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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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マジックミラーと電マ

「これが村雨じゃあぁぁ~っ!ガッツリ味わったれやあぁぁ~~っ!!」


とっぽい台詞を吐きながら、勇のアホが腕を水平に出しよったっ!

な、なんや…やっぱ只のラリアットなんか?

へ、ナメられたもんやのぅ…そんな技が俺に通じるかいやっ!

そんなもんは一旦クロスガードして動きを止めてやな…カウンターの脇固めで……

なっ!?

腕の軌道が変わった…やとっ!?

それに気付いた刹那、重い衝撃と鈍い痛みが俺の肩口を襲っとった…


なるほど…〝村雨〟とは良く言うたもんや…

横に出しとった腕をそこからピッチングフォームの様にして、上から降りかかる袈裟斬りみたいなラリアットへと軌道を変化させよった。

まさか縦回転のラリアットがあるなんて想像もつかなんだでぇ…


確かにこれなら普通のラリアットと違って衝撃の逃げ場があらへんからな、威力が無駄無く相手に伝わる…

実際に一瞬、身体がリングにメリ込んだかと錯覚した程やからなぁ…

お前が得意満面のドヤ顔を決め込んどるのも納得やでぇ…どうせアホなお前の事や、技を出した後に心の中で〝勝ったっ♪〟とかほざきよったんやろなぁ、ハハハ…容易に想像がつくわ♪

せやけどなぁ…この技には致命的な欠点があるでぇ…今からそれを教えたるわっ!!


…………………………


か、完璧や…完璧に決まったでぇ!

どや、俺の〝村雨〟は?

力の逃げ場があらへん上から下へのラリアット、それを渾身の力で叩き込んだったんやっ!

この体格差や、さぞ効いたやろがいっ!?

って…え…ちょ…アレ?


俺の自画自賛が終わるより先に視界の上下左右がグチャグチャになって、気付いた時には完璧な腕ひしぎ十字固めを極められとった…

場所はリング中央…いや…それ以前の問題や…

逃げる余裕もあらへん位の完璧な腕ひしぎ…

反射的に俺は柔の身体を数回タップしてしもうてたんや…

それと同時にけたたましく鳴り響くゴング。

俺が勝利を確信してから僅か10秒程の出来事やった…


技を解き、先に立ち上がった柔が俺に言う…


「惜しかったのぅ…勇よ」


「くっ…な、なんで…?」


「あぁ~…そっかそっか♪勝利の確信に酔っとったお前は、自分が何をされたかも解ってへんのやろな。よっしゃよっしゃ!今から先生がちゃんと教えたるさかいなぁ♪」


「…お前なんかが先生になったら世も末やけどな…とりあえず自分がどうやって敗けたか位は知っときたいから、不本意やけども教えられたるわい…」


「敗けた時くらいは減らず口叩くなや…まぁええわ、なら教えたる。お前の敗因は2つや…」


「2つ…」


「先ず1つ目…あの技、村雨は確かに威力はある…せやけど狙う場所が悪かったな。お前の前腕は俺の肩口に当たった。肩の筋肉は意外に太くて頑丈なもんや…狙うならココやココッ!肩の近くにはメチャクチャ脆い骨があるやろ?」


おどけた顔で柔が指差していたのは自分の鎖骨やった…


「あれがモロで鎖骨に決まってたら、勝負はひっくり返ってた…かもな」


「くっ…」


「ほんじゃあ2つ目の敗因…これがあの技の致命的な欠点やねんけどもな…聞く?」


「当たり前やろが…」


「じゃあ後で何か甘~いもん奢ってくれる?」


「な、なんで俺が…」


「ん?授業料やんけ。嫌なら別にええんやで…敗因もハッキリせず…気持ちもスッキリせず…モヤモヤしたまま…」


「わあった、わあった、わかりましたっ!!」


「ん、よろしい。では村雨の最大の欠点を教えましょう。それは…技の終わりに動きが完全に止まる事や。普通のラリアットなら腕を振り抜く事が出来るけど、縦方向のラリアット故に振り抜く事が出来ずお前の腕は俺の身体に密着した状態で動きが止まる…つまり一撃必殺で倒さん限りは反撃が必至って事やな…今回みたいに…ムフ♪

