プロレス伝統の裏ワザ
脂汗を浮かべながら悶絶するゴリラ君。
「ングッ…ワレ…汚いマネ…しくさって…」
(おぅおぅ声も途切れ途切れやのぅ♪)
その様子をご機嫌に見下ろしてた俺に、柔が声を掛けて来た。
「お前…今、何したん?」
「ん?あぁ…昔からプロレス界に伝わる伝統の裏ワザでな…」
「裏…ワザ?」
俺はキョトンとしとる柔に向け、右手の親指を立てて見せた。
「なんやそのポーズ?もう勝ったつもりか?」
どうやら柔は、俺がグッジョブ的な意味で親指を立てたと勘違いしたらしい。
「ちゃうちゃうっ!わからんのかいな?鈍い奴っちゃなぁ…この親指をやなぁゴリラ君の肛門にズボッとイッてやったんやがな♪」
ニンマリ嗤う俺の前で柔がボソリと一言
「…エグッ」
「プロレスにもセメント(真剣勝負)用のエゲつない手が多々ある…これが殺し合いやったら目ん玉に突っ込んでたところや。ケツの穴で済んで感謝して欲しいくらいやわ」
キメ顔で言い終えた俺は、いまだ立てたままの自分の親指を見て人間の性が疼き始めた…
(クンカ…クンカ…)
「オエェ~~ッ!」
「アホかっ!臭いんわかってて何で嗅ぐねんっ!!」
柔の言うのは尤もや…せやけど嗅ぎとぅなるねんもん、しゃあないがな…
「いや、しかし…」
「いや、しかし…とちゃうわっ!ほんまもんのアホやなお前っ!!」
「いや、マジで臭いからちょっとお前も嗅いでみいって!!」
「いるかっ!ボケッ!!それ以上近付いたら俺がお前を殺すかんなっ!!」
俺は真顔で拒絶する柔を睨む。
「なんやつまらん奴っちゃなぁ…デカいウンコが出たり、デカい鼻くそが取れたら人に見せたぁなるやろ?アレと同んなじやんけ…」
「ならへんわっ!そんなんお前だけやっ!!」
「え…?そうなんっ!?みんながなるもんやと思てたわ…」
衝撃の事実を知った俺は、まだ足下で呻いている島井・ブサイクゴリラ・象山にも訊いてみる。
「見せたぁなるよなっ!?」
「……ワレ…この状況で…ようもそれをワシに訊けたのぅ…」
青筋を浮かせたゴリラが俺を睨んだ…
「…ですよねぇ…ゴメン」
素直に詫びた俺…偉い!
すると又も柔が声を飛ばす。
「おいっ!島井っ!!シャキッとせんかいっ!!チャッチャと立って、そこの腐れ外道をブチのめしたれっ!!」
さっき指を嗅がそうとしたん根に持ってるみたいやな…こまい奴っちゃで。
「あ!柔っ!お前そういう事言うんかいっ!?だいたいお前、さっきから口挟み過ぎやねんっ!レフリーならレフリーらしく黙って中立でおらんかいっ!!」
「誰がレフリーやねんアホ…俺は見届け人や」
そんな事を言うてる間に、回復したゴリラが立ち上がって来よった。
「チビ助ぇ~ようもやってくれたのぅ~…ワレ…ただでは済まさんからなぁ…今から地獄やどオラッ!!」
凄みながらも未だケツを手で擦っとるゴリラ君に俺は言ってやった。
「お?回復したみたいやな。せやけどあの技がお前に効いて良かったわ…正直不安やったんや」
「…あん?何んの話じゃい…?」
「いや…お前ブサイクやん?つまりモテへんやん?だからひょっとしたらアッチの組合の人で、ケツに物が入るのに慣れてるかも…なんて思ってな…いやぁほんま効いて良かった」
ここで又もや柔の奴が口を挟みよった
「黒タイツ一丁でゴリマッチョのケツに指を入れる…勇、お前の方がよっぽどアッチの組合員みたいやんけ?」
「やかましいわっ!お前は黙っとけって言うたばかりやろがっ!!」
両手を肩の高さで開いて見せた柔。
その表情は完全に俺を小バカにしてる…やっぱコイツは俺の敵だわ。
すると今度は島井の奴が口を開いた。
「よぉ…そこのドレッドの兄ちゃん…安心せぇや、さっきワレが言うたようにこのボケチビ今すぐブチのめしたるさかい…のぅ」
そう言った島井は、ブチブチと音が聴こえる程にキレているのが一目で判った。
「よっしゃ!んなら仕切り直しやなっ♪因みにダウンしとるお前に仕掛けんかったんはさっきのお礼や…お前が言うところのウェルカムサービス…やっけか?」
「上等…」
「さっ!楽しも…」
俺が言い終える前にゴリラが迫って来おった。
しかも柔道家とは思えん程にスピーディーな打撃技で…
左ジャブ2発!
ブロックはしたものの…重いっ!
そこらの奴のストレート並やっ!!
やっぱ体重差が響く。
さて反撃やっ!
そう思った俺の視界に、又もやデカい拳が映り込んだ。
今度は渾身の右ストレート!
こんなもんまともに喰らったら1発で昇天や…
俺は顔の前でしっかりと両腕をクロスさせた。
鉄壁のブロック、クロスガードやっ!
(当たらなければどうという事は無い)
byシャア・アズナブル
なんて事を考えたけど、どうという事ありますやんっ!!
ブロックしても腕が痺れる程の威力や!
シャアの嘘つきっ!!
こんなん何発もブロックしてたら腕が動かんようになる…
俺は一先ずバックステップで距離を取る事にした。
が…
そう考えた時にはもう、俺の身体は宙に浮いていたんや…