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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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遅れて来た物

ゴングの余韻が残るリング上、俺は右手を栗手の目の前に突きだした。

攻撃の為とちゃうで、健闘を誓って互いの拳を重ねる為や。まぁ試合前の儀式みたいなもんやな。

ところが栗手の奴、その手を(はた)き落としていきなりの右フックを打って来よった!


「うわっと!……っぶねぇっ!!」


何とかダッキングでかわしたけども、ブォンって凄ぇ音が頭上を駆け抜けて行った。

慌てた俺を、栗手の奴が相変わらずニヤニヤ顔で見とる…

うん…やっぱその顔、ただただムカつくわ。


「どしたレスラー?えらい焦っとるやんけ…今みたいなパンチ喰らいと~無いやろ?今の内にやめとくかぁ~?」


ぐぬっ…マナーも守らんと(なん)ちゅう言い草や…


「お前、顔と性格だけや無くてマナーも悪いのぅ…まぁ性格が悪いからこそ顔にも出るし、マナーも悪いんやろけどな。そんな事っちゃあ惚れとる女も振り向いてくれへんど♪」


栗手の顔がみるみる赤く染まる。おもろい位に赤くなっとるやんけ!

やっぱコイツ煽り耐性ゼロやな♪


「な、何を…だ、誰が…$@¥\+*&…」


栗手がゴニョゴニョと(なん)か言うとるけども…

ちょっと何言ってるか解んないス。


「勇!ダベっとらんと手ぇ出さんかいっ!!」


セコンドの柔先生から激が飛ぶ。

いや、ごもっとも。


「せやでっ!駈人もダベっとらんとチャッチャとヤラれてまい~やっ!」


そそぐちゃんも栗手へと声を張ったけども…

いくら(なん)でもそりゃ酷くね…?


「ファイッ!!」


朝倉さんが促す様に叫んだ。

とりあえず寸劇はここまでにして、そろそろ本腰入れよかいのぅ…

相手は打撃しか取り柄が無い…更にマウントパンチが禁止されたこのルールなら、寝技をそこまで警戒する必要は無さそうやな…

そう考えた俺は、あまり総合格闘技で見る事は無いであろう構えを選んだ。


肩幅より少し広めに足を開き、ガッツリ重心を落とすと右手を胸元、左手を目の高さで大きく広げて見せた。

せやっ!王道とも呼べるプロレスの構えやっ!!

これを見た栗手は鼻で嗤うと、身を縮めてクラウチングに構えよった。

それも総合格闘技用にアレンジした物や無い…

ガッチガチのボクシングスタイルや。


ロープエスケープ有りの今回のルールなら、MMAほど寝技を警戒せずに打撃をブン回せる…だから得意のパンチにステータスを全振りしたっちゅう訳やな?

つまり…手段は違えど奴も俺と同じ考えっちゅう訳か…

なんや、ガス灯時代に盛んやったっちゅうレスラーvsボクサーの異種格闘技戦みたいやなっ!

昔からずっと議論されとる〝Fist or Twist〟

つまり、拳か?関節技か?

俺達でハッキリさせたろやないけっ!

ええのぅええのぅ♪

オラ、ワクワクして来たぞ♪

……版権物は色々とうるさいんで、今の台詞は聞き流してくれな(汗)


栗手が前後左右にステップを踏んで間合いとタイミングを計っとる。

俺はベタ足のまま、常に奴を正面に捉えるように身体の向きを変える。

奴が左斜め前に大きくステップしたっ!

俺も直ぐに反応して、頭部をガードしながら身体をそちらへ向けるっ!


ところが奴はそれをフェイントに、直ぐさま右側へとステップし直したっ!!

ヤバッ!反応が遅れてしもた…間に合わへんっ!

俺は自分の身体に命じるっ!


〝来るぞっ!こらえろ~俺の身体っ!!〟


頭部を包むようにしたガードだけは崩さず、俺は来たる衝撃に備えたっ!


ズドムッッッ!!!


鈍い音と共にソレはやって来た。

ただし…頭部やなくてボディに…

奴は左から右へ移動すると、そのまま俺の左脇腹に右フックをブッ放したんや。

一瞬息が詰まったけど、なんちゃ無いっ!

大体、レスラーに対してボディブローなんざぁ愚の……アレ?…な…んや…コレ…?


衝撃から数秒遅れてやって来た物…

それは地獄みたいな苦しみやったんや…



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