からのぅ~
「お前…今のままでええのんか?」
そう問うた山田に、踞まり歯を喰いしばったままで林田が答えた。
「ええ訳無いやろ…」
「それやったら…」
「わかっとるわいっ!!」
山田の言葉を遮って、吐き捨てる様に言った林田。その顔は見てられへん表情をしとった…
自分の格好悪さ…
自分の情けなさを誰よりも解っとる…そんな顔やった。
「自分でも解っとるんや…このままじゃアカンて…ずっと連るんどったお前や金木は職に就いてもぅた…
それやのに俺は相変わらずプータローや。
なんや俺だけが置いて行かれてしもぅた気分でな…
かといって人が突然変われる訳もあらへん。そんな事ばっかり考えとったら毎日イライラしてなぁ…で、気分転換に女でも引っ掛けたろ思たらこの様やろ?
ほんま…どないしようもあらへんわ…」
「なぁ…林田よ…」
「あん?」
顔を上げた林田の顔面を、直ぐ様 山田の拳が打ち抜いた。
揉んどりうって吹き飛んだ林田が、信じられへんもんを見るような目を山田へと向ける。
怯んで動かれへん林田を、尚も山田が一喝した。
「何を甘えた事抜かしとんじゃこのボンクラがぁっ!!」
「……!!」
「ワシも金やんも、お前と連るんどる時からずっと自分自身〝このままやったらアカン〟そない思っとったわいっ!!
高校も行ってへん…
仕事もしてへん…
金も親からせびる…そらええ訳あらへんわのぅ?でもなっ!同世代の奴等が高校卒業を迎えるのを切っ掛けに、今度こそ変わったろ思て仕事に就いたんやっ!!お前はいきなり人は変わられへん言うたなぁ?確かにそうかも知れん…せやけどお前は変わる為の行動すら起こしとらんやんけっ!」
「……」
「行動を起こしたか起こさへんかったか…今の俺達とお前の差なんざぁそれだけの事やっ!
お前が本気で変わるつもりなんやったら、今からでも遅無い…真剣に仕事探せや。
そんで…見つかったら連絡して来い。
そん時ゃまた金やんと3人で集まろや…
就職祝いに酒でも奢ったるから…よ」
泣いとった…
林田の奴、ブサイクな面を更にブサイクにしながら泣いとった…
でもな、不思議な事に俺にはなんか格好良く見えたんや…
エグッ…フングッ…グスッ
??
はて…林田とは別に泣き声が…
って!島井っ!!なんでお前まで泣いとるねんっ!?
「ええ事言うのぅ…流石は兄弟や…ワシャ猛烈に感動したでぇ…フングッ…ヘグッ…」
あ、そうですか…
因みに…
こいつの泣き顔は全然格好良く見えて無いんで、悪しからず。
その後直ぐに、俺達は林田を見送った。
なんや憑き物が落ちたみたいに晴れやかな顔で手を振っとったわ…
あの様子やと、アイツが山田や金木と集まるんもそう遠い日の事や無いやろな。
しかし…柔がナンパに誘って来ると、いつも何かしらトラブって結局はナンパが出来ず終いやなぁ…そんな事を思っとったら…
「おいっ勇よっ!お前、せっかく俺がナンパの極意を授けようとしとったのに、メモ1つとって無かったやろっ!?」
「え?…あぁ…」
「え?…あぁ…とちゃうわっ!ちったぁそこのゴリラ2頭を見習えよ、人の言葉を理解して熱心にメモまでとる…こいつら出来るゴリラやぞっ!人であるお前が負けてられんやろ?」
「……」
「なぁ島井の兄弟よ…アイツのうざってぇドレッドヘアを毟り取っても良いだろうか?」
「まぁ待て…焦るな山田の兄弟!もう少し…奴から女の子を落とす極意を聞き出す迄の我慢や…」
言いながら島井が引きつった笑顔を浮かべたが、柔はそんな事は気にも留めずに俺への説教を続けてはる…
「勇、お前は顔も悪くは無いし、暑苦しいけど性格だって悪くない…テクニックさえ身に着けたら女子の1人や2人、簡単に落とせると思うで」
