対戦決定
「し、試合て…君、今日ここに入ったばっかりやんかいさ…」
呆れ顔の朝倉さん…まぁ予想通りの反応やけどな。
「ちょ、アンタがアイツと試合やる意味がわからへんねんけど?」
そそぐちゃんも呆れ顔…まぁこれも予想通りっちゃあ予想通り。
「おいおい勇よ、新入りがいきなり試合の申し出って…いくら何でもそりゃ失礼とちゃうか?」
柔までが呆れ顔…死ねばいいのに。
「アイツは…栗手はさっきプロレスを馬鹿にした…それだけでもう闘う理由は十分あるんスよ」
俺は真っ直ぐに朝倉さんを見たままでそう答えた。
一瞬の沈黙の後、朝倉さんが少し困った様に言う。
「う~ん…いやな、気持ちは解るんよ。凄ぇ解るんよ。でもこればかりは俺の一存では決められへん…アイツに闘る意思があるかどうかやからなぁ…」
するとそのタイミングで、帰り支度を済ませた栗手がロッカールームから出て来た。
それを朝倉さんが呼び止める。
「おいっ!駈人っ!!」
「なんや…まだ俺になんか用あるんかぃや?」
栗手の奴が、面倒くさそうに頭を掻きながらこっちを睨んだ。
俺は朝倉さんが用件を言うより先に奴へと近づき…
「お前に立ち合いを所望する」
そう告げた。
「…はい?」
状況が理解出来てへんらしく、栗手は俺と朝倉さんの間に視線を反復横跳びさせとる。
「お前…さっき俺に〝なにがプロレスラーやっ!来る場所間違っとるんちゃうか!〟って言うたよな?」
「あぁ…なるほど…そういう事ね、完全に理解した」
そう言った栗手は、半笑いで小指を耳に突っ込みながらこない続けよった…
「言いましたけど何か?」
グヌヌ…挑発的やないかいっ!
ええぞ…そういうの嫌いや無いっ!
俺、燃えてまうやんけっ!!
「あの台詞…取り消す気は…」
「勿論ございませんが…何か?」
相変わらずの半笑い…
俺はそこへラリアットを叩き込みたい衝動を抑えると…
「せやろな…それが立ち合いを申し込んだ理由や。受ける?それとも…怖くて逃げる?」
奴と同じく耳をほじくりながら半笑いで言うてやった。
途端に奴の纏う空気が変わる…
〝ピシッ〟と何かが軋む音を聴いたような気がした。
「怖い…やと?逃げる…やと?この俺様が?プロレスみたいな見せ物相手に?嘗めんのも大概にしとけやっ!!」
散々人を煽っといて、自分は容易く挑発にノッてまうんや?そういうバカなとこ嫌いや無いで♪
「口ではなんとでも言えるからのぅ…
ま、受けへんちゅうんなら逃げたと思わざるを得んわなぁ…」
更に煽る。
「上等じゃコラァ~ッ!!プロレスラーがなんぼのもんじゃいっ!!瞬殺したるわい瞬殺っ!!」
あ、コイツ…煽り耐性ゼロやな…
〝煽られたら絶対にのるマン〟かな?
腹ん中でほくそ笑んでたら、それまで傍観しとった朝倉さんが割って入った。
「よっしゃ!2人共…そこまでや。とりあえずは駈人…今の台詞は勇君の申し出を受けたと取ってええんやな?」
「応よっ!受けたるわいっ!!」
おっしゃっ!と心の中でガッツポーズを取りながら冷静を装う俺。
「駈人が受ける意思あるんなら俺も止める気は無い。せやけど入ったばっかの新入りに、アマで5戦5勝のコイツと公式戦をさせる訳にいかへんのも事実や。そこで1つ提案がある…」
俺達は黙ってその続きを待った。
「お前らもニュースなんかで知ってるやろけど、うちのジムはグングニルと提携してある実験的な試みをしとる…
グングニルが目指す障害者による格闘技イベント開催と、それに伴うロストポイント制ルールの復活や。バーリ・トゥードが当たり前となった総合格闘技界で、もう1度あのルールを普及しようって話やな。実際、グングニルは既にバーリ・トゥードからの撤退を公表しとる」
ロストポイント制ルール…
かつてUWF系の団体が用いてた物で、選手は互いに5ポイントずつの持ち点を所持して試合に挑む。でもって、打撃でダウンしたり関節技でロープエスケープをする度に持ち点が減点して行くってルールやな。
「それでや…お前らの勝負はこのルールでやってもらう。更には公式戦や無くてスパーリングって名目でな。それでもええってんなら許可しよぅやないか…どやっ?」
「上等やないけ。どんなルールでもプロレスみたいな見せ物に敗ける気なんぞせんわっ!」
「俺もそれでOKです。無理をきいて貰ってありがとうございます。そのルールでこのボンクラにプロレスの怖さを教えてやりますわ」
俺と栗手の視線がぶつかって火花を散らしたけど、それを遮るように間へと入った朝倉さん…
「ほんなら試合は…やなくてスパーリングは3日後の午後4時、このジムのリングにて行う…異論あらへんな?」
「ある訳ねぇ…オイッ!そこの筋肉バカッ!プロレスの怖さとやら教えてくれる言うたのぅ?楽しみにしとるでな♪」
俺は右手の中指を立てて見せ…
「これは俺のシュートサイン…つまり本気って事や。その身体に存分に教えたるから楽しみにしとけやっ!」
「へっ!せいぜい吐いた唾飲まんようにしてくれや♪」
栗手は又もあのムカつく半笑いで捨て台詞を吐くと、そのままジムを後にした。
俺の所へ柔とそそぐちゃんが寄って来る。
「しかしほんまに勝負まで持ち込むとはなぁ…相変わらずお前の格闘バカっぷりには呆れるわ」
「プロレスを馬鹿にする奴は許せん性質やからのぅ…こればっかりは譲れんでな」
「とりあえずはプロレスvsMMAの異種格闘技戦って感じやな…まぁどっちも総合格闘技やから純粋な異種格闘技戦とは呼べんかも知れんけど」
「アホかっ!プロレスは総合格闘技とちゃうわいっ!キング オブ 格闘技じゃっ!!」
「キ、キング オブ 格闘技て…それ何語や?アホっぽ過ぎるやろ…」
すると…そんな俺達のやり取りを黙って見ていたそそぐちゃんが、突然に口を開いた。
「てかさぁ…厳密にはアンタ未だプロレスラーとちゃうんやろ?せやからこの勝負は〝プロレスラーを目指してる馬鹿〟vs〝ラッキーパンチで勝ち続けてる馬鹿〟だよね?」
いや…そんな真顔で…
息をする様に毒を吐くのね君…




