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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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君の名は?

目が合った…

直ぐには言葉が出なかった…

でも彼女の方は…


「ちょ…誰か警察呼んでっ!!」


へ…?

はて…?

俺の顔を見るなり警察とな?

………………いやいやっ!


「なんでやねんっ!?」


「なんでやねんっ!?やないわっ!わざわざ私の通うジムまで調べて来たんやろっ!?完全にストーカーやんかっ!キモッ!!」


あ、相変わらずお口の悪い事で…

んでもってこの最悪の状況の中、最悪のタイミングで、最悪の男が会話に参戦…


「お?あの時の口悪プッ…口悪女やんけっ!?」


セーフ…危なかったけど、どうにか〝プッシー〟の部分は踏みとどまったようやな…偉いぞ柔。

いや…別に偉くは無いな。褒めて損した。


「んあ~最悪…チャラ男までおるやん……

てかアンタッ!!今度会()うたらそのドレッド引っこ抜くって言うたはずよな?約束通りイカせて貰おかぁ~♪」


彼女が邪悪な笑みを浮かべ、イソギンチャクみたいに指を動かしながら柔へとにじり寄る。

対する柔は頭を両手でガードしながら…


「ちょ、ちょ~待てって!君は何か誤解しているようだっ!激しく誤解しているようだっ!」


「ほぅ…ならばその激しい誤解とやらを激しく解いてみぃや?」


「お、応よっ…」


弱々しく答えた柔が、助けを求める様な目を向けて来よった。

まぁその弱気の半分は俺への気遣いなんやろな…

だってこのジムに来た経緯を話すって事は、俺の彼女への気持ちも話さなアカンって事やから。

ここはやっぱ俺から彼女に事情を話すべきやろな…


「あのよぅ…信じようが信じまいが自由やけど、ここで会ったんは全くの偶然やねん…」


「偶然~?よう出来た偶然もあったもんやな!」


あ、やっぱ全く信じてラッシャー木村…や無くてラッシャー板前…でも無くて…らっしゃらない御様子…


「実は俺な…」


ここまで言った俺を、柔が息を飲んで見守ってる。いやいや!勘違いすなよっ!!

その顔はこの後に続く台詞が〝君の事が好きなんや〟である事を期待してる顔やんけっ!!


「プロレスラーを目指しとってな…」


ここで柔が緊張から解放されたんか、それとも期待外れからか深ぁ~い溜息を吐きよったわ…


「プロレスラー?ふ~ん…どうりでゴツいガタイしとる訳や。で?それとこのジムに来たんは何んの関係があるんな?」


胸元で腕を組んで、見下すような目を向けながら訊いて来たけど、そんな態度すら可愛く思える…

こりゃ重症やわ、ハハハ…

え?見下すような態度取られて気を悪くせんのかって?

……何を言ってんねんっ!こんなん〝御褒美〟以外の何物でも無いですやんっ!!

と、特殊性癖を発動するのはこれくらいにして、そろそろちゃんと話さんとな…


「で…詳しい事は今は話せんけど、ある事情から1人でするトレーニングに身が入らんようになってしもてな…格闘技界で顔の広いアイツに頼んで格闘技ジムを紹介して(もろ)たんよ。それがたまたまこの烏合衆やったってだけやねん」


