サブイボ
腰を落とし両手を斜めに拡げた俺の構えを見て、島井は構えも取らずにキョトンとしよった。
「ワレ…その構えなんや?」
「何ってお前、見てわからんか?」
「わからんから訊いとるんやろがぃ!どう見ても打撃系の構えや無い…かと言ってアマレスや柔道ともちゃう…」
そんな事をぬかしよるから俺は胸を張って言うてやったんや。
「知らんのやったら教えたる!これはなぁキング オブ スポーツ…プロレスの構えやっ!!」
「プロ…レス…?プロレスやて?…ンフッ♪」
そう言うと島井は腹を抱えて笑い出した。
マジで笑い転げんばかりの勢いで。
「何が可笑しいんじゃいっ!?」
そしたら奴は、一頻り笑い続けてからこんな事をぬかしよった。そしてそれが俺の怒りに火を点けたんや…
「いや、お前…高校柔道界を背負っとるワシに、プロレスみたいな裸踊りで挑もうって…そりゃ笑わずにはおれんやろが?」
「裸…踊り…やと?」
「なんや、文句あるんか?あんなもん八百長の見世物…まさに裸踊りやろがぃっ!?」
「アッチャ~…そこのゴリラ君、君は言っちゃぁならん事を言うてしもたな…俺、知ぃらない♪」
柔がそんな風な事を言ったと思う…でもブチ切れた俺の頭はハッキリと覚えてない。
とにかくその時にはもう、目の前のゴリラを退治する事しか考えてなかったからな。
「ま…やってみりゃワレにも解るやろぅよ、ショーファイトとリアルファイトの差っちゅうのが…な」
嫌ぁ~な笑顔で両腕を肩の高さに掲げたゴリラ。完全にこっちを見下しとる…とにかくムカつく!ブチのめさな気が済まへんっ!!
(その余裕綽々の顔、今すぐ焦りに変えたるからなっ!!)
心の中で叫んだ俺は、先手必勝とばかり自ら仕掛ける事を選んだ。
まともに組んだら不利と考え、奴の足下へと低空タックルを仕掛けたんや。
しかし…
奴は足を後方に引き、上から俺の身体にがぶって来よった!
(しもたっ!!)
焦った俺は首と手足を竦めて、咄嗟に亀の防御体勢を取る。
奴はそんな俺に跨がると、耳元で勝ち誇った様に囁きやがった…
「柔道家のワシには下半身を攻めた方がええってか?…無い頭で少しは考えたみたいやけど、残念やったな…柔道にも両足を刈る技はあるんや。ワシが対処出来んとでも思ったか?」
「チッ…」
舌を打った俺に柔が声を飛ばした。
「オイッ勇っ!その体勢はマズいっ!仰向けになってガードポジション取らんかいっ!!」
「ほぅ…心強いセコンドがおって良かったのぅ…お友達はあない言うとるぞ?ほら頑張ってやってみぃや」
バックマウントを取った優位からか、奴は攻撃もせずに余裕の態度を見せる…
(でもなゴリラ君、それは余裕やなくて油断っちゅうんやで…今からそれを後悔させたるわっ!)
俺は尻を浮かせて奴のバランスを崩そうとするが、奴はロデオよろしく上手い事バランスを保っとる…流石は柔道家、寝技も上手い。
でも何度かやってる内に、奴と俺の身体の間に隙間が出来た!
そんなチャンスを俺が逃す訳あらへんっ!!
俺は後方へ一気に身体を引くと、小汚い奴の股間から脱出するのに成功したんや。
直ぐ様立ち上がって構えを取り直す。
でも奴はゆっくり立ち上がると、大して悔しそうな素振りも見せない。
いや…それどころか俺に対して拍手をして来よった…
パチ…パチ…パチ…
スローなリズムで耳障りな音が響く。
更にその上を行く不快さで奴の声も響く。
「上手い事やったやないかチビ助♪
せやけどワレかて気付いとるんやろ?ワシが本気やったら、とうにヤラれてたっちゅう事に」
「確かになぁ…お前はバックマウントを取っときながら全く攻めて来んかった。柔道家のお前やったらスリーパーなり腕十字なり極めれたやろぅに。お前は今から後悔する事なるで…さっき極めときゃ良かったってな!」
これに島井は鼻で笑いよった。
「今攻めんかったのは、言うたらウェルカムサービスや…でもこっからは一切手を抜かん…
全力で潰しにかかったるわ!」
改めて構え直した島井の顔は、それまでの物とは明らかに変わっとった。
その怖い目を見た俺は、ワクワクして…ゾクゾクして…
とにかく全身に鳥肌が出とったんや?