嘘つき怪獣〝ヤワラドン〟登場
柔が使う英語の発音にはイライラさせられたけど、今はそれどころや無い。
素敵な目付きで俺を睨んどる奴を倒す事に集中せんとな…
俺が構えを変えたのを見て、正大の奴も構えを変えた。
打撃を警戒してのアップライトスタイル…
せやけどレスリングの構えの時みたいには様になってない。
どうやら打撃に関してはズブの素人らしいな。
どれ…いっちょ試してみますか♪
鈍い音が鳴った。
また鳴った。
またまた鳴った。
俺の脛が奴の肉を打つ音…
奴の反応を見る為に出したローキックの連打が面白い様に当たる。
えっと…
これ…このまま倒せてしまうんちゃうやろか?
だってほら…正大の奴、すんげぇ嫌そうな顔してるもの。あんなに脂汗までかいて…
そして4発目、ローを放つと見せ掛けて途中で軌道をハイに変えると、正大は呆気ないほど簡単に崩れ落ちた。
「ダァウンッ!!勇(you)、ニュートゥラァルコーナーに下がってっ!!」
うん…柔君…
ちゃんとレフリーを務めてるくれるのは助かるんやけども、やっぱその発音どないかならんかね?
ダァウンて…
ニュートゥラァルコーナーて…
そもそもマット敷いただけやのに、どこにニュートラルコーナーがあんねん…
いや、それよりも…
今、俺の名前をyouって英語っぽく発音したやろっ!?ジャニーさんかお前はっ!!
まぁ言いたい事は色々あるけど、とりあえず言われた通りにマットの角へと移動した俺。
偉いよねぇ…
「ワ~ンッ!」
「トゥ~ッ!」
「スリ~ッ!」
柔によって高らかにダウンカウントが進む…
って、そこは普通の発音なんかいっ!!
ボケの基本は三段オチやろがいっ!
関西人ならここも変な発音するんが作法やろっ!
…と、突っ込みたかったけど我慢する俺。
やっぱ偉いよねぇ…
6つ目の数字が数えられた時、正大の奴が歯を食い縛りながら立ち上がった。
「やれるか?」
柔の問い掛けに無言で頷く正大。
そりゃそうよな…こんな事くらいで終わられたら俺も肩透かしやわ。本気で出したハイキックでも無いしな。
両拳を上げた奴を見て、俺も構え直す。
仕切り直し…
あっ!て事は…
「ファイッ!!」
……やっぱそうなるよねぇ
また不快な発音を聴いてしもた…
そんな事を思った時、もう正大の顔が俺の太もも付近にまで迫ってた。
いらん事を考えてもぅたせいで、ちぃとばかし反応が遅れたやんけっ!
柔…覚えとけよっ!!
又もやタックルを仕掛けて来た正大やけど、初回の様なキレやスピードがあらへん。
高さも中途半端や。
どうやらさっきのローが足に効いとるみたいやな。
俺は余裕で腰を引くと、上からガブって有利な体勢で組み付いた。
奴は奴で、これ以上不利な形にならんようにと俺の腰に必死でしがみついてる…
そんでもってこの時、俺はある事に気付いた。
奴の身体…
全くと言ってええほど出来上がってない。
細い腕…
薄い胸…
貧相な胴回り…
格闘技をやる身体や無い。
したり顔で〝技術があれば筋力は必要無い〟なんて事を言ってる奴もおるけど、あれは嘘っぱちや。
圧倒的な筋力の前では、小手先の技術は潰されてまう…
やはり最低限の肉体は必要なんやけども、こいつはその最低限にも程遠い。
こいつの場合テストでは取った事無いやろから、俺がくれてやる…赤点を。
ファーストコンタクトは不意をつかれた形やから技を極められてしもたけど、このまま続けてもこいつに負ける事はありえへんと思えて来た。
よっしゃ!今からそれを証明したろ♪
俺は奴の腰を抱えると、そのまま肩に担ぎ上げたった。
所謂〝バックブリーカー〟の形や。
いや…
柔風に言うならば〝バァックブルィークァー〟やな。
「ンガァ~ッ!」
俺の肩の上で苦痛に叫ぶ正大。
俺はその耳元に優しく囁いてやる。
「なぁ…お前…軽過ぎるで。先ずは身体を作らんと、俺の相手には役不足やで?早いとこギバッ…いや…ギブアップしたらどないや?」
「ガッ…グッ…だ、誰がっ!!」
へぇ…コイツ、思ったより根性あるんかもな。
感心する俺に、今度は正大が苦しげながらも囁いた。
「ひ、ひとつ…い、言っておくが…君は今、役不足という言葉の…つ、使い方を…間違っていた…ぞ」
「…はい?」
「や、役不足の…ほ、本来の…い、意味は…ぎゃ、逆…なんだよ…ンガッ!…お、大仕事を…ま、任せるには…コイツじゃ…役不足みたいな使い方ではな、無く…え、偉い立場の…ひ、人に…ケ、ケチな仕事を…させるのは…や、役不足で…も、申し訳無い…って使うのが正解…だ…」
え?それ…今言う事っ!?てか、この状況でよく言えたな…とも思ったけど、よく意味が理解出来んかった俺は自然と柔へ視線を向けてた。
無言のまま視線だけで問い掛ける…
(知っとった?)
それを受けた柔…
「な、なんや勇っ!そ、そ、そんな事も知らんかったんかいやっ!?じょ、じょ、常識だよねそんなの…こ、こ、これだからやだよねぇ…バカは…ハ、ハハ…ハハハッ♪」
垂水体育館に嘘つき怪獣ヤワラドンが出現っ!!
「嘘つけっ!お前、400m自由形くらいの勢いで目が泳いどるやんけっ!!」
すると柔、遠い目をしながら口笛なんか吹き始めよった…
いや、ごまかし方が下手くそ過ぎるやろよ!
あっ!と…今はそれどころや無かったな…
とりあえず肩におるコイツを楽にしてやらな。
その直後…俺はプロレスの怖さを教える為に、ちぃとばかしキツ目の技を仕掛けたんや。




