かと言って胸を借りるなんてつもりはサラサラ無いっ!
今の俺を有りったけぶつけて、闘いの中でオリジナル技を開発するヒントを掴んだるっ!!
そんな想いが顔に出て、自然と笑みが浮かんでまう。
それを見たアモーンが不愉快そうにこない言いよった…
「えらい嬉しそうやのぅ…せやけどな1つ言うとくぞっ!さっきのアレ…あんなんで勝ったとは思わん事やっ!!」
え~…めっちゃ根に持ってますやん…




