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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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敵に塩を送ってみた

試合当日がやって来た。

一応は〝スパーリング〟って名目なんで、俺と栗手は朝倉さんからヘッドギアとレガース(脛当て)の着用を言い渡された。


更衣室で準備にかかる。

上半身裸に黒のショートパンツという〝ストロングスタイル伝統のコスチューム〟…と言えば大袈裟やけど、まぁいつもの戦闘スタイルになった俺は、レガースを着用してから鏡で自分を見てみた。


(フムフム…かつてのUWF戦士みたいで悪い気はせぇへんな♪よっしゃっ!一発かましたろかいっ!!)


俺は自らの頬をパンパンと二度叩いてから、ヘッドギアとオープンフィンガーグローブを着用して更衣室を後にした。


ジムに常設されてるリングの周りは、観戦する為に多くの人だかりが出来とる状態…

いや君達…気にせず自分のトレーニングをしなはれ、どうぞお構い無く…とも思ったけども、人の喧嘩を見るのは楽しいもんな…

ま、しゃあないか。

栗手の奴は先に準備を終えたらしく、既にリング上から粘着質の視線をぶつけて来とる。

ええぞええぞ♪

そういう目で見てくる奴には遠慮せんで済むっ!

俺は自然とニヤケそうになる顔を必死で戻すと、リング下で一礼をしてからロープをくぐった。


「ケッ!えらい待たせてくれたやんけっ!!宮本武蔵でも気取ったつもりかっ!?」


栗手くん…早速、嫌味でのおもてなしありがとう。

よっしゃ、ここは一つ…


「そういうお前はちゃんと心得とるのぅ♪」


「あん?」


「いやいや知らばっくれちゃってぇ~そないに照れんでよろし♪格闘技では格下が先に入場するのを解った上で先に待っててくれたんやろ?見掛けによらず粋な事するやないかい♪」


「グッ…て、てめぇ…」


俺の反撃で栗手の顔がみるみる赤くなる。

ほんで奴が何かを言おうとしたタイミングで朝倉さんが割って入った。


「よっしゃ2人とも舌戦はそこまでやっ!せっかく舞台は用意したんや、あとは拳でケリつけぇ」


栗手の奴が舌を打ちながらリング中央へと歩み寄る…

俺も同じく歩み寄る…

ついに互いの制空圏が重なった。

まだ試合…いや、スパーは始まって無いとは言え、手を出せば当たるヒリついた距離…

栗手が鋭い目で睨みつけて来た。

舌戦の後は視殺戦ちゅう訳か、ハハハ…とっぽい奴っちゃで♪


朝倉さんによる今回のルール説明。


「時間は20分1本勝負。打撃によるKO、関節技によるギブアップ、持ち点がゼロになるTKOで勝負を決める…勿論俺が危ないと思うたら止めるから、その場合はレフリーストップや。

ロストポイント制ルールやから、寝技状態での打撃は全面禁止。当然やけど目突きや金的、噛みつきも反則。関節技は指への関節技だけが禁止や。互いの持ち点は5点、ダウンしたりロープエスケープしたら減点されて、ゼロになった場合はさっきも言うたけどTKO敗けや…ええな?」


「わぁっとるわいっ!」


「異存ありません」


視線を互いから外さんまま答える。

すると朝倉さんが…


「それともう1つ…互いにセコンドは2人までや」


そう追加した。


「当然俺が就く」と柔


「当然…じゃ無いけど私も就く」とそそぐちゃん


俺のセコンドは早々に決まった。


栗手の奴が物色する様にリング下の連中へと視線を這わせる…が、全員が目を合わせようとはせぇへん。

ライオンは最初に目が合った獲物を襲うって言うけども…ここに居る草食動物の皆さんは、目すら合わしてくれへんから襲いようがあらへんな…

てか栗手…お前、ほんまに相当嫌われとるんやのぅ…なんや俺、悲しゅうなってきたで…


「どうせ直ぐに終わるんや、セコンドなんざ要らへんわいっ!」


フンッと鼻を鳴らした栗手が言うたけど、それが強がりな事くらいは解る。

気付けば俺はそそぐちゃんに言っとった


「そそぐちゃん、自分が就くべき相手は俺や無いよ…」


自分でもなんでそんな事言うたんか判らへん…

でも言わずにおれんかったんや。

柔の奴が例の如く呆れ顔で首を振ってるわ。


「はぁっ!?なんで私があんな奴のセコンド就かなアカンねんなっ!?イミフなんですけどっ!?」


「なぁ…アイツの今の状況見て何んも感じへんのか?幼なじみなんやろ?こんだけ人がおって誰もアイツのセコンドに就こうとせぇへん…そんな時やからこそ自分が手を差しのべたらなアカンのとちゃうん?」


「……」


「それにさ…多分、アイツ〝も〟そそぐちゃんの事が好きなんやと思う。だから俺に突っ掛かって来たんやと思う…他の皆んなが敵でも、そそぐちゃんだけには味方で居て欲しいんとちゃうかな?」


後から柔に聞いたんやけど…この時、俺は無意識に〝も〟って言ってたらしい。

ってオイッ!俺、遠回しに好きって伝えちゃってますやんっ!!ヤバいヤバいヤバいっ!

そそぐちゃん、気付いてもぅたかなぁ…

どうしよ…どうしよ…どうしよっ!!

あ…取り乱しまして…

お見苦しい所を…

申し訳無い…

とりあえず時系列をスパーの時に戻してっ…と。

アレ?…えっと、この話ってタイムパラドックス物やったっけか?



「…わかった」


そう言ったそそぐちゃんがトボトボと栗手側コーナーへと歩いて行く。

僅かな距離で5回もこちらを振り返りながら。

いや、そんな恨めしそうな目で見んといてぇな…


「1人ずつでええんか?セコンドが決まったんなら始めるけど…」


朝倉さんの問いに無言で頷く。

そそぐちゃんがセコンドに就いた事で戸惑った表情を浮かべとるけど、何とか栗手の奴も頷いた。

さあっ!いよいよやっ!!

敵に塩を送るのはセコンドの件だけ…こっからは全力でイカせて貰うでぇ♪


朝倉さんに促されて握手を交わす。

その時に栗手の奴がボソッと呟いた…


「気ぃ…使わせたな…」


「気にすんな。そんな事より…楽しく()ろうや♪」


「楽しく…ねぇ」


栗手がいつもの皮肉な笑顔を浮かべた時、闘いの始まりを告げる鐘の音が響いた…












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