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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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卒業(中編)

無事 (?)に卒業式を終えた俺と柔は、互いの親から貰った計2万円を手に街へと繰り出した。

2万円…俺達からしたら、もんの凄い大金や。


「さぁて勇くん…今からどうしますかねぇ♪」


「せやなぁ…ファミレスでも行って豪遊すっか?」


「かぁ~っ!お前の頭には〝女〟って言葉は無いんか?2万もあるんやぞっ!?安心してナンパ出来るっちゅうのに、何が悲しゅうて野郎2人でファミレス行かなアカンねんっ!猛省しろっ!アホッ!!」


「かぁ~っ!お前の頭には〝女〟って言葉しか無いんか?2万もあるんやぞっ!?ここは島井も呼び出して、一緒にワイワイ騒ごうとかって考えは浮かばんのかねっ!?」


「ん。ちっとも浮かばんっ!!」


「お前こそ猛省しろっ!バカチンッ!!」


やいのやいの言うてる間に板宿駅に到着…

やいのやいの言うてる間も、柔はスレ違う女の子を見る事だけは怠らへんかった。

本物やなコイツは…と感心しながらも俺は、ブーブー言って反対する柔を無視して島井へと電話を掛けた。

島井の通ってた滝山高校は、2日前に卒業式を済ましている。

もしかしたら進学先の国技館へ出稽古に行ってるかもしれへんけど、そうでなけりゃ暇をもてあましてるはずや。彼女もおらんのやから…ププッ♪


腹の中で笑いながらコール音を聴く。

その間、柔は手を合わせて拝みながら

〝出るなぁ~…出稽古行ってろ~…〟

と呪文の様に唱えとった。

いや、そこまで嫌かいっ!!

しかし柔の願いは届かず、5度目のコールで島井が出た。


「おうっ島井っ!今から何か予定あるか?

え?何も無い?まぁそうやろぅと思ったけどなハハハッ♪いやいや別に深い意味はあらへんよ。ほんなら30分後に新開地のROUND1で待ち合わせようや!

え?あぁ…金なら心配すんな、今日は俺が大蔵大臣やっ♪はっ!?今は財務大臣やろって…んな細かい事はええねんっ!とにかく30分後にな、ほな後でっ!」


島井が電話に出た時点で絶望の表情を浮かべた柔やけど、奴との待ち合わせが決定した時にはこの世の終わりみたいな雰囲気を醸しながら、地面で四つ這いになっとったわ。


「か、可愛い子ちゃんに奢るならいざ知らず…

お、俺達の金がゴリラの餌に…」


「柔、往生際悪いでっ!アイツもこないだ卒業したんやし俺達3人の卒業祝いやっ!

めでたい日にケチケチした事言いなさんな♪」


これでようやく立ち上がった柔…


「まぁ…そんな日もアリかのぅ…俺にとっちゃ身近に女が居る事の方が日常やし、今日くらい野郎だけで楽しむ非日常でも味わってみるかぁ…

あっ!悪ぃ…チェリーの君には解らんよねこんな気持ちは?これは失敬失敬♪」


俺は教わった通り〝村雨〟を奴の鎖骨へと叩き込むと、踞る柔を尻目に板宿駅の改札を通り抜けた。


約30分後、俺達は待ち合わせ場所に到着した。

どうやら島井は未だ来ていないらしい。

柔の奴がイライラした様子で言う。


「ったく!奢られる身でありながら俺達より後に来るとは何事かねぇ~…飼育員さんはあのゴリラにどういう教育をしとるんかな?まったくもってけしからんっ!」


「まぁまぁ…そない言うなや♪突然呼び出したんは俺達やし、ゴリラはゴリラなりに準備もあるんやろぅさ」


「勇っ!それはちゃうぞっ!呼び出したんはあくまでお前やぞっ!!俺達って部分に訂正を求めるっ!!」


「あぁ~はいはい…呼び出したんは俺です、俺個人です…これでええか?ったく面倒くさい奴やのぅ…」


なんてやり取りをしてる間に、その名の如く巨大な体躯が近付いて来た。

そう!島井 象山、その人であるっ!!

が…


「お、お前…なんの冗談や?その格好…」


「や、柔の言う通りやぞ…ふざけんのも大概にしたれや…」


「へ?何んの話や?」


キョトンとした島井だが、問題はその服装やっ!

まだまだ肌寒い季節やっちゅうのにアロハシャツに短パン…御丁寧に麦わら帽子まで被ってやがるっ!!


「へ?何んの話や?とちゃうわこのバカッ!

お前は何処の〝なぎら健壱〟やねんっ!!」


「柔っ!それはいくら何んでも〝なぎら健壱〟さんに悪いっ!これは…これは…ただの〝ハワイアン・ゴリラ〟やっ!!」


「せ、せやな…帰ったら〝なぎら健壱〟さんに謝罪の手紙でも書いとくわ…」


「お、お前らあぁぁ~っ……」


変な格好したゴリラが青筋浮かせて身を震わせとる。


「お、お前らあぁぁ~って、どの口が言うとるんじゃっ!怒るんはこっちやろがっ!そんな…そんな変な格好する為にお前は遅れて来たんか?そんな…そんな服を選ぶ為に準備の時間を使ったんかっ!?

だとしたら…だとしたら…

ビシッと言うたれ勇っ!!」


「ん。島井よ…正気ですか?」


これには流石の島井も意気消沈したらしく…


「そ、そんなに変か?この格好…」


「応。死ぬほど変や。出来る事なら今すぐ着替えに帰って欲しいほどに」


「中途半端に変なら俺達もイジって笑い倒せる…せやけどそれも出来ん位のマジもんって事や」


「な、なんやショックやのぅ…柔が一緒やからどうせナンパ行くんやろぅと思って張り切ったんやけどのぅ…」


「て、てめぇは2度と張り切るなっ!!」


「あえてもっかい言わせて貰う…正気ですか?」


「な、なんか…さぁせん…」


シュン太郎と化した島井に、柔がとどめのキツい一言…


「とりあえず…ツレと思われるのも心外やから、適度な距離を置いてくれる?」


「そ、そんな御無体なぁぁ~~っ」


島井の悲痛な叫びが尾をひく中、俺達の宴はROUND1のカラオケからスタートした。









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