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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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ヲタ哀歌(エレジー)

これまでコーチ陣や同期の仲間達、そして諸先輩方の事をエピソードを交えながら紹介して来たけど、あと1人…この寮には先輩がおるんや。


その人は入門3年目…つまり俺達より2年先輩やねんけど、少々変わった人でなぁ…合同練習と食事の時以外は殆んど部屋から出て来ぇへんのよ。

だから当然やけど、俺達はもちろん他の先輩方ですら

〝アイツの事は、よ~わからん〟

との事…

そりゃそうやわな…交流が無いんやもの。


その人の名はヲータ・秋葉(あきば)

言わんでも判るやろけど…もちろんリングネームやで。まぁ本名が大田(おおた) (あきら)やから、遠からず…って感じやねんけどなハハハ…

因みにやけど、俺達が入門するまではこの人が1番下やったんよ。

というのも…去年入った連中は、練習に耐えられず2人共逃げてしもたらしいわ。

まったくもって情けない話やで…

おっと、話が逸れてしもたな。


で…この秋葉さん、名前からも判る通りにヲタクをモチーフに活躍してるんやけども、実はコレがモチーフや無いのよね…

実生活でもガチのヲタなんよ。

いつもリングに上がる時はアニメのTシャツを着てはるんやけど、これは普通に私服やし…

部屋は萌え系アニメのポスターやフィギュアでギッシリ!

で、いっつも部屋ではアニメ観るかゲームをしてはるらしい。

前に1度、食事の時に訊いた事があるんよ…


「秋葉さんは(なん)でプロレスラーになろうと思ったんですか?」


すると間も置かず呟く様に答えはった…


「ん…ヲタはナメられるんでね、ヤンキーに絡まれた時の為にも…そんな感じ」


え…それだけの為?

そん時はそうも思ったけど、冷静に考えたらそれだけの為にキッツイ練習にも耐えて残ってはるんやから凄いよな…実際、秋葉さんと一緒に入った同期も誰1人残って無いんやからさ。

闘志やら感情やらを表に出さへんだけで、実は内に秘めたモノはクッソ熱いんかもな。

そんな人やねんけども…モリスエとは異様に気が合うらしく、しょっちゅう一緒にゲームしてはるわ。

モリスエもなかなかのヲタやからねぇ…ハハハ


そんな秋葉さん、格闘技どころかスポーツ経験すら皆無やねんけど…天武の才があるらしく、入門3年目にして近々メインに大抜擢されるらしい。

というのも…世のヲタ達の間で人気に火がついて、今や希望の星みたいに扱われちゃってる訳。

そんなんやから秋葉さんの試合がある会場は、パッと見ぃ〝コミケ〟みたいな雰囲気になってる。

え?女性人気?

訊くなっ!…訊かずに察しろっ!!

俺の口からはそれしか言えんわ…


タイトルが賭かって無いとは言えメインが決まったもんやから、流石の秋葉さんでも気合いが入ったらしく


「暫く研究に没頭するから…」


そうモリスエに告げたらしい。


メインで闘うのは前回話した〝プリン事件 〟の主犯の1人であり、シュートプロレスの雄と呼ばれる新崎(しんざき) 鉄舟(てっしゅう)先輩。

今のセレクトで人気を二分する2人の対決って訳や。

せやけど、ガチの格闘プロレスを使う新崎先輩と、コミック系に近いキャラレスラーの秋葉先輩…上手く噛み合うんやろか?

そもそも研究って、何をどない研究しはるんやろか?

それが気になった俺達は、モリスエへと極秘任務を与えたんや。


〝うまい事言うて秋葉先輩の部屋へ潜入し、研究とやらの内容を調査せよっ!〟

(BGMはミッションインポッシブルでオナシャス)


「了解っス!!」


俺達に敬礼をし、意気揚々と先輩の部屋へと向かうモリスエ。

その手には土産代わりに、萌え系アニメのポスターが握られとった。

かっこええでモリスエ…

その姿、俺達にはアサルトライフルを握り戦場へ向かう兵士にしか見えへん…

頼んだで…モリスエ…

俺達はその背を見送りながら敬礼を返したんや。


モリスエが戻って来たのは3時間後の事やった。

やつれた顔からも疲労困憊ぶりが窺える…

さぞ大変な任務やったんやろぅ…

よくやった!よくやったで!モリスエッ!!

俺達は奴を囲み、その苦労を労ったんや。

そして…


「で、どうやったんや?」


ついに川瀬が真相に迫ったんや。

俺達全員の唾を飲む音が響く…

するとモリスエ、息も絶え絶えに…


「あの人…異常っスよ…頭おかしいとしか思えないっス…」


ほぅ…それ程までに熱の入った研究&練習を…?

しかも対戦相手の新崎先輩に見られぬ様、道場でしない所に本気度が窺えるで…

そう考えた次の瞬間、モリスエから語られた真相はとても信じられへん物やった。


「あの人、プロレスゲームのファイプロで自分と新崎さんをエディットしたんスよ…見た目はもちろん、身長・体重・体力数値・使う技からアピールまで事細かに…

んで3時間、作ったキャラ同士をず~~~っと闘わせてるんス…一切操作せず、観戦モードを使って3時間ず~~~っとっスよ?信じられないっス…」


へ…?

俺達は言葉を失った…

しかし我に返ったトリケラが質問を重ねたんや。


「そ、その3時間…お前は何をしてたんだ?」


深い溜め息を吐き出してからモリスエが答える…


「見てただけっス…3時間…ただ横で…じ~っと見てただけっス…しかも3時間、一切無言のまま…マジ地獄っス…」


「……」


返す言葉が見つからない。


「そんであの人、20~30試合くらいはやったと思うんスけど…全部記録してるんスよ…試合展開はもちろん、試合時間から決まり手まで事細かに…」


「で…秋葉さんの勝率はどないやったんや…?」


ティラノの奴が恐る恐る尋ねる…


「ゼロっス…全敗っス…しかも殆んどが秒殺っス…打撃でのクリティカル、関節技でのクリティカル…もう見てられなかったっス…あ、思い出したら吐きそうなって来た…ちょっとトイレ行って来るっス…」


ヨロヨロと覚束無い足取りでトイレへ向かう歴戦の帰還兵…

俺達はその背を再び敬礼で見送ったんや。


それから2週間後、新崎先輩vs秋葉先輩の一戦は行われた…え?結果?

訊くなっ!…訊かずに察しろっ!!


……………〝23秒、右ハイキックからの体固めで新崎先輩の勝ちっス〟


あ…モリスエ!言いやがったなコノヤローッ!!







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