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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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毒と薬

「あたたたっ!!」

別に北斗百烈拳を使った訳や無いで…

左足首を貫かれた様な痛みに、思わず声を洩らしてしもただけや。


上からガブって潰したと思った時には、もう奴の身体はそこに無かった。

正大の奴…

タックルに来ると見せ掛けて、そのままヘッドスライディングするみたいな動きで俺の足首をキャッチしよった。

タックルに反応した俺が、足を後ろに引く事も計算した上での動きって事か…こりゃ思った以上に厄介な相手かもしれんな…


勝ち誇った(ツラ)で正大が上体を反らすと、俺のアキレス腱を襲う痛みが跳ね上がった。


「フングッ!…」

歯を食い縛りそれに耐える俺に…


「勇、ギバップッ!?」

レフリーの柔がこんな間抜けな事を訊いて来よった。

アホかっちゅうねん!こんなんでギブアップしてどないすんねんっ!!

てか柔…そのギブアップをギバップって言う発音、なんかムカつく。


勝ち誇ってた正大の顔が、みるみる悦に入ったもんに変わっていく…

どうやら苦痛に顔を歪める俺を見て楽しんでるらしいな。

ったく…奴隷が拷問受けるんを見て楽しむ貴族の遊びやあるまいし…いや、ただドSなだけかいな?

ま、どっちにせよお前の表情が一変するのはこの後すぐっ!!…と、TVのCM入る前みたいに言っておくわ。


俺は空いてる方の足で、正大の腕の付け根を突く様にして蹴ってやった。

その途端に奴の腕の締め付けが緩む。

その隙に捕らわれてた足を引っこ抜き、何事も無かったみたいな顔で立ち上がったったった!

…ネットでよく見る〝た〟を多く使う言い方してみたんやけど…どない?

え?作者の書き間違えかと思ったって?

いや…ちょっと何言ってるかわかんないっス…

と、まぁメタな話はこれくらいにして…

立ち上がった俺を唖然としながら見上げた正大。


「な、なんで…?」


「お前…技術書で極める技術ばっか覚えた様やな?人間には衝撃を受けると力が入らんようになる箇所が何個かあってな、今俺が蹴った大胸筋と腕の付け根の間もその1つや…弛んだ虎挟みを抜け出すんなんか簡単な事っちゅう訳♪」


「っ!!」


「ええか正大よ?極め方と逃げ方…攻め方と防ぎ方、これらは〝ニコイチ〟や、セットで覚えなアカン!言うたら今のお前は、毒の作り方は知ってるけど、それを治す薬の作り方を知らんって状態や…そういう奴は自分の作った毒で身を滅ぼす事になるどっ!」


く~っ!我ながら渋い喩えやっ♪

今俺、ええ事言うたっ!!

するとレフリーの柔が…


「どした?なんか悪いもんでも食ったか?」


「どういう意味やねんっ!!」


そんなやり取りをしてると今度は正大が…


「フフフッ…なるほどなるほど…確かに君の言う事は的を射ているかもね…でもね、攻撃は最大の防御とも言うだろ?

凌ぎ切れない程に攻め続け、追い込まれた君が最後にはタップする…そんなストーリーもあると思うのだが?」


なんて事を抜かしよった。

なかなかに言うてくれるねぇ♪上等上等っ!


「へぇ…そりゃ楽しみやな♪なら早よ続きやろうや、いつまでそうやって寝そべってるつもりや?チャッチャと立たんかいっ!」


「フフン…思ったより君は親切だな、僕に立つ機会を与えるなんて。せっかく攻め込むチャンスだったというのに…君こそその甘さが身を滅ぼすかも知れんよ?」


「ケッ!言うてろタコッ!!」


正大が立ち上がるのを待ってから、俺は再び構えを取った。

それも今度はプロレス式や無い…

ボクシングのクラウチングスタイルより少し重心を落とした形、総合格闘技に適した構えや。

それを見た正大の目の色が変わる。

どうやら俺の本気を察したらしいな。

奴も構えを変えた事がそれを証明しとる。

さっきの組技しか考えてへんかった低い構えから、打撃が来る事も想定したアップライト気味の構え…お互いにギアが1つ上がったって訳やな。


こうして再び対峙した俺達。

互いに口角は上がってるけど、目は全く笑ってへん。

そんな怖い笑顔で微笑み合う俺達に、試合再開を報せる柔の声が響いた。


「ファイッ!!」


やっぱ発音がムカつく…




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