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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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奥堂の回顧録

構え直した奥堂コーチを見て川瀬の奴が唸った。


「ほぅ…オッサンレスリングの経験があるんかいや?」


「オッサンレスリングって繋げて言うなやっ!胡散臭い競技みたいやんけっ!オッサンとレスリングの間に句読点入れて区切らんかいっ!!」


「いや…それは俺に言わんと腐れ作者に言えや…」


「ん…まぁ…それもそうやのぅ…」


バツが悪そうに鼻先をポリポリと掻く奥堂コーチ。(俺もバツが悪くて頭を掻いてます…作者談)


「で、レスリングの経験あるんかって訊いとんやけど?」


改めて訊き直した川瀬に対し、奥堂コーチがフフンッと鼻を鳴らした。それもえらい得意気に。


「兄ちゃん、今いくつやったかいな?」


「…23歳やが、それが?」


「そうかぁ~、なら知らんでもしゃあないかなぁ~…うん、しゃあないわなぁ~」


コーチが照れたような仕草でモジモジしてはる…

控え目に言って気持ち悪い。


「なんやオッサン…なんか言いたそうやのぅ?勿体ぶらんと、とっとと話せやっ!」


「あ、そう?やっぱ気になる?俺の栄えある過去…やっぱ聞きたい?」


「…いや、やっぱええわ…」


「なんでじゃっ!聞いたらんかいっ!!」


「ったく…面倒くさいオッサンやのぅ…なんやねん?」


ここで1度咳払いをした奥堂コーチ、満面の笑みで声高らかに歌うようにして語り始めた。

あのぅ…試合中なんですけど…?


「あれは1988年の事やったっ!栄光のソウルオリンピックッ!!レスリング・フリースタイルの強化選手に抜擢されてだねぇ♪」


あ、これ…長くなるやつや…

この危機感、川瀬の奴も感じ取ったんやろな…

耳を小指でほじりながら訊きよったわ。


「オッサン…その話、長ぁなるんか?」


「ん?いや、30分もあれば話し終わるが?」


「さ、30っ…んなもん聞いとれるかいっ!試合中に30分も話すアホがどこにおんねんっ!ギュ~ッて縮めて話さんかいっ!!」


川瀬が顔を皺くちゃにしながら、両手で何かを潰す様なジェスチャーをして叫んだ。


「チッ!しゃあないのぅ…ったく、最近の若いもんは辛抱が足りんでイカン。ま、確かに試合中やし、ダイジェスト版にまとめて話したるわいっ!」


それから奥堂コーチは過去の栄光を語り始めた。

オリンピックに向けどれだけ厳しい練習をこなしたか…

周囲からどれ程に期待されとったか…

それはそうと…

もう15分も経過してますがっ!?

いつの間にか意識を取り戻してたティラノが、俺の横に来て呟いた…


「なぁ…俺達…何を見せられてんのやろぅか…?」


「ほんまになぁ…これじゃ格闘の勉強やなくて、喋りの勉強やで…」


答えてからふと横を見てみると…

トリケラとモリスエは立ったまま船を漕いではったわ…ハハハ

そして当の川瀬もついに痺れを切らし…


「もうええわいっ!いつまで喋っとんねんっ!!アレ見てみぃっ!オッサンの話が長いさかい弟子も寝てしもてるやんけっ!!」


「なっ!?クォルァッ!!お前ら何を寝てくれとんねやっ!!虎池と喜界、お前ら後でスクワット1000回じゃっ!!あ、寺野、おはよ♪」


…こ、この人…なかなかの情緒不安定やな…

噂に聞く〝男の更年期〟ってやつやろか…?


「でっ!結局オッサンはその大昔のオリンピックにレスリング代表で出たって話がしたかったんやろっ!?そこまで話したがってんからメダルくらいは獲ったんやろなっ!?何色のメダルやねんっ!?」


「それがそのぅ…」


おっと?ここに来て饒舌にブレーキが…?

なんや嫌な予感しかせぇへんのぅ…


「最終選考会で膝の靭帯切っちゃって…オリンピック出れんかったのよね…テヘッ♪」


()けた…派手に()けた…

俺達は勿論、川瀬までが一緒に()けた…

そりゃもう新喜劇も真っ青なほど一斉に()けたともさ…

ロープに寄りかかりながら立ち上がった川瀬、顔を真っ赤にしながら叫びよった。


「ざっけんなよオッサンッ!!この20分ばかしは(なん)やってんっ!!あげくの果てに〝テヘッ♪〟やとっ!?

も~許さねぇっ!茶番は(しま)いじゃっ!!ブッ殺すっ!!!」


いや、ごもっとも…

アカンと思いながらも俺達は、心の中で少し川瀬を応援し始めてたりする…


川瀬が鬼の形相で構え直した。

対する奥堂コーチも構え直しながら…


「ご静聴ありがとうございました…さて!仕切り直しと行こかぁっ♪」


川瀬も含めた俺達の心の声は、奇跡のゴスペルの如くハモっていた…


〝どの口が言うっ!!!〟





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