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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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ディスタンス

「わかってる思うけど…ルールはバーリ・トゥードやで?」


そそぐちゃんが、両拳を頭の高さに上げながらそう言った。


「委細承知っ!」


俺も構えながら答える。

へ?難しい言葉を知ってるやんって?

バカにして貰っては困るね、こう見えてボカァ読書家なんだよチミ~(←10割が漫画。委細承知も男塾で月光が言ってて覚えた)


それはともかく…俺が勝つ為には彼女を捕まえる事が最優先や。

そこで俺がチョイスした構えは…

ピーカーブースタイル。

ピーカーブーってのは〝いないいないバア〟の事で、両拳を顔面の前で揃えてガードを固める形…マイク・タイソンや幕ノ内一歩が使ってた構えって言えば判りやすいかな?

これで頭を振りながら頭部への直撃だけは避ける…そんでもって、頭以外は好きなだけ打たせて隙あらば即座に捕まえるっ!

その為に両手は拳を握らずに、半開きの状態で構えを取った。


「へぇ…意外な構えで来たもんやな…」


そう呟いた彼女はオーソドックスなMMAの構え。

クラウチングとアップライトの中間くらいの感じで軽快なステップを踏んでいる。

なかなかどうして、流石は〝バーサーカー〟や…

構えも堂に入ってはる。

そこから間合いを測りながら、時折鋭いジャブを突き刺して来る…

その様は、俺の周りを飛びながら猛毒の一撃を狙う〝キラービー〟さながらや。


しかぁ~しっ!

ピーカーブースタイルは前方からの攻撃には鉄壁やっ!!

顔の前に揃えられた両手が壁となり、毒針の侵入を許さ……許さ……

アレ?

俺、なんで片膝ついてるんやろ?


「ピーカーブースタイルとは無い頭で考えたみたいやけどなぁ、それは前面には強いけど側面からの攻撃には意外と脆いんや。実際、私が放った左フックはすんなり入った訳やしな。どや?勉強なったやろ?」


彼女を見上げながら俺は、足の感触を確かめる…

足首…大丈夫、力は入るっ!

膝…大丈夫、ちゃんと踏ん張れるっ!!

これなら大丈夫や、大したダメージやあらへん。

不意に喰らってしもたから身体が驚いただけや。


「へへへ…そりゃ御親切にどうも。せやけど甘いなぁそそぐちゃん。寝技も得意なんやろ?倒しといて何で攻めて来ぇへんねや?」


言いながら俺はゆっくりと立ち上がった。

それを小馬鹿にした様な笑みで見ていた彼女…


「勘違いせんときぃや…今の1打はピーカーブーの弱点を教える為のサービスショットや、私がその気やったら今の1発で終わってたんやで?

そんなサービスショットの後にとどめを刺しに行くような野暮…ようせんわ。

そんなんする位なら今のフックでキッチリ倒してるっちゅうねんっ!!」


半ば呆れたみたいに言いよった。

…嘗められたもんやで…


「なるほどねぇ…せやけどな、俺は技術を習う為にこの闘いを受けた訳とちゃうでぇ…それに今さっき約束したばっかりやろ?手加減は無し…って」


「へっ!パンチを使わへん奴がよう言うわっ!!アンタこそ手加減無しや言うんやったら、今からでもオープンフィンガーグローブ着けたらどないなんっ!?それとも何か?女を殴るんは怖いってか?嘗めんなっちゅうねんっ!!」


いや…もう軽くキレてますやん…


「殴るんが怖いんとちゃう。殴りたぁ無いから殴らへん…それだけの事や。それに…」


「それに?」


「パンチはプロレスの技とちゃうからな。

さっきも言うたやろ?俺はこの勝負、純粋なプロレス技だけで闘う…ってな。

俺は…俺はプロレスラーやからよ」


フッ…決まった…渋過ぎる…

我ながら酔ってしまいそうや…


「それを言うたら、猪木の〝ナックルアロー〟とか天龍の〝グーパンチ〟はどないなるんな?

え、もしかして…あの2人をディスったん?」


グッ…こ、この子…

俺がDVDやら貸したせいで、だいぶプロレスの事に詳しくなっちゃったみたいね…しかも昭和の。

なかなか痛い所を突いて来るやないの…

痛いから…その質問はスルーしてっ…と。


「さあ…続きを始めようか…」


構え直しながら俺は、なるだけ渋くそう呟いた。


「いやいや…待ちぃ~な。ちゃんと質問に答えんかいさぁ…ディスったんっ!?」


「……」


無言で構え続ける俺。


「ねえ、ディスったんっ!?」


「……」


「ねえってばさ…ディスったんっ!?」


に、逃がしてくれないのね(涙)


「い、いやディスった訳や無いけどもな、ほら…なんて言うか…その~…ほれっ!投げ技と関節技こそがプロレスの華やんっ!?だから顔面へのパンチはプロレス的に美しく無いって言うか…」


「て事は?」


「だから俺は使いたく無くて…ですね…」


「つまり?」


「えっと…ディスった…ディスったん…ス……ディスタンスッ!ハハハ…ハハ…ハ…」


「テメェ…ブッ殺すぞ…?」


「あ、さぁせん…はい…ディスりました…」


「宜しい。まどろっこしい事言わんと、最初からそう言えばええのに…ったく。まぁスッキリしたわっ!じゃ、続き始めよっか♪」


満足気な様子で構え直した彼女…

全ての面でペースを握られてるな…俺…

でもこれは俺にとって大切な闘いや、何があっても敗ける訳にはいかへんっ!

気持ちを入れかえた俺は、先ほどまでのピーカーブーとは違う型で構え直したんや。


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