女子かっ!
病院に行った帰り、俺達は兵庫駅近くのファミレスに寄っていた。
「しかし…意外やったよな…」
「確かにね…僕も恫喝されるのを覚悟していたのだが…」
そんな会話を交わした俺と正大やけど、柔だけが違う意見を口にした。
「そうか?俺はアイツらしいなと思ったけどな」
やっぱ直接に闘り合っただけあって、柔だけが俺達の知らない金木を理解しとるんかもしれんな…
この台詞を聞いて、ふとそんな事を思った。
あ、先ずは病室での様子を話すのが先やったな、ゴメンゴメン…
(俺は誰に話し掛け、誰に謝ってるんやろか?)
最初に病室に入ったのは柔やった。
次に俺が続き、最後に足を踏み入れたのが俯いて小刻みに震えてる正大やった。
それを見た金木は…
「なるほど…俺を恨んでる奴…そうかお前やったか」
びっくりするくらい静かに、うっすら笑顔まで浮かべながらそう言ったんや。
でもその笑顔は決して怖いものでは無くて、ただ純粋に再会を懐かしんでる感じ…俺にはそう見えた。
でも正大は相変わらず俯いたままで、まだ金木の姿すらまともに見とらへん。
だから俺は奴の背中を軽く突いて、1番前へと押し出してやった。
ベッドの直ぐ側までヨロヨロと歩み出た正大に、今度は柔が声を掛けた。
「ちゃんと顔を上げてコイツの姿を見ろ…お前がやった事の結果がこの姿なんやからな」
正大が恐る恐る顔を上げた…
「!!!」
想像以上やったんやろな…
手足をギプスで固められてベッドに寝たきり…
そんな金木の姿に正大は明らかに動揺してたもの…
そんな正大に柔が追い討ちをかけた。
「どや?これがお前のやった事…お前の望んだ結果や…満足か?」
「ち、違うっ!こんな…こんな…」
「お前くらいのオツムならこうなってる事は想像ついたやろがっ!!今更〝そんなつもりや無かった〟なんて下らん事はヌカすなよっ!?」
あ~ぁ…せっかく金木が穏やかやのに、お前がキレてどないすんねん…
金木も同じ事思ったんやろな、呆れた様に柔をたしなめよったわ。
「おいおい暮石…人の病室で大声出さんといてくれるか?また怖ぁ~いナースが来てまうやろが。ましてその台詞、俺が言うならまだしも何でお前がキレてんねんな」
「……それもそやな」
鼻から小さな溜息を1つ出した金木は、そのまま正大へと視線を移し…
「久しぶりやのぅ中学卒業以来か…まぁ厳密にはこないだ会っとるんやけども、あん時のお前、ミル・マスカラスやったからよwww」
普通に楽しそうにゲラゲラ笑い出しよった。
対する正大はどう対処していいのか戸惑ってる。
「僕は…僕は…」
そんな正大に柔が、今度は優しい声で言ってやった。
「さっきの決心を思い出せよ…お前にはやるべき事、言うべき事があるんやろ?その為にお前はここに来たんやろ?」
これで正大の表情は一気に変わりよった。
柔…やるやん♪
「金木君…僕がやった事は謝って許される事じゃない…それは解っている。でも…それでも…謝罪したくて恥を承知でここへ来た…本当に済ま…」
「悪かったな…」
最後の謝罪を遮るように金木が呟いた。
「え?」
「今になって思う…中学時代、俺達がお前にしてた事はメチャクチャかっこ悪い最低の事や…
お前が俺を恨むんも当然やと思う…
だからこそ謝るのは俺の方やろが?」
「いや…それじゃあ僕がここに来た意味が…」
「お前…ここに来る為に勇気を振り絞ったんやろ?相当な覚悟でここに立っとるんやろ?」
「まぁ…そうだが…」
「ならそれでええ。もう充分に気持ちは受け取ったさかいな」
「……」
「ただし…次は素顔で正面からかかって来い」
「い、いやいやいや…もう闘り合うつもりなんて…」
「ハハハッ…冗談やがな冗談♪相変わらず〝お堅い〟奴っちゃのぅ♪」
そんなやり取りの後は、小一時間ばかし普通に会話を楽しんで過ごした。
なんや拍子抜けというか…なんというか…
だから冒頭で俺と正大は〝意外やった〟って言った訳。
「お!?来た来た♪」
柔が子供みたいな声をあげる。
注文していた品が運ばれて来たからや。
俺はオーソドックスなサンドイッチとアイスコーヒーのセット。
正大はホットケーキ…あ、今はパンケーキって言うんやっけか?アレとホットコーヒーのセット。
そんで柔は…
柔は…
スペシャルパフェと来たもんだっ!!