これを聞いて彼女が柔へと横目を流す…


「そうなんっ!?」


「は、はい…相違ございません…」


ハハハ…柔の奴、完全に呑まれてしもとるな♪


「アンタ…格闘技界で顔が広いって一体何者なんっ!?」


「え~と…(わたくし)、暮石 柔と申しまして…しがないながらも一応プロのMMA選手をやらせて(もろ)てます…」


「へぇ~…高校生でプロって大したもんやん」


「勿体無き御言葉ありがとうございます!で、ここの代表である朝倉さんとは親しくさせて貰ってるもんで、お願いをして暫く通わせて頂く事になった次第でして…」


「ふ~ん…まぁ一応は話の筋は通っとるみたいやけど…しかし、ついこないだの出来事やったから私が勘違いするのもしゃあないやん?だから謝らへんよっ!!」


す、凄ぇ…やっぱこの子は凄ぇわ…

このドS気質、ここまで来れば本物やわ…俺、ゾクゾクしてまうやんけ…

と、またもや特殊性癖が顔を出しそうになるのをグッと抑え込み…


「それより…こないだそこのアホ(ヅラ)ドレッドのせいで聞きそびれたアンタの名前…今度こそ教えてくれんか?」


「ハァ~…アンタもしつこいなぁ…せやけどこれから暫くは同じジムのお仲間な訳やし…ま、えっか!ならば教えようぞ!私の名前は…」


思わず息と唾を同時に飲み込む俺…


「私の名前は西園寺(さいおんじ) 公佳(きみか)!よろしくね♪」


これを聞いて、俺より先に柔の奴が反応した。


「名は人を表すと申しますが、いや、貴女に相応しい麗しきお名前っ!(わたくし)、感服致しましたぞ姫っ!!」


ひ、姫て…プッシーからえらい出世したな…

てか…柔よ…

そこまで来たら、もう呑まれてる通り越してただの〝配下〟やぞ…

流石にちょっと引くわ…

しかし西園寺 公佳って凄い名前やな…

まるでどっかのお嬢様みたいや。

俺はアジャ・コングの本名が宍戸(ししど) 江利花(えりか)と知った時に似た衝撃を受けたんやけども、それはおくびにも出さず…


「やっと聞けた…教えてくれてありがとな。

一応、俺も名乗っとくわ…人に訊く以上、本来は俺から名乗るべきやったんやろけど…

俺の名前は不惑 勇!宜しくなっ!!」


「不惑 勇…アンタの学校でのアダ名、ファックユーなんやろなぁ…」


そ、そんな憐れみの目を向けんなっ!

そんな俺達に柔が…


「ファッキュー&プッシー…てか?お似合いじゃん♪」


つい心の声が出てしもたんやろなぁ…

やっぱアホやなぁ…

〝あん?殺すぞっ!〟と言った公佳ちゃんから美しいフォームのハイキックをプレゼントされとったわ…


俺達のやり取りを他のジム生達が遠巻きに見てたんやけど、それを押し分けて1人の男が現れた。

年齢は多分二十歳そこそこ…

ダボダボのベースボールシャツに、これまたダボダボのバギーパンツ。頭には斜めに被ったベースボールキャップ…

ラッパーにしか見えんし、そもそもそんな格好でジムにおるって…運動する気ゼロですやん…

そんな事を思っていると、そのラッパーが柔へと話し掛けた。


「よう!来たか柔♪」


へ?柔と知り合い?て事はまさかこの人が代表の朝倉さん?

てかそこの〝よう!〟は〝YO!〟であるべきやろ…そんな格好しとるんやから…


「ちわ~っす朝倉さん!暫くお世話になります」


ハイキックを喰らって鼻血を出したままの柔が陽気に答えた。

あ…やっぱこの人が朝倉代表なんや…挨拶しとかんとな。


「今回は無理なお願いをきいて下さってありがとうございます。今日からお世話になる不惑 勇です、宜しくお願いします!」


「お~!君が不惑 勇くんか!話は聞いてたよ。柔からも…そして大ちゃんからも♪」


「大ちゃん…?」


「あぁ、グングニル代表の福田 大作の事よ。こないだ会ったんやろ?プロレスラーにして格闘王を目指してるんやて?面白い子を見つけたって大ちゃん喜んでたで♪」


「あ…いやぁ…ハハハ…お恥ずかしい…」


「ところで…皆んなが集まっとるから何んの騒ぎかなと思ってんけども…なんかあったの?柔も鼻血出とるし…」


これに柔が即座に反応する。


「いやぁ…いい所に来てくれましたわぁ…ちょっと怖いお姉さんに絡まれちゃってるんで助けて下さいよ~」


自業自得やのになんちゅう言い種や…

ほらぁ公佳ちゃんが肉食獣みたいな顔で睨んでますやん…ほら急いで逃げなはれ草食獣の柔くん!

すると朝倉代表が…


「怖いお姉さん?あぁ~…〝そそぐ〟の事かいな!確かにコイツは怖いわな♪」


へ?代表…今なんと仰いました?

俺と柔が目を点にする…

公佳ちゃんに視線を移すと〝ヤッベェ〟て顔してるし…

柔が恐る恐る尋ねる。


「あのぅ…朝倉さん?つかぬ事をお伺いしますが…その〝そそぐ〟ってのは…」


「ん?目の前におるやん…お前の鼻血の原因になったのも〝そそぐ〟なんやろ?」


「え?…でも彼女の名前は西園寺 公佳では?」


「はい?誰それ?…コイツの名前は毒島(ぶすじま) そそぐ…お前らと年も近いし、気は強いけど根は良い子やから仲良くしたってな!」


ぶ、毒島 そそぐ…

毒を注ぐ…名は人を表すと申しますが…

そんな事を考える俺を、そそぐちゃんが肉食獣の様な顔で睨んでいた…


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