肉のマフラー
(あ…俺、浮いてる…)
快感にも似た不思議な感覚…
でもそれは一瞬だけで、直後には体内に残った空気を根こそぎ吐き出す羽目になっとった。
「カハァッ!……」
これは俺のミスやった…
俺がガードする為に上げてた腕、島井はガラ空きになっとるその脇に手を差し込み、反り投げの要領で投げたらしい。
「勇っ!!」
柔の声が届いたけど、無様に口をパクパクさせとる俺に応えとる余裕なんかあらへん。
島井の奴も勝負ありと思ったんやろな…
ダメージを量るように一瞬だけ俺を見下ろすと、追撃もせんまま背中を向けて柔に話し掛けよった。
「これで終いや…文句あるか?洒落た兄ちゃんよ?」
「いや、文句なんかねぇよ。ただ…」
「ただ…何じゃい!?ハッキリしたれやっ!!」
「文句はねぇけど、ただ…これで終いってのは違うみてぇだぜ…ほれ」
促されるまま、柔の指差す方向に振り返った島井。この時のアイツの顔は傑作やった♪
まるで目の前のバナナが消えた時のゴリラそのものや。
え?いや…それくらい驚いてたって意味やねんけど…スマンな喩えが下手くそで…
とにかく、立ち上がった俺を信じられへん物を見る目で見てたっちゅう事や。
「ウソやろ…マジかワレ…」
「何を勝手に勝者気取っとるんや?まだ終わっとらへんどっ!」
「おとなしゅう寝ときゃええもんを…まだ投げられ足りへんみたいやのぅ…ワレ、マゾかいや?」
「ん、まぁ…どっちかっちゅうたらそうやな…って何を性癖晒させてくれとんねんっ!!」
「いや…ワシもまさかマジ答えするとは思わんやんけ…」
この応酬に柔も参戦
「勇、性癖も何もお前まだ童貞やん♪」
「やかましいわっこのヤリチン!お前までいらん事言うなっ!もう激オコやっ!こうなったら闘いにおいてはドSやっちゅうとこ見せたるわいっ!!」
小宇宙を燃やす俺を、2人の白い視線がブスブス刺しよる…
「いや、勝手に激オコなられても…なぁ?島井君」
「あぁ…自爆したコイツが悪いんやんけ…なぁ?柔君」
互いに呆れ顔で頷き合っとる…
やっぱ2人の間に何かが芽生え始めたみたいやな…
せやけど、そんなんどうでもええっ!
なんたって俺はさっきの攻防で奴の弱点を見つけたからなぁ♪
「コラッ!そこのゴリラッ!柔と友情を育んどる場合ちゃうどっ!!ちゃっちゃと続き始めよやないかっ!!」
「わかったわかった…そこまで言うならワレのマゾ気質、たっぷり満足させたろやないか♪」
「だから…闘いではドSやっちゅうねん…」
ブウたれながら構え直した俺に、島井は又も打撃で攻め込んで来よった。
(しめしめ…や♪)
俺はバックステップしながら「ある場所」へと奴を誘う。
相変わらずゴリラ君は、イノシシよろしく(ややこしいな)真っ直ぐに突っ込みながら左右のパンチをブン回して来よる。
(よっしゃ!作戦通りやっ!!)
「ある場所」に到着した俺は足を止めてガードを固めた。
「アホかっ!足止めんな勇!それじゃさっきと同じやんけっ!?」
(フフン♪まぁ見とけや柔…同じとちゃう事が直ぐにわかるから…よ)
そう思った直後や、再び島井は俺の左脇に右手を差し込みよった!
(来たっ!)
これを待ってた俺は、自分の心と身体に投げられる覚悟をさせる。
ふいに投げられるのと、わかった上で投げられるのでは全然ダメージがちゃうからな…
直ぐ様、浮遊感が俺を襲った。
さっきの反り投げとは違う…
島井は身体を捻り、巻き込む様にして俺を投げた。2人同時に地面へと倒れ込む。
いや…厳密には地面やない。
俺が奴を誘い込んだ場所…
それは砂場なんやから。
お陰で然したるダメージを受けずに済んだ。
これが又も地面やったら凌ぎ切れんかったかもな…
ほんでこっからが俺の見つけた奴の弱点ってやっちゃ!
柔道は綺麗に投げたらそこで勝負が決まる競技…
島井の奴も投げた後、一瞬やけど動きが止まるんや。投げ終えて安心してまう柔道家ならではの悪い癖やな。
俺に背を向ける形で油断しとる島井。
喩えるなら裸のねえちゃんが隣で寝てるようなもんや。
そんな「御馳走」を放っとく訳にはいかんやろ♪
…今度の喩えはそこそこ上手くね?
それはともかく…
俺は無防備に晒されとる奴のぶっとい首に、優しく肉のマフラーを巻いてやったんや。