基本はブリッジ
奴に遮られた俺の左脚…
島井はそれを脇に抱え直すと、ピョンピョン跳ねとる俺の軸足を簡単にヒョイと刈りよった。
俺の視界からゴリラが消え、その代わり一面に青空が広がる。
(あぁ…ええ天気や…)
なんて事を思った俺の耳に柔の声が飛び込んで来た。
「勇っ!頭っ!!」
これで我に返った俺、すかさず頭と地面の間に腕を滑り込ませる。
その甲斐あって後頭部直撃は免れた…が…
「ほぅ…又お友達に助けられたのぅ。仲良しの友達がおって羨ましい限りや。なんやワシ、ジェラシー湧くのぅ」
ワシの頭上でそう言った島井の顔は、ピカソが描いたゴリラみたいになっとる…
どうやらダメージは防ぎきれんかったみたいやな、お陰で俺の視界はグニャグニャや…
「勇っ!止まんなっ!!動かんかいっ!!」
又も柔の声が聞こえた。
でもその時には…
「もう遅いわいアホゥ!こうなったら終いじゃボケェ!!」
勝ち誇った島井が俺の上に跨がっとった…
マウントポジション…格闘に於いて最も有利なポジショニングや。
島井の言う通り、この位置関係になってまうと8割方は勝負が決まる…
(ハハハ…ヤバイねどうも)
まだダメージの抜け切れへん俺に、島井が嫌ぁな笑顔を向けた。
「さぁて、イッツ ショータイムやっ♪」
(しっかし…ほんまにこいつブサイクな奴っちゃなぁ…せや、ブサイクゴリラってのをミドルネームにしちゃろ)
そんな事を考えた俺の上には、拳を振り上げた島井・ブサイクゴリラ・象山の姿。
「勇!動けっちゅうとるやろっ!!」
何べんも何べんもガナリ散らす柔に
「やかましいわっ!だぁっとれっ!!」
そう返してから俺は勢いをつけて身体を跳ねさせた。
これでブサイクゴリラがバランスを崩した。
振り上げていた拳をキャンセルしてバランスを保つ。
「へぇ、120Kgあるワシを跳ね上げよるかぁ…ちったぁ鍛えとるようやのぅ」
「当たり前じゃ!ブリッジはプロレスラーの基本やっ!!お前程度を崩せんでどないすんねんっ!!」
「フフン…なるほどな。なら何べんでもやったらええ。ホレッ!?」
又も島井が拳を振り上げる。
俺が身体を跳ね上げる。
島井が拳を…
俺が身体を…
拳…
身体…
拳…
身体…
何度か繰り返してから気付いた…
(ハァハァ…ハァハァ…あれ?全然動かんようなってきたんですけど?)
島井がニヤリと嗤いながら言う。
「ワレ…ほんまにオツムが足りんみたいやのぅ。流石は育友高校や、銀行金利くらいしか偏差値無いんとちゃうか?120Kgあるワシを何度も跳ね上げたらどうなるか…普通に考えたらわかりそうなもんやけどのぅ♪」
(し…しもたぁ~!!)
俺はまんまとゴリラの術中にはまってしもたらしい。
流石は人類のご先祖様や…
恐ろしい奴っちゃで…
「さぁて…ほんなら、まな板の上の鯉の調理でも始めるかいのぅ♪」
ブサイクなご先祖様が舌舐めずりしとる。
「勇~っ!!」
柔が叫んだのがわかった。
心配すんなって!
相手に見せ場を与えるのもプロレスラーの闘い方や。
それにな…プロレスにもえげつない「手」っちゅうのがある。今からそれを見せたるわっ!!
島井が前傾姿勢で拳を振り上げた瞬間を狙い、
俺は渾身のブリッジを仕掛けたんや。
島井の身体が浮き、俺との間に隙間が出来たっ!
俺はすかさずその隙間に手を差し込んだっ!!
「へぇ…まだそんな体力が残っとったんかい。でもな何度やっても…フグッ!
¥?&$☆▲!?」
奇声と人間の言語とは違う物を発しながら、島井は俺の上からずり落ちたんや。
立ち上がってそれを見下ろした俺は、心の中でこんな事を思ってた…
(さっきのアレ…ゴリラ語やろか?)