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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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次のステージ

高校生活最後の冬休みに入った。

この頃には金木の傷もすっかり癒え、俺は延期となっていた奴との対戦の事を考える日々。

そして…

それとは別にもう1つ、ある事を計画してるんやけども…俺だけの考えでどうなる物でもあらへんし、何よりそれには室田師匠の協力が必要や。


せやけど、師匠にこれ以上の無理は言えん…

だってそやろ?

元々は師匠がある格闘技団体に入るまでの数ヶ月って約束で御指南いただいてたのを、俺が無理言うて引き伸ばして貰てるねんもん。

それに…最近の師匠は何かがおかしい…

顔色も悪いし、痩せてきてはる…

ただでさえ痩せてはるのに、もはや〝鶏ガラ〟みたいや…

なんぼアホな俺でも、体調がすぐれん事くらいは一目で判る。

そんな状況でやっぱこれ以上の無理は頼めんやろ?

で、とりあえずその計画ってのを柔にだけは相談してみた。


「…って事を考えとるんやけど…お前どない思う?」


「はぁっ!?また突拍子も無い事を…お前…正気か?」


「あぁ正気で本気やっ!せっかく縁あって繋がった面子やからな…何かしたいって思うやん?」


「まぁその気持ちは解らんでも無い…でもなぁ俺とお前はともかくや、大学入試目前の正大は絶対に無理やし、島井の奴も冬休みの間は国士舘の柔道部へ出稽古に行く言うてたで。それに…金木はその話には乗らんのとちゃうかなぁ…」


「なんでや?」


「ん…理由はわからんけど…アイツは俺達とはツルまへん…ただそんな気がするわ…」


「ふ~ん…そっか…しかしそない考えたら俺達の卒業が近いってのを実感するなぁ…せっかくええ考えやと思ったけどやっぱ無理かぁ…」


「知り合った格闘家同士で技術交流出来る部活みたいな場を作る、ほんで室田さんに顧問をお願いする…かぁ。まぁアホの割には無い知恵しぼって面白い事を考えたとは思うけどな、1年生の頃ならともかくなんせ時期が悪いわ…」


「そうよなぁ…残念っ!!それはそうと柔、お前は冬休み何して過ごすねん?」


「ん…俺も2月に久々の試合があるからなぁ…多分練習漬けの日々になるんちゃうかな…」


憂鬱な表情でドレッドヘアを撫でた柔。

よっしゃ!ここは1つからかって差し上げますか♪


「て事は…暫くは禁欲生活やのぅ♪その間は世のいたいけな女子も安心して過ごせるっちゅう訳やな!結構結構♪」


すると柔、小鼻を膨らませて抜かしよった…


「アホゥ…他の連中はどうか知らんが、俺にとって禁欲は強さになんぞ繋がらへんっ!!女の子こそが俺の活力っ!!見くびって貰ろたら困るな」


カァ~…よくもまぁいけしゃあしゃあと…

(いさぎよ)くて逆に感動すら覚えるわ…

と同時に俺の頭にある疑問が浮かんだ。


「なぁ柔…お前、金木の連絡先知っとるか?」


「ん?あぁ…連絡取る事は殆んどあらへんけど一応LINEは知っとるぞ…どないした?」


「今から会えんか訊いてみてくれん?」


「お前…まさか今からアイツと()り合うつもりちゃうやろな…?」

柔が白い目を向けとる…


「アホかっ!いくらなんでもいきなりそんな事せぇへんわいっ!!」


「どうだかな…お前は強い奴と()り合えるとなったら見境い無くなるからなぁ…ほんま野良犬みたいな奴っちゃで」


「可愛い子とヤレるとなったら見境い無くなる、お前の方がよっぽど野良犬やろが…」


黙ったままスマホをいじりだす柔。

いや、俺の会心の反論は無視かいっ!!


ピコン♪


「おっ!?アイツえらい早い返信やな…ええっとなになに?…良かったのぅ勇、会えるらしいで。前に()り合った長田漁港で1時間後に…やとさ」


「へぇ…まさかアイツの方が今から俺と()り合うつもりとちゃうやろな…?」


ほんの少しだけの期待を胸に、俺は柔と一緒に長田漁港へと向かったんや。


漁港に着くと金木は既に来とった。

船着き場の地面に直接座り込んで、ボ~っと海を眺めとる…

おぅおぅアイツめ!格好つけて黄昏とるのぅ♪


「よう、お待たせっ!」


声を掛けると奴は、一瞥だけしてまた直ぐに海へと視線を戻した。そしてそのまま…


「いきなりやのぅ…何の用や?」


ぬぅ…久々の再会に第一声がソレかいや?

まぁええわ…

とりあえず俺は、どストライクの直球を投げてみた。


「なぁ、延期なっとる俺達の闘い…どうするよ?」


「……」


グッ…む、無視かっ!?

柔といいお前といい…ちぃと礼儀っちゅうもんが欠けとるんでは無かろうか?

しかぁしっ!そこは大人な僕チン、怒りをググイと抑え込みニコやかに返事を待ってみる。


「……」


「……」


いや…あの…もしも~しっ!?

痺れを切らした俺が口を開こうとしたその時…


「お前らももうすぐ高校卒業やのぅ…」


へ?いきなりやな…まぁええわ…


「お、応よ…しかし(なん)やいきなり?」


「お前らも知っての通り、俺は高校には行ってへん…だから別のもんから卒業する事にしたんや…」


「別のもん…?」


「ああ。ヤンチャとプータローから卒業するんや♪」


茶目っ気ある笑顔でアイツはそう言った。

知り合いがやってる不動産関係の会社に誘われ、そこに入る事を決めたらしい。


「ええ話やないかっ!おめでとうさんっ!!」


「フッ…ありがとよ。お前との闘い、受けてやれんで申し訳無いが…な。もし又プータローに戻ったら、そん時ゃ受けたるでよ」


「なら…もう闘わんで済む事を願っとくわ」


「へっ!…話はそれだけか?なら俺はもう行くど…」


立ち上がって背を向けた金木…

そこへ柔が初めて声を掛けた。


「ようっ!」


「あぁ?」


「初任給入ったら…なんか奢れよな。お前に怪我させられたからよ、慰謝料代わりと思やぁ安いもんだろ?」


「……悪くねぇ話だな」


この時〝俺も〟って言おうとしたけど、この2人の間に入り込むのは野暮な気がしてやめといた。


「またな…頑張れよ金木」


「応…次のステージでも根性見せたるわい…じゃあな暮石、お前もプロで頑張れや…」


そう言うと金木は、それっきり振り返りもせず行ってしまった。

俺は…多分柔もやけど、大きな嬉しさの中にほんの僅かな寂しさを感じながらその背中を見送ったんや…




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