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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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オーエスッ!オーエスッ!

ようやく再開か…

勇の頭の悪い言動に付き合ったせいでグダグダなってしもたけど、気持ち入れ換えて行かんとな…

技術は間違い無く俺の方が上やけど、パワーとタフネスぶりは奴が上…ふんどし締め直さんとヤラれるのは俺になる…

えっと、残り時間は…はぁっ!?まだ1分半近くもあるんかいやっ!?

あ、合ってる?あの時計…サバ読んでんのとちゃう?

まぁええわ…ウダウダ言うてもしゃあない。

それに寝技に持ち込んだら1分半あれば仕留められるし…な。

ん?なんや勇、その不敵な笑みは?

やっぱ何やら仕組んでるって(ツラ)やな…

ええやろ…お前が何を企んでようと受け切ったろやないけっ!


「柔ぁっ!!」


(?)


「俺は決めたでぇっ!!」


(??)


「お前の飛び膝蹴りに敬意を表し、俺は俺の流儀であるプロレスの打撃…プロレスを代表する打撃技でお前を仕留めたるっ!覚悟したれやっ!!」


…あ、言っちゃうんだ…

自らあかして行くスタイルなのね…

コイツには企むもクソも無いな…

〝何を企んでようと受け切ったる!〟とか言っちゃったさっきまでの心の声が恥ずかしいやんけ…

フフフ…まぁお前らしいっちゃお前らしいけどな♪

なら俺も啖呵の1つでも返しておくとしますか…


「ほぅ~そりゃ楽しみやのぅ…何でも仕掛けてくりゃあええ、こっちはウェルカムや。ただし…これはプロレスや無い。それが俺に通用するかどうかは別の話やけど…な」


互いを怖い笑顔で睨み合う俺達に、レフリーの朝倉さんが俺達より怖い笑顔で参戦…


「さっき言ったよね…?試合中の私語は慎めって…」


「あ…」


「さぁせん…」


デカイ鼻息を吐き出した朝倉さんが、空気を裂くような気のこもった声で叫ぶ…


「ファイッ!!」


これに反応した勇が反射的に構え直す動きをした。


(かかった♪)

俺は構えもせずに、心の中で舌を出しながら一気に低空タックルを仕掛けたんやっ!

構えを取ろうとしたお前はその動作の分、反応が遅れるっ!そこら辺がお前の甘い所…やでっ!!


遅れながらも勇は下半身を後ろに引き、タックルをガブる動きに出て来よった。

へぇ…思ったよりええ反応やん。

でもな…残念ながら俺の狙いはお前の下半身を刈る事とちゃうんやっ!!


遠退く勇の足元で更に加速した俺は、そのままヘッドスライディングの要領で奴の股下を潜るっ!

勿論ただ潜った訳やあらへん…

潜りながら右手で奴の左足首を掴んでやったんやっ!!

掴みながら身体を半回転し仰向けに移行すると、

勇は前につんのめる様にして俯せに倒れた。

そして倒れ終わった時、奴の足首は俺の腕の中で異様な角度にネジ曲がってたんや。


「ンガァァァ~~ッッ!!」


勇が獣みたいな声を張り上げた。

痛いか?そりゃ痛いよな♪

こんだけガッチリと足首固(レッグロック)めが(きま)ったら…なぁ?

自分で言うのも(なん)やけど、完璧とも思える足首固めや♪

MMAでここまで綺麗に足関節が(きま)る事はそうそうあらへん…まさに会心の一撃!

それもこれも未熟な君のお陰や、礼を言わせて貰うで勇♪


「どした?勇くん…大層な大見得を切った割りには、そのプロレスを代表する打撃技とやらも出せずに終わりそうやないか!ええ?」


「ガァッ!…っけんな…ざけんな…ふざけんなっ!!」


お?腕立ての要領で上体を持ち上げた勇が、俺の身体ごとズリズリとロープへ這い始めた…

ったく大したパワー&タフネスやわ…

でもよ勇…お前、忘れてないか?

第1ラウンドはMMAルールや…

たとえロープまで逃げ延びたとしても、エスケープにはならへんのやぞ?


ズリズリ…

ジリジリ…

ズリズリ…

ジリジリ…


ミリ単位でロープへと近づいて行く…

こ、こいつ…?

もしかして…ただの本能か?

関節を極められたプロレスラーがロープへ逃げる…その本能だけでロープを目指しとるんか?

だとしたら君…それはもう生まれ故郷の河を目指す鮭と変わりませんやん…


ズリ…ズリズリ…

ジリ…ジリ…ジリジリ…


少しずつロープへ向かう速度が上がっとる…

こ、こいつバケモノか?

普通は体力の消耗と共に速度も落ちて行くもんやのに…

ん?…待てよ…落ちる…

ハッ!?

も、もしかしてこのアホ、俺ごとリング下に落ちる事を狙ってんのかっ!?

その衝撃で技を解こうと…?

そうや!絶対そうに違いないっ!!

だってアホの考えそうな事やもんっ!!!

いやっ!むしろアホにしか思いつかへん事やもんっ!!!!

こうなったら意地でも行かせへんっ!

俺も身体を蛇みたいにネジらせながら、勇とは逆の進行方向へ…


ジリジリ…勇が2ミリ進み

ズリ…俺が1ミリ戻す

やっぱ腕の力で進もうとする奴には敵わんか…

しかしコレ…端から見たら、勇の足を使った綱引きみたいやろな…


そして…2人で意地になって

〝オーエスッ!オーエスッ!〟

やってたら、ふいにラウンド終了を告げる鐘の音が響いた…

え?もう3分経ったの?

あの時計…サバ読んでない?

人間とは勝手なもんで、さっきとは逆の形で時計を疑う俺。


しかしルールはルールや…

俺は未練を残しながらも技を解くと、まだ立ち上がれん勇を見下ろしたまま…


「ゴングに救われたのぅ?これで次のラウンドでお前の言う技が出せそうやのぅ良かったやんけ♪」


わざと皮肉たっぷりに言ってやった。

すると奴は…


「相手の技を受け切った上でその相手を叩き潰す…それがプロレスラーやからなぁ、このラウンドはお前に見せ場を作ってやったんや♪

ま、次のラウンドは俺のターンやからな、プロレスを代表する打撃技にして俺なりのアレンジを加えたオリジナル技〝村雨〟がお前を沈める…請うご期待っ!!」


そう言いながら、産まれたての小鹿よろしく足を震わせながら立ち上がった。

それを見ながら俺は考えていた…


(村雨…やと?)


あ、勘違いせんとってやっ!

その村雨がどんな技か…とか考えてた訳とちゃうでっ!!

俺が考えてたんはただ1つ…


(いや…そのネーミング、中二が過ぎるやろよ…)



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