いつなんどき誰の挑戦でも受ける
俺の挑発で目の前のゴリラ君は、只でさえイカツイ顔を更にイカツクさせて、荒い鼻息をフーフー言わしとる…
せやっ!それでええっ!
どんどん頭に血を昇らせぇ!!
すると真っ赤なお顔のゴリラ君、伸ばした手で俺を掴もうと真っ直ぐに突っ込んで来よった。
俺はそのぶっとい腕の下を潜り、奴の背後にすり抜けた。
掴む相手を失くした島井は、バランスを崩して若干ヨタついとる。
「おいおい!お前、顔はゴリラやのに動きは猪みたいやのぅ♪ほんじゃ今からお前を倒す俺は、さしずめ日本猟友会ってところやな♪」
更なる挑発…
さぞかし怒り心頭やろぅと思ったんやけど、そうや無かった…
振り返った奴の顔は、気持ち悪いほどに無表情やったんや。
「なんやワレ…そないにワシと組むんが怖いんか?やっぱ所詮はプロレスか…
いや、そもそもまだプロレスラーですらあらへんもんなぁ、ただのプロレスごっこやもんなぁ。スマンスマン、そんな相手に本気出そうやなんて…ワシもどないかしとったわ」
ゾッとする程に静かな口調。
コイツ…どうやら怒れば怒るほど、感情が消えていくタイプらしい…
でもな、そんなん言われて黙ってられるほど俺は大人やない!
…まぁ高校生やからリアルに大人やないんやけども…
それはさておき、そない挑発されたら未来の格闘王として受けん訳にはいかん!
いつ、なんどき、誰の挑戦でも受ける!
アントンかてそない言うてたっ!!
真正面から奴とやりあう事に決めた俺は、制服とシャツを脱ぎ捨てて叫んだっ!
「来いやぁっ!!」
「ほぅ…柔道家相手に着衣は不利っちゅうて裸になった訳か…考えたやないか。
せやけど、それっぽっちで通用するかのぅ?」
「アホかっ!そんなんちゃうわっ!!
言うたやろがっ!俺はプロレスラーやっ!プロレスラーは裸で闘う…当然やろがいっ!!」
「…それやったらワレ…下も脱がんかいや」
なかなか痛いところを突きよる…
でもなっ!甘いでゴリラ君っ!!
「ワレ…マジか…?」
徐にズボンを脱いだ俺の前で、目を点にしたゴリラ顔が呟いた。
「応よっ!!俺はいつ誰と闘う事なってもええように、常日頃からこれを身につけとるんじゃいっ!!」
この時の俺、これ以上ないドヤ顔やったと思う…これ以上ないドヤ顔で腰に手を当て胸を張ってたはずや…
黒タイツ一丁の姿で…な(照)
島井がチラリと柔へ視線を移す。
その視線はこない問うてた
(コイツ…正気ですか?)と。
それを受けた柔は、すんげぇ困り顔で小刻みに頷いてたわ。
どうやら2人の間でなんらかの感情が共有されたらしい…でもなっ!そんなん関係あらへんっ!!
「ほらっ!試合再開やでっ♪楽しもうやないかいっ!!」
叫んで腰を落とした俺。
それを見た島井は小さく笑うと
「ワレ…おもろい奴っちゃな…気にいったで。気にいったからこそ本気で相手したる」
そう言って改めて構えを取った。
…デカい
…実際よりもデカく見える。
せやけど気後れする訳にはいかへんっ!
先ずは様子見で打撃を繰り出す!!
俺の憧れの人、前田日明
直伝の右ローキックやっ!!
…まぁ直伝ちゅうのは嘘やけど…
これが奴の左膝横にクリーンヒット!
どうやらローキックの対処法はわからんらしい。
となるとここは連撃やっ!
初代タイガーマスクこと佐山聡よろしくマシンガンキックを叩き込むっ!!
右、左、右、左とローの連打っ!!
これが面白いように当たる当たるっ♪
奴のゴリラ顔が苦痛に歪み、ついにバランスを崩したその時や!!
「勝機っ!!」
そう叫んだ俺は、巨体の北尾をKOした高田延彦ばりの左ハイキックを繰り出したんやっ!
ローの連打で下に意識を向けといて、がら空きになった顔面にハイキックを叩き込む。
完璧や…完璧な流れや…
自分の才能が怖いわぁ…
ごめんなゴリラ君、天才で♪
と…思ったんやけど…
「なぁ~にが勝機っ!じゃボケェ」
奴の顔面に吸い込まれるはずだった俺の左脚は、類人猿ばりのそのぶっとい右腕に阻まれてたんや…