女子かっ!?
お前は女子なんかっ!?
正大のパンケーキも大概やけど、ドレッドヘアのゴツい野郎がパフェて!!
先ずはスマホで写真を撮って…
鼻歌まじりに長いスプーンを差し込むと、満面の笑顔で口に運びよる…
あげく頬っぺたに手を当ててニコニコしとるし…
いや、だから女子かってばよっ!!
「美味しぃ~♪最高ぅ~♪たまらぁ~ん♪♪♪」
なんか言うとるし…
きしょい奴を横目に俺もサンドイッチにかぶりついた。
「うんまっ♪」
そんな俺達を見て正大が溜息まじりに首を振る。
「まったく…君達の語彙力ときたら…」
それを受けた柔、点になった目を俺に向けた。
「ゴ、ゴイリョク…はて?勇くん…どうやら彼は我々の知らない言語を操るようだよ。流石は我が校トップの頭脳と言うべきかな?」
「うむ、そうだね。今風に言うならば〝バイオリンギャル〟ってやつかな…ここは素直に彼の知性を称えておこうではないか柔くん」
「ほう…複数の言語を操る者を〝バイオリンギャル〟と言うのかね?なんか金持ちのお嬢様みたいな響きだね…野郎でもギャルとはこれ如何にって感じではあるがそれは知らなかった。なかなかどうして、勇くんも博識であられるな♪」
「いやいや♪それほどでも♪」
ここでついに正大の堪忍袋の緒が切れた…
「いい加減にしろっ!それを言うならバイリンガルなっ!!そもそも語彙力ってのは日本語だっ!!言葉をどれだけ知ってるか…その引き出しの数を表していて、ボキャブラリーとも言い変えられるっ!」
「うん、はいはい…知ってた…」
「あ、ゴメン正大…いま俺パフェ食うのに忙しくてさ…また今度、暇で死ぬかもしれんっ!て時が来たらその話聞かせて貰うわ」
「はぁ~…まったく君達には閉口させられる…」
「ヘーコーって口を閉じるって事やんな?そりゃありがたいわ♪」
「なんて言い種だ…わかったよ、もう何も言わない…」
正大が疲れた顔でパンケーキにナイフを入れる。
そして俺は2つ目のサンドイッチをかじりながら柔へ告げた。
「あ、柔…わかってるやろぅけど、俺〝オケラ〟やからな、ここのお代も頼むで♪」
「はっ!忘れとったわ…てか、テメェッ!!金無いくせによくも1番高いもん注文出来たなっ!!」
「まぁまぁ、よしなによしなに♪」
「ぐっ…また訳の解らない事を…」
ここでパンケーキを口に運びながら正大が静かに口を開いた…
「因みにだが…僕ももう手持ちは殆んど無い…ここは頼りにしているよ、暮石大蔵大臣殿♪」
「マジかお前らぁぁぁ~~っ!!」
「お客様…他のお客様に御迷惑となりますので、お静かに願います…」
叫ぶ柔にウェイトレスが冷ややかな目で告げた…




