断末魔?捨て台詞?
俺の肩で正大の背骨がギシギシと軋んどる。
苦痛に洩れる正大の吐息が手伝って、なんやラップのリズムに聴こえてきたわ。
よし!ええ頃合いやろ!!
このエセシュートレスラーをそろそろ楽にしたるか♪
「さて、時に正大くん…今から君にとどめを刺すのはチィ~とばかしキッツい技や…心の準備はいいかな?」
「た、たとえ…どんな…わ、技だろうと…ふ、普通のプロレス…の…わ、技ごとき…し、凌いでやる…さ…」
「あっそ…」
この状況でまぁだ減らず口叩くか…
いや、それどころか身体を捻って体勢を変えようとまでしとるやんけっ!!
…なぁんてね♪
実は技に移行しやすくする為、奴を捕らえてた力をわざと緩めてやったのよねぇ…
そうとも知らずに正大の奴、苦しい仰向けの体勢を変えようと少しずつ身体を捻りよるわ♪
お?ええぞええぞ、その調子や!
ほれ…もう少しや、頑張れ頑張れっ!!
荒い息を吐く正大に、心の中で声援を飛ばす俺。
すると正大の奴、身体を横向けにしてついにバックブリーカーの状態から脱出しよった。
ほんでこの上ないほどのドヤ顔で
「見たかっ!ついに抜け出してやったぞっ!!勝利を確信して油断が生まれたようだねっ!?僕をフックしている力が緩んでいた事にも気づかないとはっ!!」
とか言いよる…
しゃあない…少しノッたるかいのぅ…
ノらんのも無粋やしな…
ま、関西人の矜持ってやっちゃ。
「あっちゃ~!抜け出されてしもたかぁ~!
失敗失敗!僕、困っちゃうぅ~」
柔が〝こいつ…死ねばいいのに〟と言わんばかりの目で俺を見とる…そんな目でこっち見んなっ!!
俺かて好きでやっとるんちゃうねん!!
これは俺の優しさやねんっ!!
俺の成分の半分は優しさで出来てんねんっ!!
すると今度は正大の奴が調子に乗った台詞を吐きよった…さっきまで苦悶の吐息しか吐いてなかったその口で…
てかコイツ…まだ俺の肩に担がれたままやって事、忘れてるんちゃうやろか?
「関節技ってのはね…アレンジ次第でそのバリエーションは無限になるのさ。こんな状況からでも狙える技はいくらでもある…それを教えてあげるよ」
「やだ怖いぃ~」
とりあえずもっかいノッた俺を柔が(以下略)
更に調子に乗った正大が担がれたまま耳元で叫ぶ
「勝機っ!!」
……もういいよね?
俺、十分にノッてあげたよね?
自己犠牲のもと、やれる事はしてあげたよね?
もうこのカオスを終わらせても…いいよね?
てか、誰が何と言おうと終わらせるっ!
もうやってられんわいっ!!アホらしっ!!
俺の肩の上で何かやろうとワチャワチャしとる正大に
「なぁにが勝機じゃボケェ~~ッ!!」
俺は叫んだ…
溜まりに溜まったストレスを全部吐き出すかのように…
そうしてスッキリした俺は奴の頭を再びフックする。
たださっきと違うのは、正大の身体が仰向けでは無く俯せだって事。
そして股間にも手を差し込むと、奴を逆さにしながら勢いをつけて横向けに倒れ込んでやった!
そうっ!デンジャラスクイーンこと北斗 晶の必殺技〝ノーザンライトボム〟やっ!!
最初にマットへ落ちたのは、頭をフックしてた俺の手…
せやから正大の頭部はマットに直撃してへん…
それでも失神こそしてへんものの、動く気力と大口を叩く力は無くした様子や♪
俺は大の字に横たわる正大の身体に覆い被さると、片手で奴の片足を引っ張りあげてやる。
皆もテレビのプロレス中継で観た事あるやろ?
よくあるフォールの体勢、片エビ固めってやっちゃ♪
んで、すかさず柔へと目配せする。
勿論3カウントを求めてや!
「ワンッ!・トゥッ!……スリ~~ッ!!」
柔の手が絶妙なリズムでマットを叩いた。
〝トゥ〟と〝スリー〟の間に少しの間隔を作るとこなんか憎いよねぇ、柔の奴もプロレスを解ってらっしゃる♪
何はともあれ俺の勝ちやっ!
立ち上がった俺は、今回も柔へ手を差し出して勝者コールを自ら要求する。
しかし柔も慣れたもんやな…今回は嫌な顔1つせんと、手を出すと同時にそれを高々と掲げてくれたわ♪
そして俺を指差しながら、居もしない観客へ高らかに叫ぶ!
「ウィナ~~ッ!!」
あ、これも発音は普通なのね…
一周回って、変な発音を少し期待してしもぅたわ…ハハハ
片腕を掲げられ、勝者コールを受けながら俺は、まだ大の字のまま横たわる正大へ言ってやった。
「どやっ!?お前が斜に構えて見とる〝ストロングスタイルのプロレス〟これがその力やっ!!」
すると正大の奴が何やらボソボソと言うてはる…
でもダメージで大きな声が出せないらしく、全くと言ってええほど聞き取れない…
そこは成分の半分が優しさで出来てる俺、自ら奴の口元へと耳を近づけてやったさ。
え~と…なになに?
「き、君は…今…斜に構えるの…つ、使い方を…間違えて…いたよ…斜に構えるって言葉…は…侍が…か、刀を抜いた型を表し…真剣に物事へ…取り組む…って意味…だ……も、物事を斜めに見る…と…こ、混同せぬ様に…気を…つけ…て」ガクンッ
言い終わると同時に失神て…
なんちゅう断末魔やソレ…
もうソレ、断末魔や無くて捨て台詞やんけ…
そして例の如く俺は、柔へと視線を投げて無言で問い掛けた
(知っとった?)
「ハ、ハハ、ハハハ…み、見くびって貰っちゃあ困るよ君ぃ~…ぼ、ぼかぁこう見えても、こ、国語だけは得意なんだよ?」
「…得意って…どれくらいよ?」
「ゆ、唯一…赤点を免れてる…くらい」ガクン
その台詞を最後に柔も失神…
ええか正大?…これこそが正しい断末魔や!!
柔…見事や!見事な散り様やっ!!
俺はこの目にしっかり焼き付けたでっ!!
俺は哀悼の意を込めて倒れた2人に手を合わせると、その骸に背を向けトレーニングルームを後にした…かったんやけども
「ふざけるなよっ!!」
「そうやぞっ!待ったらんかいっ!!」
狸寝入りをやめた2人がそれを許さなかったとさぁ…めでたしぃめでたしぃ