そう言った柔が今度はゴリラブラザーズに向き直り…
「あ、お前等は紛う事無きブサイクやから、今以上に精進するようにっ!」
指をさしながら言い放つ。
「なぁ島井の兄弟よ…やっぱアイツのドレッド…」
「うむ、許可しよう」
山田が言い終わるより前に承認した島井、背後から柔を羽交い締めに捕らえると…
「さぁ山田の兄弟よ…今こそ積年の恨みを晴らそうぞっ!!」
対する山田も…
「応よ、晴らさいでかっ!!」
「や、やめれぇ~」
手足をジタバタさせて抵抗する柔に俺は言うたんや…
「悪い、柔…俺、今後はナンパには参加せぇへんから」
「は?」
「へ?」
「ほぇ?」
3人がそれぞれに驚きのリアクションをとった。
まぁそのお陰で、さっきのドタバタ劇も幕を下ろしたんやけどな。
「参加せぇへんて…何でや?不登校とは先生悲しいでぇ…」
「アホ!誰が先生やっ!ったく…まぁ理由はぁ…そのぅ…何て言うかぁ…好きな子が…出来た…みたいな?」
「……」
「……」
「……」
今度は3人全く同じ、無言のリアクション…
からのぅ~
「ええぇぇ~~っ!?」
「ええぇぇ~~っ!?」
「ええぇぇ~~っ!?」
ほらやっぱり…そうなると思ったわ。
「す、好きな子って…ま、まさかさっきの毒舌女か?」
「ん…まぁ…あっ!せやっ!!柔、お前のせいで名前訊きそびれたやんけっ!!」
実はさっき彼女に名前を尋ねた時、こんな事があった…(以下回想)
俺「名前…名前を教えてくれへんか?」
彼女「え?ちょ…何んなん?…いきなり…」
柔「HEY!そこのプッシーちゃん♪コイツがそんなん訊くなんて珍しい事でな…ここは気持ちよぅ教えたってくれんか?」
彼女「はあっ!?誰がプッシーやねんっ!!最っ低ぇ~っ!アンタ等みたいなんに関わっとる時間が勿体無いわっ!そこのドレッド!次、私の前に顔出したら、そのうざったい髪の毛引っこ抜いたるからな!覚悟しぃやっ!」
そう言うと彼女は、柔に向かって何度も
〝バ~カバ~カ〟と叫びながら去って行ってしまったんや。
「無い…無いわぁ~…流石にプッシーちゃんは無いでぇ柔…」
「ん、まぁそれもまた人生…ってやつやな」
「…意味わからんのだが?」
「ハハハッまぁ細かい事はええがなっ♪それよりも勇、お前…本気なんか?」
「自分でもわからへんのや…でも彼女の事を考えると…こぅ…胸が締め付けられる様な感じがして…」
「勇、それは病…やな…」
へぇ…柔の奴、ベタに〝恋という名の病さ〟とか言うつもりやなww
「勇よ…今、保険証持っとるか?」
「へ?」
「いや…胸が締め付けられるって…心臓病とか乳ガンかなぁ…って…俺が付き添うから病院行こうや…」
「にゅ、乳ガンて…」
「ま、それは冗談として…仮にお前があの子を本気で好きになってたとしてや…今のスキルで落とせる自信あるんか?」
「ングッ…それがそのぅ…」
「せやろ~?だからこそやな、私目が主宰しているこのナンパ講座に参加する意味があると思うのだよ。そしてそこのゴリラ2頭を出し抜いて、脱チェリーボーイの1番乗りをだな…」
ここで山田がソロリと小さく手を挙げた。
「え~と…ちょっとええかな?」
「ん?どした…山田?」
「なんや1括りにされとるみたいやから言うけども…俺、彼女が居るのだが?そして春からは一緒に暮らすのだが?」
「……」
「……」
「……」
からのぅ~
「ええぇぇ~~っ!?」
「ええぇぇ~~っ!?」
「………………」
さっきの流れからして3人同じリアクションになるかと思いきや、島井だけは余程ショックが大きかったのか、ここでも無言のままやった。
そしてこの日から暫く、ゴリラブラザーズは活動を休止したのだった。




