始まってしまった
駆けつけた俺達に、絡まれてた女の子が尖った目で言うた。
「なんや…えらいアホ面が来たみたいやけど、アンタ等もこの出っ歯の仲間かっ!?」
「ははは…アホ面やて。柔、あんなん言われとるぞ」
「いやいや御謙遜を…アホ面と言えば勇くん、勇くんと言えばアホ面。そんな君を差し置いて僕がアホ面を名乗れますかいな…」
そんな事を言うてると…
「そっちのドレッドはえらいチャラそうやなぁ…うちの1番苦手なタイプやわ」
て事は…やっぱアホ面って俺の事やったんかいっ!いやいや…落ち着け俺、まだ島井と山田って線も残っとるぞ…
「んでもって残りの2人は…なんやゴリラかいな。ゴメンゴメン!人やと思ったから2人って言うてしもたけど、ちゃんと言い直すわ…2頭ね♪」
…やっぱ俺に確定…か。
しかしこの子、ズバズバとはっきり物言う子やなぁ…
「でっ!どないやのんっ!?アンタ等もコイツの仲間かって訊いとんねんっ!!」
「いや…知り合いではあるけども、仲間ってのとはちゃうなぁ…てか俺達は自分が叫んどるの聴いて助けに来てんけど?」
言った俺を上から下まで、彼女が舐める様にして見てる。
で、顎に手を当てながら…
「ふ~ん…えらいゴツイ身体しとるやん。よう見たら他のも皆んなゴツイなぁ…まぁあの2頭はゴリラやから当たり前か♪」
そう言ってキャハハと笑う。
肩の辺りで自分の髪を指にクルクルと巻き付け、八重歯を覗かせる彼女の笑顔は正直可愛いかった。
まぁメチャクチャ口は悪いけどな…ハハハ
「なぁ島井の兄弟よ…なんや俺、死にとぅなってきたわ…」
「アカンッ!アカンぞっ!山田の兄弟っ!心だけは折るなっ!!そうすりゃ俺達ゴリラブラザーズにも必ず春は来るっ!!」
そんな心の強いお前は流石やで島井っ!!
まぁ…春が来るかは置いといて…
てか兄弟って呼び合っとるんかいなっ!?
しかもゴリラブラザーズて…もう完全に認めてますやん。
山田よ…認めとるならゴリラと呼ばれて落ち込んだ意味が解らんのだが?
「ま、こんなボンクラ私1人でも全然大丈夫やねんけど、助けに来たって言うんやったらお手並み拝見させて貰おかなぁ…自分で片付けるんも面倒くさいし♪」
つ、強気やなぁ…
女子にこんな事言われたら…そう思って林田の方を見てみると……
そりゃそうですよねぇ…
ものの見事に顔色変わってはるわ。
あの時と同じく、凶暴な目で彼女を睨んでるもの…
「くぉらぁっ!クソ女っ!!ワレ今なんつったっ!アアンッ!?」
声を荒げた林田に対し彼女は…
「いやぁん怖いぃ~♪助けてそこのお方ぁん♪」
口元に両手を当てながら腰をクネクネさせてはる…
すごいね…この子…
すると林田、絵に描いたチンピラ風情で女の子へと近づいた。
「ワシャ~ワレの物言いが気に入らんのじゃっ!コイツ等は関係あらへんやろがいっ!!」
そう言いながら伸ばした手で彼女の髪の毛を掴もうとする。
〝あ、ヤバッ!〟
俺が助けに動こうとしたその時…
「グエッ!」
林田が、潰れたカエルみたいな声を発して地面に転がってたんや。
「え?」
俺達が呆気にとられてると、彼女が林田に向かって啖呵を切った。
「女や思ってナメんときやっ!言うたやろ?自分みたいなボンクラ、私だけでも余裕やてっ!!」
そのまま林田の腕を背後に回して関節を極めると、奴の口からは言語じゃない声が飛び出した。
俺が〝そいつのギブアップには気ぃつけや!ギブミーアップル言うて騙すかも知れんからっ!〟と、注意を促そうとした時、山田の奴が2人の所へ歩み寄った。
「なぁ…そこらで勘弁したってくれへんか?ソイツは前につるんでた奴でなぁ…アンタの言う通りどうしようも無いボンクラやけど、かつての仲間がこれ以上女にやられるのは見たないんや…」
彼女は山田を一瞥すると、極めていた腕を投げ捨てる様にして解放した。
「このゴリラ兄さんにちゃんと礼言うときやっ!!」
腕を押さえ踞る林田に吐き捨てると、今度は俺の方へヅカヅカと近づいて来る。
「自分!助けてくれる言うたんちゃうんっ!?グズグズしとるから結局自分でやってもぅたやんかっ!!」
「お、おぅ…ゴ、ゴメン」
「ったく…これやから男は…」
ブツブツと文句を垂れとる彼女に、俺は自分でも信じられへん事を口走っとったんや…
「名前…名前教えてくれへんか?」
どうやら、俺の恋が始まってしまったらしい…




