久々のシュートサイン
梶原さんの指導を受け始めてから随分経ち、そりゃもう身体中の関節という関節を極められまくったわ…
でもその分、収穫もデカかった。
〝え?そんな入り方ありますのんっ!?〟
〝マジか…こんな極め方がっ!?〟
そんな驚きの連続で、ほんまに勉強なったわ。
プロレスの世界では地味な扱いになりがちな関節技やけど、当然ながら旨みや面白さも勿論ある。
それは、アレンジ次第でバリエーションが無限に増える事と、工夫してオリジナルの技を作れるって事や。
特に違う技同士を複合しての必殺技ってのが多いよな。
チキンウイングフェイスロック然り、STF 然り…
リングスロシアに所属してたヴォルク・ハン選手なんか、技への入り方も極め方もバリエーションが豊富過ぎて、見てるこっちが訳わからへんかったもんな…
まさに〝人間知恵の輪〟って感じで〝関節技の魔術師〟の異名に恥じへん物やった。
まぁ講釈が長くなってしもたけど、何が言いたいかってぇと…
デビュー戦をオリジナルのフィニッシュ技で飾りたいって事やっ!それも関節技のなっ!!
とは言ってみた物の…そうそう簡単に出来上がる訳も無く、試行錯誤の真っ最中やねんけども…
梶原さんとの練習中にも
「この技の最中にここをこうすれば、こっちも極るんじゃないっスかね?」
とか…
「この入り方をフェイントにして、こっちとこっちを極めるってのはどうっスか?」
なんて事を提案してみたりもしたんやけど、その都度返ってきた言葉は…
「駆け出しのひよっ子がオリジナルの技ぁ作ろうなんざ2万年早ぇんだよっ!そういうのは基礎があってこそだあ…今は基本技を身体に染み込ませる事に集中せえっ!!」
はい…ごもっともっス…
でもやっぱ諦めきれないってか…考えるだけ考えといても損は無いよね?ハハハ…
打撃ではオリジナル技の変形ラリアット〝村雨〟があるけど、寝技のオリジナルもあれば2本柱で盤石やん?
あ…そんなん言うてたら、投げ技のオリジナルも考えたくなってきた…
いやっ!アカンアカンッ!!
欲張ったらキリがあらへんっ!
先ずは関節技のオリジナルだけ考えようっ!
まぁ…梶原さんには怒られるかもしれんけども…
そうやって研究の為にサンボやら修斗やらのDVDを観漁る日々を過ごしてると、ついにデビュー戦の組み合わせが決まったんや。
その組み合わせは…
第1試合でティラノvsトリケラ。
早くも恐竜対決が公式で実現って訳やなっ!
て事は…
つまり第2試合で俺がモリスエと闘るって事や。
こないだも言うたけど、モリスエの奴は何やら陰でコソコソと練習しとるみたいや…
デビュー後暫くは基本技しか使ったらアカンて言われとるにも拘わらず、奴が入門当時から言うとった〝ルチャと空手の融合〟ってのを色々と試しとるらしい。
きっと会社に怒られるのも覚悟の上で、デビュー戦でそれを使って来るつもりやと思う…
そうなったら俺も応えん訳にはいかんやろ?
同期に負けてられっかてのっ!
会社に怒られる…それがなんぼのもんやねんっ!!
俺もデビュー戦までに、何としてでもオリジナル技を完成させたるわいなっ!!
そんな覚悟と決意のもと、俺はあの男に声をかけた。
「よう…ちぃ~と面貸してくんね?」
「あん?」
不機嫌そうに答えたのは、奥堂コーチと互角に闘った実力者にして1番年上の同期…川瀬 亜門。
因みに最近は〝アモーン〟というアダ名が定着しつつある。
「いきなり面貸せたぁ穏やかや無いやんけ…いつもの練習相手を頼むってのとは訳が違うみてぇだな…ああ?」
流石はアモーン…御察しがよろしいようで、いきなりケンカ腰での御返答♪
その方がこっちもやりやすくて助かりますぅ♪
「応よ…今回頼むんは練習相手や無い。今夜2時頃、道場へ来てくれや…」
「ま、訊かんでもわかるけど一応訊いとく…用件は?」
「川瀬 亜門…お前に立ち合いを申し込むっ!」
「ほぅ…ええ度胸やんけ。せやけど今回は高ぅつくでぇ?缶ジュース程度や済まへんと思うとけよ…下手すりゃデビュー戦もオジャンになるかも…な?」
「覚悟の上や…まぁそうはならへんと思うけどな♪」
「大した自信やのぅ…ま、ええやろ。その申し出、正式に受けたるわ。ただし…」
「ああ…解っとる。手加減も恨みっこも無しやっ!」
奴へ向け俺なりのシュートサイン、右手の中指を立てながら言うたんや。
(く~っ!ずっとコレやりたかったんよ♪
〝中指 立てたら〟ってタイトルやのに、これやるの久々なんだもの…)




