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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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真の決着

そそぐちゃんの〝バーサク〟状態が収まるのと、柔が意識を取り戻すのを待つこと5分…

ようやく朝倉さんから今回の結果についての説明が始まった。


「さっきも言うたけど、このスパーリングの結果は引き分けや…その理由について今から説明する訳やけども……」


朝倉さんはそこまで言うと、そそぐちゃんの方へと向けた視線を固定した。


「わ、わかってるって…もう暴れたりせぇへんよ…」


そそぐちゃんがバツ悪そうに答えたのを確認すると、安心7割・不安3割くらいの表情で再び朝倉さんが口を開く。


「単刀直入に言うとやな、今回はダブルKOって結果になる」


「なんでやねんなっ!!駈人はともかく、そっちのイガグリ頭はちゃんと立ったやんかっ!!」


やっぱり又、声を荒げたのはそそぐちゃんやった…朝倉さんは栗手の事をジム1番の問題児や言うてたけど、その見解は改めた方がええんちゃうやろか?

明らかに彼女の方が問題あると思うんやけど…

ほら、ちょっとそそぐちゃんがデカい声出しただけで、柔なんか身を縮めて俺の後ろに隠れちゃってるもの。まるで〝パブロフの犬〟やんけ…


「まぁ聞けって。お前も納得するだけの理由を今から説明するんやから…なっ!?」


「チッ!…わぁったよ…なら…さっさと話ぃや!」


そ、そそぐちゃん…自分で話を止めといてそれはアカンよ…

なんて事は口が裂けても言えませんとも…ええ。


「先ず…今そそぐも言うた通り、駈人は10カウントの時点で倒れてしもぅた以上は誰が何んと言おうとKOや。これには文句あらへんと思う。

でや、皆んなが納得してへんであろう不惑君の方やけども…思い出してみてくれ。

彼が立ったのは丁度10カウントを数え終わった時や。

確かに最後の時点で立ってたのは彼や…でも考えてみぃ?ダウンからの復帰と認められる条件…

1つ忘れてへんか?」


(ハッ!!)

俺は息を飲んだ…そしてその条件て奴を、自らの口で答えたんや。


「ファ、ファイティングポーズ…」


「ピンポーン♪正解っ!!

不惑君は立つには立ったけど、立っただけでファイティングポーズを取ってない…これじゃあダウンからの復帰とは認められへんわ。

せやから今回の勝負はダブルKOによる引き分けと見なす…どや、納得したか?」


「何回〝立つ〟やら〝立った〟言うねんなっ!麗しき乙女の前で下ネタはやめてくれるかなぁ!?会長、それ…セクハラですやん」


い、いや…そそぐちゃん…

その場合は〝立つ〟や無くて〝勃つ〟やし…

そもそも君を〝麗しい〟と思ってるのは俺と栗手だけやと思うし…

今では俺すらも疑問に思い始めてるし…


「四の五のうるせぇよ」


その言葉の出所に視線が集まる。

言わんでもわかると思うけど…

それを吐いたんは栗手 駈人やった。

周囲を()めてから更に続ける。


「外野の連中が四の五のうるせぇって言ってんだよ。ルール上がどうであれ関係ねぇ…勝敗は闘った俺達が誰よりも理解しとるっちゅうねん!

なぁ…せやろ?不惑よ…」


まさか奴の口からそんな台詞を聞けると思って無かったから、俺は不覚にも少し感動してしもぅた。


「栗手…お前……あぁ、せやな…お前の言う通りやな…俺達だけが理解しとればそれでええ…よな」


「応よっ!…ほら!皆んなも聞いたやろがっ!?コイツも認めとるように、勝ったんは…俺やっ!!」


……へっ!?

え~っと……はいっ!?


「ちょ、どこをどう押しゃあそんな答えにな辿り着けるんなっ!?」


怒りと呆れの入り雑じった口調でそそぐちゃんが突っ掛かる…が


「あん?だって考えてみぃや…序盤に立て続けでダウン奪ったんは誰よ?俺やろ?

