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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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ビッツ

柔からの対戦要求…

受けて立つと決めたけど、何とも言えない違和感がある。

だって今までの俺は、自分から対戦要求する事が殆んどやったからさ…こうして挑まれる事に慣れて無いって言うか…こそばゆい感じで変な気分やわ。


しかもそれが親友とあれば尚更や。

昨日まで普通にバカ言い合って笑い合ってた奴と、今からドツキ合いをせなアカン…

何の心の準備も出来てないままに…

柔は…アイツは俺とこうする事を前々から決心してたはず…

ならアイツは…昨日、俺とどんな気持ちで接してたんやろぅか?

どんな気持ちで普段通りを演じてたんやろぅか?


闘う決心をしとった柔と、訳がわからんままに挑まれた俺…

そない考えたら、この対戦要求自体が〝不意討ち〟みたいなもんよな…

この時点で既にポイントを先取されてる気分やわ…


アカンアカンッ!

そんな事考えとる場合とちゃうっ!!

よしっ!愚痴るのはこれで終いやっ!!

事の流れはどうであれ、俺はアイツに中指立てたんやから。



「なんや勇…その格好でやるつもりか?

今日はいつもの戦闘スタイルならへんのかいや?」


柔に言われて自分の身体に目を這わせる…

確かに…

そう言えば今日は普通のトレーニングウェアやったな…

アカンッ!これじゃあ俺らしくあらへんっ!!


「んな訳あるかいっ!お前と()るのに正式な戦闘スタイルならへんなんざぁ失礼極まりないやろがっ!!」


威勢よく答えた俺は、その勢いのまま着ていたトレーニングウェアの上を脱ぎ捨てたっ!

あらわになった俺の上半身に

〝おぉ~〟っというどよめきがあがる。

クゥ~ッ…気持ちええ~♪

こういう時、鍛えといて良かったと心から思うのよね♪

よっしゃっ!程よく脳汁が出て来た所で、スクワットで鍛え上げた大腿筋とヒラメ筋もお目にかけて差し上げようやないかっ!!

気持ち良くなった俺は、上と同じ勢いで思いっ切り履いていた短パンとロングスパッツをまとめてずり下げたっ!


又もや〝おぉ~〟っというどよめき♪

………ん?

〝はぁ~…〟って溜息も混じってる…

あれ…?所々からクスクスと笑い声までも…


「おい…勇…まさかその格好で俺と()るなんて言わへんよな…?てか、お願いやから言わんとってくれ…」


何を言うてるんやコイツ…

お前がいつもの黒タイツ姿になれ言うたんやんけ?

だからこうして俺はやなぁ…

俺は…黒タイツに…

はて?黒タイツ…?

待てよ?

……………………っ!!

NO~~~~ッッ!!!!

俺、今日は黒タイツ履いてへんのやった!

いや…黒タイツどころか…

何も履いてへんのやったあぁぁぁ~~~っ!!!

その事に気付いた俺は、慌てて右手を股間へ左手を胸元へっ!


「いや…勇よ…普通、両手ともに股間やろ…

なんで胸まで隠しとんねん…」


「いや…なんとなく…乳首見られるのも恥ずかしい様な気になってしもぅて…」


「アホ…ええから早いとこそのずり下げたスパッツ上げんかいっ!ったく勝負前に小汚いもん見せよってっ!!皆にも謝れっ!!なんやったら高級ホテルの部屋借りきって正式な謝罪会見開きやがれっ!!」


ングッ…か、返す言葉があらへん…

せやけど、柔の言うのはもっともや…

他の連中はまだしも、ここにはそそぐちゃんが居る…年頃の女の子に突然股間を見せるなんて、露出魔の変質者と変わらへん事してしもぅた訳やしな…

俺はスパッツを履き直すと未だに笑い転げてる連中の方へ向き直り、気持ちだけはそそぐちゃんに向けて謝罪を…


「ほんまに申し訳ないっ!せっかく見届け人として来て貰っとるのに…こんなつまらん〝物〟を見届けさせてしもぅて…ほんまにほんまにごめんなさいっ!!」


すると…他の連中が未だに笑ってる中、そそぐちゃんだけは真顔のままで言葉を返してくれた…


「うち、クソ親父が風呂上がりとかフルチンで歩き回るような家やし全然平気やでっ!そんなん気にせんと、試合に集中しいな…ポークビッツ♪」


ポ、ポーク…ビッツ…て…

そそぐちゃんが飛び切りの〝毒〟を吐いたお陰で、せっかく収まりかけてた場が再び爆笑の渦に…お、おそろしい子…っ!!

でもこのままじゃ埒があかんと思ったんやろな…今回もレフリーを務めてくれるらしい朝倉さんが前に出た。


「ぉ…ぉまぁえら…そ、そんなに…ワロたら…プッ…グフッ…し、しつれぇい…や、やろ…が…ングフッ…!」


いや、朝倉さん…無理しないでいいっス…

もういっそ笑ってくれた方が有難いっス…

その気遣い…優しさは逆に心が痛いっス…


「じゃあ…こ、今回の…ル、ル~ルを…せ、説明…ングフッ…す、するでっ…プッ!」


そう言いながら、相変わらず笑いを必死に堪えてるであろう朝倉さんがこちらへ振り向いた。

し、信じられんくらいに頬と瞼がピクピクしてますやん…痙攣って言っていいレベルですやん…もう別人の人相なってますやん…

よし、そこまでして堪えてくれた朝倉をもう苦しみから解放してあげよう…

そう考えたから俺は…


「あ、本当の戦闘スタイルになりたいんで、先に着替えて来ますっ!!」


そう言って逃げる様にしてロッカールームへと駆け込んだんや。

するとその刹那、ドアの向こうからは爆ぜる様な笑い事が聴こえて来た…

そう、それでいいんです…朝倉さん。

5分ほどしたら戻りますんで、それまでは我慢したぶん思いっきり笑ってやって下さい…

そんな事を思いながら俺は恥辱にまみれたスパッツを脱ぎ捨てて、闘争心の宿った黒タイツを身に着けたんや。


と、カッコいい風の終わり方をしたい所やねんけども…この日以降暫く、俺のアダ名が〝ビッツ〟になった事を報告して今回の話を締めくくろうと思う…



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