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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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卒業 (前編)

ついにこの日がやって来てしもぅた…

我らが愛する母校、育友高校から巣立つこの日が。

そう…卒業式や。


ハッキリ言ってこの3年は、楽しい思い出しかあらへん…

だからこそ今日は、寂しいって感情しかあらへん…

それやのに…それやのにぃ~っ!!


「おい勇っ!あそこ見てみぃやっ!めっちゃ美人やんけ…誰のオカンやろか?おっ!?あっちのもなかなか♪いやぁ~素晴らしきかな卒業式っ!

こんな目の保養になるってのに、高校生活で1度しか参加出来へんとは…罪作りな1日やで…」


こ、こいつ…

自分の親と同年代であろうが〝女性〟は〝女性〟なんやな…ある意味凄ぇわ


「ならば柔よ…今からでも遅くない。先生に言うて卒業取り消して貰えや。そしたら来年もっかい出れるぞ?」


「ん~…それもアリっちゃあアリやな…」


「真顔で言うなや…半分本気なんが怖いわっ!」


「ハハハ…んな訳無いやろが…2割くらいは本気やけども♪それよりお前聞いたか?正大の奴、この卒業式を欠席しとるらしいでっ!」


「はぁっ!?3年もお世話になった学舎(まなびや)を去るっちゅうのに…罰当たりにも程があるやろそれっ!!で…その罰当たりは何処で何をしてるねんっ!?」


(それには僕が直接お答えしよう…君の言う通り、学校とは別名〝学舎(まなびや)〟…だが僕にはもうその場所から学ぶ事など何も無くなったのだよ。もはや次のステージに立つ僕が、そんな意味の無いメモリアル的イベントに参加する意義など皆無っ!…そういう訳さ、ご理解頂けたかな?)


ま、叉や…あ、頭に直接アイツの声が…

マ、マジかアイツ…マジもんのニュータイプなの?正大くん…それともエスパー?

考えれば考える程に怖くなるんで俺は掻き消す様に首を振ると、それからの数時間を卒業式に集中した。


………………数時間後………………


式の終わった俺達は、互いの両親も交えて校庭で写真を撮ったり談笑したり…

すると柔の父ちゃんが気を回してくれたのか…


「おうっ!せっかく卒業したんや…お前らも若いもん同士で羽伸ばしたいやろっ!?ワシらは先に帰っとくからよ、適当に遊んでから帰って来いやっ!ホレ♪」


そう言って俺達に、小遣いとして1万も置いてってくれた。

か、神や…

漢気(おとこぎ)の塊や…

なんであの人からこんなチャラいのが生まれたんやろか…?

そういう意味合いを込めてジッと柔を見つめてると…


「な、なんや…バレとったんかいや…いや、別に隠しとった訳や無くてやなぁ…」


と…訳のわからん事を言いながら、ポケットから何やら取り出して見せた。

しわくちゃのそれは、よく見るとさっきのとは別の1万円札っ!


「柔…それは?」


「へっ!?えっと…これを出せって意味でさっき睨んどったんと違うん?」


「いんや。ただ漢気(おとこぎ)溢れるあの父ちゃんから、何でお前みたいなチャラチャラした奴が生まれたんかいなぁ…と思ってただけや。

で、それは?」


「な、なんや…俺を騙したんかっ!?」


「……はい?訳のわからん事を言うとらんと、そのお金は何なんか説明せぇやっ!!」


ボソリボソリと力無く話し始めた柔によると…

俺が小便に行ってる間に俺の親父から渡された物らしい。

俺に渡しても素直に受け取らんやろぅからって…


うちの親父らしい無骨なやり方やなぁ、ありがとな親父…

さて、それはさて置き…や。


「柔くん…それ…本当に最初から出す気はあったのかな?」


ギクッ

「あ、当たり前やんけっ!!俺がそんなせせこましぃ真似する訳あらへんやろっ!?」


「えっとねぇ柔くん…今、君が喋る前にギクッって擬音が入ってたの気付いてるかな?

なんなら断崖絶壁に行って、火曜サスペンスのBGMでも流したろか?白状しやすいように…」


船越英○郎と化した俺が真犯人を問い詰めると、叉もや頭に直接声が響いた…


(僕はここから見ていたが…彼はそれを受け取ると、舌を出しながらポケットにしまっていたよ。自分の物にするつもりだったのは明らかだ…だよな?暮石くんっ!?)


どうやらこの声は柔にも聴こえていたらしく、あたふたしながら首を鳥の様にあちこちへと向けとった。


「ゆ、勇よ…俺…頭おかしゅうなったんかな…?

正大の声が頭の中で響いとるんやけども…」


「まぁお前の頭がおかしいのは否定せんけども、心配すんな…その声は俺にも聴こえとるから…」


と、答えながら俺自身も怖いんやけども…


すると観念したのか、柔の奴が〝土下座〟を超える〝土下寝〟のポーズに入った。


「す、すまんっ!勇っ!!あわよくば自分の小遣いにしようかと…ホラッ俺ってばお前と違ってモテるやん?だからデート代やらホテル代やら色々と物要りでよ…チェリーの君には理解し難い事だとは思うが、モテる男にはモテる男なりの悩みというのがだねぇ…」


「君は本当に詫びる君があるのかな?」


ボキッボキボキッ

ケン○ロウよろしく指を鳴らした俺は土下寝したままの柔の足の辺りに立ち、目にも止まらぬスピードで奴の足を折り畳みながら自分の足へと組み込む。

そして仕上げに柔の腕を手前に引きながら、奴の身体を仰向けに持ち上げたっ!

そうっ!獣神サンダーライガー直伝っ!!

必殺の吊り天井固めっ!所謂(いわゆる)ロメロ・スペシャルやっ!!!

あ、いつもの如く直伝ってのは嘘やけども…ハハハ


「ンギャアァァ~ッ!ごめんなさいぃぃ~~っ!!!」


俺達を見下ろす透き通る様な青空に、柔の後悔と自責と謝罪の叫びが大きくこだました。





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