表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
中指 立てたら  作者: 福島崇史
48/248

羽化

正面から俺に抱きしめられた状態で、栗手の奴が頭へボディへとパンチを打って来よる。

フンッ!いくらパンチ力があっても、そんな腰の入らん手打ちのパンチが効くかいやっ!

すると…パンチに効果が無いと見た栗手、今度は太ももへと膝蹴りを細かく当てに来た。


無駄無駄♪

膝蹴りにしたってこんな密着した状態やったら効きは…

(!!)

フングッ…グヌヌ…

こ、こいつ…今、金的に膝を当てて来よったぞ…

幸い掠めただけで直撃は免れたけども…

ワザとか?

一瞬、レフリーの朝倉さんに〝反則やっ!〟ってアピールする事も頭を過ったけど、そんな事したって栗手に警告が与えられるだけで、また離れた距離からの仕切り直しになってまう…

せっかく捕まえたんや、そんな勿体ない事は出来んっ!なんとしてもここで決めるんやっ!!

幸い朝倉さんは気付いてない…

俺はこのまま続行する事を決めた。


(!!!!)

ングォ~…ま、またや…

し、しかもさっきより深く当たったやんけ…

こ、こいつ…やっぱワザとやな…

ハグ状態やから栗手の顔は見えへんけど、きっとあのムカつく顔でニヤニヤしとるんやろな…

せやけど今回も朝倉さんは気付いてはらへん。

レフリーにバレへん反則は反則や無い…それはそれで立派な技術や…いつか柔もそんな事を言うてたな…

プロレスでも金的蹴りは定番やし、5秒までやったら何をやっても許されるしな…

よっしゃよっしゃ!お前がその気なら俺もプロレスラーの意地で受け切ったるっ!!

その代わり、手痛いお返ししたるからのぅ…覚悟したれやっ!!

俺は若干の脂汗をかきながら、又もこのまま続行する事を選んだ。


「何やっとんねんっ!?早ぅ転がしてまわんかいっ!!」


何も知らへん柔が勝手な事を言うてはるわ…

やろうと思った時に奴の膝が俺の愚息を襲ったんやっちゅうねん!


「せやせやっ!チャラ男の言う通りやっ!!チャッチャと倒して関節を極めたらんかいなっ!!」


ええっとですね…そそぐちゃん…

女性の君には解らない痛みというのがあってですね…

とか言うててもしゃあないっ!!

俺は下腹部と腰に残る鈍痛に堪えながら、背筋にありったけの力を込めた。

栗手の奴…小さいだけあってやっぱ軽いな…

栗手の足裏が容易くマットから離れる。

ハグの体勢のまま奴の身体を浮かせた俺は、そのまま更に背筋へと力を込めたっ!


反るっ!どんどんと俺の身体が反って行くっ!!


離れるっ!どんどんと栗手の足がマットから離れて行くっ!!


俺の視界には再び天井のライトが映ってる。

ただし、さっきと違うのは自らの意思で上を向いている事や。

そして、視界が天井を通過…今度は背後の柔が見えた。

更に柔をも通過した視界には、とうとう白いマットが飛び込んで来た。

それと同時に…

腕の中に抱いてた栗手が、顔面からマットへと突き刺さってたんや。


「うおっしゃあぁぁ~っ!!!見事なフロントスープレックスやでっ!!!」


柔がえらい興奮してる…

でも君、ちぃ~とばかしうるさいわ。


「そうっ!それっ!!やれば出来るやんかっ♪」


そそぐちゃんも興奮してはる…

だから…君は栗手のセコンドだってばっ!

と、言いたいところやけど…

せっかくやからここはもっと褒めて♪♪


本来ならこのまま上に被さって、関節を取りに行かなアカン所やねんけども…

栗手の奴、ものの見事に顔面から落ちたからなぁ…流石にこれでKOやろ…

そう思った俺はカバーにも入らず立ち上がった。

案の定、栗手の奴はリングで這いつくばったまま動かへん。


「ダウ~ンッ!」


朝倉さんが栗手のダウンを告げた…

俺がニュートラルコーナーへ向かうと、そのままダウンカウントを進めて行く…

いやいや朝倉さん、ここはダウンや無くてKOを宣言した方が…

そう思いながらニュートラルコーナーに凭れて振り返ると、そこでは地を這う虫のような動きで栗手の奴が立とうとしてる…


マ、マジか…コイツ…?

それが正直な感想やった。


モゾモゾともがきながら、顔だけをこっちへと向けた栗手…


「ま、まだやぞぅ~…まだ終わらんぞぅ~…」


恐怖?

感動?

なんや解らん感情に襲われた俺の全身は鳥肌に包まれとった…

そして7つ目のカウントが数えられた時、奴は立ち上がって痩せ我慢にフットワークまで踏んで見せたんや。


地を這う虫が羽虫となったかの様に…





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