で、これが実戦やったらどうよ?最初にあれほどのダメージ与えたんやから、あのまま俺が勝ってたよな?コイツはダウンカウントに救われただけで、ダウンしても止めて貰われへん路上やったら俺が勝ってた訳やろ?だからこの勝負も俺の勝ちやっ!」


な、なんちゅう理論や…

郷 ひろみが元嫁の二谷 友里恵を〝リー〟と呼んだ〝ゆりえがリー〟理論くらいに訳が解らん…


「そんなん言うてたら格闘技の試合は全部、先にダウン奪った方が勝ちになってまうやんけっ!?」


「ん…俺はいつもその心づもりで()ってますが…何か?」


「ングッ…認めん…認めへんぞっ!再戦やっ!今直ぐ再戦じゃあぁぁ~~っ!!」


「せやせやっ!イッたれっ!イガグリ頭っ!!今度こそ完璧に天狗っ鼻をへし折ったりぃっ!!」


反論する俺とそそぐちゃんを後押しする様に、リング下の皆んなからもブーイングの嵐。


「お?お?なんや…またしても俺が悪者かいやっ!?上等じゃ~っ!嫌われ者魂を見せたろやないかっ!!いっそ全員かかって来いやあぁぁ~~っ!!!」


栗手の叫びが再びカオスを呼び戻したリング上を他所に、柔と朝倉さんが何やら話してたみたいやけど、それに聞き耳立てる余裕なんか俺にある訳あらへん…気にはなるけども…




チワッ!柔だよん♪

この時の話を知らへん勇に代わって、ここから俺が語り部を務めるでっ♪

では早速…

朝倉さんは俺にこない言いはったんや。


「大ちゃんの言うてた通りオモロイ子やなぁ…経験さえ積めば大化けするかもな…ほんま将来が楽しみやわ♪」


「まぁ技術はまだまだやけど…確かにオモロイって点では間違ってないかと…」


答えた俺を朝倉さんが探る様な目で見はった…


「あの…何か?」


「柔は…柔はあの子と()りたいとは思わんのか?」


「俺ッスか?…()ってみたいとは思いますよ。ええ…思ってます。いや…違うな…」


「違う?何が違うんや?」


「アイツとは()るんスよ…()る事は決めてるんスよ」


「ほぅ…?」


「ただ…今じゃ無い。少し前にアイツと交わした約束がありまして…ね」


「約束…」


「ええ、まぁ約束って言うても、アイツから一方的に押し付けられた様なもんなんスけどね…ハハハ」


「良かったら聞かせてくれへんか?その押し付けられた約束ってのを…」


「……いつかアイツがプロレスのタイトルを獲って、俺がMMAのタイトルを獲って…チャンピオン同士、デカい場所で()ろうって……

ハハハ…馬鹿馬鹿しいっしょ?言ってて恥ずかしいっスわ…

ガキの戯れ言と笑って貰っていいっスから」


「笑わへんよ。いや…笑えへんよ。

男同士の夢が詰まった約束…笑える訳があらへんやろ?それに…」


「それに?」


「その約束、いつか実現する予感がするしな♪」


「朝倉さん…」


「まっ!楽しみしとくからよ、せいぜい頑張れやっ♪」


そう言うと朝倉さんは、俺の胸にドンッと拳をぶつけてリング上の騒動を鎮めに行きはった。

ほんでもって…又もバーサク状態に突入したそそぐちゃんに、あえなく返り討ちに合ってはったわ…ハハハ

え?俺?もちろん逃げましたとも…巻き込まれたらたまらんもの…

あんなアマゾネスの暴走を止めに入るくらいやったら、動物園で虎の檻に入る方がマシやっちゅうねんな…ヤダコワイ


んで、後から勇の奴が

〝あの時、朝倉さんと何を話しててん?〟

ってしつこく訊いて来たけども…

俺は教えんかった。

それは俺の中で、ある決意が芽生えたからやねんけども…

それはまた次の話でアホ猿が語りよるやろ…


ほな…とりま俺はこれで失礼しまっさ♪

って…俺は一体誰に語り掛けているのだろうか?







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