トラブルメーカー
俺達が起こした騒動を他のジム生達が輪になって見守る中、突然その輪から尖った声が飛んで来よった…
「ハンッ!なぁにがプロレスラーじゃっ!来る場所を間違えとるんとちゃうかっ!?」
俺達を含めた全員の視線がその声の発信源に集まる。
すると声を発した男が人の輪を掻き分けて前に出て来た。
年齢は多分俺達と同年代…
サイズは165cm、70kg前後…ってところかなぁ…
見るからに〝皮肉屋〟って感じの顔しとる。
前に親父と一緒に観たガンダムのDVD…それに出て来た〝カイ・シデン〟って人物にそっくりやわ。
「ちょ、なんでアンタがしゃしゃり出てくるねんなっ!?」
そそぐちゃんが男の前に立ち塞がった。
「なんでって、そりゃ自分の彼女が迷惑しとったら守りに行くやろよ…男として♪」
男が半笑いで俺の様子を伺いながら言いよった…
多分この男は、俺のそそぐちゃんへの気持ちに感づいてて、わざとそういう態度に出たんやろな。
そっかぁ…やっぱ彼氏おったんかぁ…
まぁ可愛いし当然よなぁ…
正直ショックは受けたけど、それを表に出すんもなんか悔しゅうなって…
「あ、彼氏さん?ゴメンゴメンッ!そそぐちゃんとはこの間ひょんな事で知り合うてな、オモロイ子やから友達なりたいなぁ思て名前を訊いただけやねん。気ぃ悪ぅせんといてな」
そんな強がりを言うてしもた。
柔が呆れ顔で俺を見て、そのまま口パクで〝アホ〟って言うて来たわ…
せやかて、そうとでも言わんと場が収まらへんやんけ…
すると そそぐちゃんが慌てた様子で…
「ちょ、ちょ~待ちぃなっ!勘違いせんといてやっ!!こんな奴が彼氏やなんて嘘やからっ!コイツが勝手に言うてるだけやねんからっ!!」
へ?どゆこと?
「そそぐ、そない照れるなや♪お前が俺の事を好きやって言うて来てんぞ?」
「アホかっ!いつまで幼稚園の時の話を引っ張ってんねんっ!!」
……大体の話は見えて来たけども、それがマジならこの男…
思い込みが激しいっちゅうか…
かなりヤバい奴っちゃな…
と、ここで朝倉さんが凄む様な口調で男に言うた。
「オイ…いつも言うとるよな?礼儀だけはちゃんとせえって…よ」
すると男は…
「オイオイ…こんな時だけ師匠面かいや?ここは自由で個人重視、放任主義のジムとちゃうんけ?言うとっけど、俺はアンタの下やなんて1回も思った事あらへんからのぅっ!!」
「ならいつでも出てけや…誰も引き留めたりせぇへん。それどころか嫌われ者がおらんよぅになって皆んなせいせいするんちゃうけ?」
朝倉さんの台詞に返す言葉を失った男は、苦し紛れに舌打ちするとそのままロッカールームへと引っ込んでしもた。
朝倉さんは俺に向き直ると…
「ゴメンな勇くん…気ぃ悪ぅしたやろ?」
「いえ…で、さっきのアイツは?」
「あぁ…うちのジムに2年ほど通ってるんやけど、色々と問題アリな奴でなぁ。ま、所謂トラブルメーカーってやっちゃ…ハハハ」
「へぇ…」
答えながらも俺の目は、自然とそそぐちゃんの方へと向いとった。すると彼女もそれに気付いたらしく…
「なんよその目…?まださっきの話を信じとるん?」
「いや…そういう訳や無いけど、出来れば関係を教えて欲しいなぁ…なんて」
「関係もクソもあらへんよ。ただの幼なじみで御近所さん…としか言いよう無いわ」
「ふ~ん…」
「見ての通りのひねくれ者でさ…思い込みが激しくて自信過剰…格闘技だって大した技術は持ってへんのに、いつもラッキーパンチやらラッキーキックが当たって5戦5勝5KO…それがまた自信過剰を加速させるっていう悪いループにハマッてるねん」
「5戦5勝5KOって…プロで?」
「まさかまさか!アイツ、私と同じで高2やもん。だから当然アマチュアの試合でよ」
「こ、高2!?…高2でっ!?」
裏返った声をあげたのは柔やった。
「じゃあ何か?奴は高2で……高2の身で……
俺達にタメ口叩いたんかいやっ!」
いや、そこか~いっ!
それを言うなら柔よ…
そそぐちゃんも高2やのにタメ口なのだが?
文句言うてみぃ…ホレ、言えるもんなら言うてみぃ♪
と思ったけど、ややこしくなりそうなんでやめといた。
すると柔、今度は鼻血のこびりついたままの鼻を天狗の如くニョキニョキさせて…
「まったく…ふてぇ野郎やな…でもまぁ高2ならアマチュアってのは頷けるな♪なんせ高校生でプロになれるってのは一部の天才のみ…っての?選ばれた者のみ…っての?いやぁ~まぁ俺くらいの…」
「悪い柔…少し黙っててくれんか?」
「な、なんやその言い方はっ!せっかく俺が天才の定義ってやつを…」
「私からも言わせて貰うわ…黙れ」
「御意…」
ぎょ、御意て…
しかし…そそぐちゃんが居れば、今後 柔に言う事をきかせるのはチョロいなコリャ♪
まぁそれは置いといて…
アマの試合とは言え、高2で5戦もの試合経験があるって事か。俺は野試合しか経験あらへんっちゅうのに…
しかも5KO…ラッキーパンチって言うとったけど、当たれば威力のある打撃って事やな…
「そそぐちゃん…さっきのアイツ…名前は?」
「ん…栗手…栗手 駈人」
くりてかるひと…クリテカルヒト…クリテイカルヒト…クリティカルヒト…クリティカルヒット!
ばんざ~い♪ばんざ~い♪
言うてる場合かっ!
なんちゅう名前や!!つけた親の顔が見たいわっ!!
……まぁ俺も人の事言えた名前ちゃうけども…
名前を知った俺は、朝倉さんに努めて真剣な顔を向けた。
「朝倉さん…」
「ん?なんやそのわざとらしい位の真顔は…嫌な予感しかせんのだが?」
「さっきのアイツと…栗手と試合させて貰えませんか?」
俺は努めて作ったわざとらしい位の真顔のままで、朝倉さんの嫌な予感を的中させとったんや。




