表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
中指 立てたら  作者: 福島崇史
81/248

道場チャンピオン

最初に言っておこう…

俺達は興奮してるっ!

何故なら、ついに待ちわびてた時が近付いて来たんやからっ!

そうっ!俺達のデビューの日程が決まったんやっ!!

残念ながら、遅れて入門した川瀬の奴はあと半年お預けやけど…

それでも俺、ティラノ、トリケラ、モリスエは誰1人欠ける事無く、一緒にデビュー出来るのが何より嬉しいっ!!


デビューは約2ヶ月後の6月29日。

神戸サンボーホールでの興行!

今、俺達は来るべきその日に向けて追い込みをかけてる所や♪

今までも同期の連中はライバルには違い無かった…せやけどこっからが本当のライバルなんやと思う。

こっからが本当のスタートラインッ!

今後は純粋に競争相手やからな…気合い入れなっ!


当初の希望通り、ティラノはデスマッチ路線…

トリケラはストロングスタイル…

モリスエはルチャ・リブレ…

そして俺は格闘系+ストロングスタイルの道を歩む事になりそうやねんけど、デビューから暫くは試合での派手な技の使用は禁じられとる。

前座の間の俺達は〝若武者〟と呼ばれ、本当に基本的な技のみで勝負せなアカン。

なんせトップロープやコーナーポストに登る事も許されてへんねんから…なかなかに厳しいで。


そして…

デビューして数ヶ月、前座の試合を重ねると最初の出世チャンスがやってくる…

それが〝若武者杯〟やっ!

これは若武者だけで行われる、総当たりのリーグ戦。その頃には川瀬もデビューしてるし、恐らくこれにも参加する事やろう。

なんにせよ、これで優勝出来れば嫌でも注目される。

せやけど、ただ単に勝ってもアカンッ!

闘い方、勝ち方も重視されるのがプロレスってもんやっ!

目の肥えた観客を唸らせ、満足させ、その上で勝つ…これが人気レスラーへの最短距離やと俺は思ってる。

とにかく、しょっぱい試合だけはせぇへん様にせな…な。


面白いもんでデビューが決まってからの俺達は、関係性が少しぎこちなくなってる…

そりゃそうやわな、お互いを意識するなって方が無理な話やわ。

特にティラノの奴は思いっ切りナーバスなってて、誰に対してもピリピリしとる。

可哀想なんは川瀬やわな…

1人だけデビューが遅れるっちゅうのに、周囲の俺達はどこかピリついてて、距離感が難しいらしく戸惑ってるみたいや。


それと…モリスエの様子が少しおかしい。

さっきも言うた通り、基本技以外の使用は禁じられとるってのに、ダミー人形を相手に何やら色んな技を試しとる…

アイツ…何やら企んどるな。

後で怒られても知~らないっ!


え?トリケラはどうしとるんやって?

アイツは相変わらずクールでな…今までとさほど変わった様子はあらへんわ。

てか…元々感情の起伏があまり無いからな、俺達の中でアイツが1番掴み所あらへん感じ。


それともう1つ。

俺達の日常で1番変わった事がある。

それは…お互いに組んでスパーリングをする事が無くなった事や。

その分、川瀬が皆の相手をする事が増えてしもて


「お前ら、相手したるけど後でジュース奢れよ」


と、生意気にも条件を出して来よった。

でもそのせいで冷蔵庫に収まり切らず、部屋のベッドにまで缶ジュースが溢れてるわ。

毎晩、缶ジュースを抱いて寝てんねやで?

笑えるやろ…ハハハッ!


そんな中、俺はある先輩に稽古をつけて貰う様になったんや。

その先輩とは、他団体でデビューしてレスラー歴20年の大ベテラン…

梶原(かしわら) 喜照(よしてる)さん。

関節技が得意なもんやから〝華〟が無く、メインイベンターになる事は無かったけど、いぶし銀の渋さでコアなファンを確保してはる。

それに…何より強いっ!!

ガチの実力では団体NO.1や。

いわゆる〝道場チャンピオン〟てやつやな。

この辺がプロレスの特殊なところで、1番強いからってトップ選手にはなられへんって事…なかなかに難しい部分よなぁ…

やっぱ地味な関節技でばっか勝ってても人気に火はつかへん。

さっきも言うた様に、魅せる試合をして観客を唸らせんと、なんぼ強ぅてもアカンて事よな…


え?なら(なん)でそんな人に教えを乞うんやって?

それは…道場内で梶原さんが〝梶原塾〟ってのを開いててな、多くの先輩レスラーも梶原さんの教えを受けてるねん。

そして、梶原さんの教え子の多くが人気レスラーとして〝出世〟しとるんや。

だから何度〝門前払い〟されても頭を下げてな、最近になってようやく入塾を許されたんよ。このチャンスを逃す訳にはいかへんやろ?

お?噂をすれば…ってやつや。

梶原さんが来はった♪


「おはようございますっ!今日も御指導お願いします梶原(かじわら)さんっ!!」


「オメェ…何回言やぁわかんだ?オイラァかじわらじゃねえっ!濁らず、かしわらだっ!!」


「あ…すいません…言いにくいもんで…つい」


答えた俺を横目でジロリと睨んだ梶原さん。


「ケッ!オイラにそんな口叩くたぁ大したタマだよオメェはよ。今日も手加減無しでシゴっからよ…覚悟は出来てっか?ひよっこ!?」


「押忍っ!宜しくお願いしまっスッ!!」


この台詞を最後に、2分後には悲鳴を連続する羽目になる…

今日も〝関節地獄〟が始まった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