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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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当たり前田のキャプチュード

伝統のストロングスタイル…

名だたるトップレスラー達と同じ黒タイツ1枚の姿になった俺は、2度深呼吸をしてから更衣室のドアを開けた。

こっちを見る顔の中には未だニヤニヤが残っとる奴もおったけど、とりあえず爆笑の渦ってのは消え去っとった…一安心やわ。


「お?準備出来たみたいやな…ほんじゃ今回のルールを説明するから」


顔の痙攣も止まった朝倉さんに手招きされるままリングへと向かい、一礼をしてからロープを(くぐ)った。


「今回、勇君と闘いたいって柔に持ち掛けられてから色々と考えたんやけどな…正直、悩んだわ。MMAとプロレス…同じ総合格闘技とは言え、その性質は全くの別物やろ?

プロレスルールでやったなら、フリーロープエスケープやから柔の一番得意な関節技が殺されて柔に不利…かといってガチガチのMMAルールやと勇君の持ち味は活かせへん…そこでや…」


全員の息を飲む音が聴こえる程の静けさの中、俺達は朝倉さんが次に吐き出す言葉を待った…


「今回は〝ミックスルール〟にて闘ってもらう」


この言葉で場の半分がどよめき、残りの半分は頭上に〝?〟を浮かべてた。

そんな空気を読んでか、柔の奴が説明への前フリ的な言葉を吐く。


「ミ、ミックスルール…って…あのミックスルール…ですか?」


「あぁ…そうや」


「お互いの格闘技ルールを1ラウンド毎に交互に行うという、あの…あのミックスルールなんですねっ!!」


「せやっ!しかし柔…君は説明が上手やのぅ♪」


「いやぁ…へへへっ♪」


な、なんやこの寸劇紛いのやり取りは…?

芝居がかったって呼ぶのも烏滸(おこ)がましいレベルやんけ…

まあええわ…つまりはこういう事っちゃ。

仮にキックボクサーと柔道家が闘うとするなら、1ラウンド目をキックボクシングのルール、2ラウンド目を柔道のルール…って具合で交互に行う……訳やねんけども…これには1つ問題が…


「でもさぁ…それやったら1ラウンド目にルールが選ばれた方に有利とちゃうん?」


お?そそぐちゃんナイスッ!今まさに俺が言おうとした問題点を言ってくれるとはっ!

以心伝心だよねぇ♪

参ったなぁ♪

やっぱそうなっちゃうんだなぁ♪

運命的…っての?

結ばれる宿命…っての?へへへっ♪


「おい…ビッツ…私、今めっちゃ悪寒が走ってんけど…なんか良からぬ事を考えてたんとちゃうか?顔もニヤついとるし…めっちゃキショいんやけど…」


あのバーサーカーっぷりが嘘みたいに青ざめた顔で俺を睨むそそぐちゃん…

てかさ…正大といい、そそぐちゃんといい、なんでこうも人の心が読めるの?

俺の周囲ニュータイプだらけなんですけどっ!?

なんて事を思いつつ…


「いやいやっ!そんなんちゃうよっ!!ただ…俺が言おうとした問題点をそそぐちゃんが言ってくれたからさ、なんや嬉しゅうなってしもて…ハハハ…」


と、一部省略はしたけども正直に言っておいた。


「ふ~ん…まぁええわ、で…朝倉さん、()る張本人であるビッツもこない言うてるんやけど、そこはどないするんよ?」


そそぐちゃん…

もう俺の呼び名はビッツに確定なのですね…?


「確かにな…1ラウンド目にルールが選ばれた方が有利なんは否めへん…だからここは公平に…」


「ここは公平に?」


「コイントスやっ!」


流石は関西人!

その場にいた全員がズッコケる様な仕草を見せよった♪

壮大なフリからのボケじみたオチ…

そして全員でのズッコケ…

か、完璧や…完璧な流れや…


「コ、コイントスッ!?え、えらいアナログというか…クラシックというか…」


「でもよ、そそぐ…色んなスポーツで先攻後攻をコイントスで決めてるやろ?まぁアミダくじも捨て難かってんけどな…ハハハ…まぁそんな訳でコイントスに決定っ!

よしっ!柔、異存が無ければ裏か表か聞かせてくれや?」


「あぁ…じゃあ…おも」


「ちょっと待ったあぁぁぁ~~っ!!」


答えかけた柔を遮り、俺は思いっ切り叫んでた。


「なんや?ビッ…じゃなくて勇君?」


あ、朝倉さん…今、思い切り〝ビッツ〟って言いそうなりましたよね…?

まぁそれは置いといて…


「朝倉さんっ!コイントスの件、俺は異存ありっスッ!!」


「ほぅ…なら別の案があるって訳かな?それなら聞かせて貰おか…」


「いや、他の案なんて物もありませんっ!!」


「…はい?え~と…正気ですか?」


「正気も正気っスっ!だって考えてみて下さいよっ!俺は柔から挑まれたんスよ?ほんでもってそれを受けると決めた訳っスよ?ならば有利な先攻も奴に譲るのが王者の風格ってもんでしょうよっ!?」


「まぁ…うん…そうね…うん…」


「誰が王者やねんアホ…

でもよ、お前がそれでええっちゅうんなら俺はそれでええよ。ただし…1ラウンドで決まってしもても後で恨み言は無しやぞ?」


微妙な反応の朝倉さんを差し置いて、上等なセリフを抜かして来よった柔。

だから俺も…


「当たり前田のキャプチュードやってばよっ!」


再び中指を立てながら上等を返してやったんや。






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