肩口にお前の腕があったもんやからよぅ…それを握って華麗にフワリと宙を舞う俺っ!まさに教科書通りの飛び付き腕十字でフィニッシュって訳よ~♪」


た、楽しそうだね柔くん…

なんやムカつくけども…

敗けたんは事実や…

ショックはショックやけど、それ以上に嬉しく思ってる俺も居た。

皆が〝アイツは強い〟って断言してる柔の実力…それを初めて体感出来たんやからな。

今はまだまだ差がある…

せやけど追い付けへん距離や無いっ!

次に()るのはお互いがもっとビッグになって、もっとデカい会場でやと思うけども、そん時は絶対に敗けへんっ!!


「ええっと…何度も言ってるんやけども…レフリーの俺が勝ち名乗りも終えてないのに、勝手に喋り過ぎではなかろうか君らは…?」


「あ…さぁせん…」


「す、すんません…」


朝倉さんが俺達の手首をグイと引っ張り、直ぐに片方だけを天へ掲げる…

勝者と敗者のコントラストが浮き出る残酷な時…

せやけど凹んでる暇はあらへんっ!

これが俺と柔の物語のスタートやねんからなっ!!


「お疲れ…惜しかったやん♪」


タオルを手にしたそそぐちゃんが、意図的に明るく話し掛けて来た。


「ん…やっぱ…やっぱアイツは強えよなぁ…悔しいのは悔しいけど、それと同じくらいに嬉しいわ」


「うん、私も驚いちゃったっ!ただの軽くて、チャラくて、エロいだけの奴と思ってたからさっ!」


「ハハハ…酷ぇ言いようだな」


するとこのやり取りを聞いていたらしく、柔のアホが会話に参戦して来よった。


「やっぱそういうイメージなのね俺…

どうにも誤解されがちなのよね俺…」


「いやいやっ!全然誤解とちゃいますがなっ!!」


「ならば勇くん…逆に問おう。

マジックミラー・電マ…と聞いたらどんなイメージを持つかね?」


「へ?…いや…まぁ…それは…」


そそぐちゃんに気を使って口ごもる俺…

な・の・にっ!そのそそぐちゃんが声を大にしてそれに答えるという謎展開…


「え、そんなの簡単♪AVじゃんっ!」


「ピンポーン♪そそぐちゃん正解っ!やっぱそうなるよねぇ?でもさ、よ~く考えてみてよ…マジックミラーも電マも本来はその為に作られた物じゃないよね?AVで使われ過ぎて、そのイメージが強くなり過ぎた…いわば被害者っ!!

何が言いたいかと言うと…俺もマジックミラーや電マと同じで、印象操作をされた被害者だって事さ…」


て、てめぇ…寂しそうな顔まで作って、もっともらしい事言いやがって…


「確かに女の子は好きだし、見た目もチャラいかも知れない…でもそれが俺の全てじゃあ無いっ!俺の本質はこうして真摯に〝武〟に向き合う1人の武士(もののふ)っ!それを世の人達に理解して欲しいだけなんだあぁぁ~~っ!」


オイオイ…台詞までが芝居がかってきてんぞてめぇ…


「そんな訳だからさ、そそぐちゃん…

俺の本質を理解してくれそうな可愛いお友達が居たら是非とも紹介してね♪」


結局そこかいっ!

んでもって、それを捨て台詞にリング下りるんかいっ!!


「試合直後だから我慢したけどさぁ…危うく私、バーサク・モードのスイッチが入るとこやったわ…」


「そそぐちゃん…今のは我慢せんでも良かったと思うで…俺も…恐らくここに居る全員が殺意しか沸いてないと思うもの…」


これに全員が無言で頷く。

それを見たそそぐちゃんの顔に凶暴な笑みが浮かんだ…

そして俺は未だ見ぬ再戦での勝利の誓いを固めながらも、柔が無事にこの場から帰れるのかを心配していた…



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