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中指 立てたら  作者: 福島崇史
28/248

ブラック

垂水体育館に着くと、受付で料金を払いトレーニングルームへと入った。

あ、俺の分を払ったんは、柔 大蔵大臣やけどな…ハハハ


入るとそこは、想像してたような〝トレーニングルーム〟とは違った。

マシンなんかは一切置いてなくて、イメージ的には〝小体育館〟て感じやな…

壁際にはバレエ教室なんかでよく見る手すりがあって、部屋の隅には体操用のマットやら畳やらが積まれとる。

要するにここは、空手やら柔道やら体操やらバレエやらと色々な練習に使われとる部屋って事らしい。


「着替えてくるから少し待っていてくれ」

正大が言う。


「着替えって…お前トレーニングウェアとか持って来とるんか?」


「僕はここの常連でね…個人ロッカーに予備を置かせて貰ってる。あ、そうそう…君が本当に裸で()るつもりならば、シャワーを浴びて来てくれたまえよ?」


「え~…めんどくせぇ…男同士やし別にええやんけ…」


「まっぴら御免だね。何が悲しくて汗臭いマッチョ野郎と肌を合わせなきゃならないんだ。シャワーを浴びぬと言うなら裸は禁止だ!」


「チェッ!細かい奴っちゃのぅ…そんなんじゃ大成せんぞお前…」


「君にだけは言われたく無いし、少なくとも君より高い社会的地位には立つつもりだが?」


「ングッ……もういいです…とっとと着替えて来て下さい…」


「ん、そうさせて貰うよ」


フゥ…やっと行ってくれたか…

アカン!コイツに口では勝てそうもあらへん!

標準語も馴染めんし、なんや調子狂うわぁ…


5分程すると正大が戻って来た。

いっぱしのアスリートみたいに上下ピッチリした素材のトレーニングウェア…

拳にはオープンフィンガーグローブ、足にはレガースまで装着しとる…

形から入るタイプなのね…君。


「ん?服を着たままの所を見るとシャワーは浴びなかったようだね?」


「応よ!どうせ直ぐに終わるやろしな、わざわざ戦闘スタイルになるまでもあらへんわ♪」


「フフフ…だといいが…ね」


「ところでよ…お前はグローブとレガース着けてて俺は素手と素足…どう考えてもお前の方が不利だべよ?」


「これは君の身を案じて僕が勝手にやってる事だから気にしなくていい。ほら、かつて新日本のリングにUWF勢が上がっていた時、UWFの選手達は皆レガースを装着していただろう?あれは新日本の選手に怪我をさせない為の気遣いだったという…それと同じさ」


「ほぅ…俺も嘗められたもんやなぁ…

ま、そこまで言うなら好きにせぇや。でもその気遣い…多分後悔する事になるで?」


「フフフ…そうある事を願うよ。さぁお喋りはこれくらいにして、そろそろ始めようじゃないかっ!」

正大が両手にはめたグローブをバンバン鳴らしながら(のたま)いよった…おぅおぅヤル気満々やのぅ♪

ま、そうでなくっちゃな!


「せやな!んじゃ…柔、例の如くレフリー頼むなっ!!」


「な…お、お前…金出させといて、更にレフリーまでやらす気かいやっ!?それ、普通なら俺が金貰わなアカン立場やぞっ!?」


「ん?出してやりたいのは山々やけど、持って無いもんは出されへんもの。それにレフリーせぇへんのやったらお前…何しに来たん?」


「グッ…な、なんちゅう言い種や…金は出させる…ただ働きはさせる…お前みたいなんをブラック企業ならぬブラック友人ちゅうねんっ!

いや!ブラック最童貞やっ!!」


「ん、わかったわかった。それでええから早よレフリーやって」


(ま、全く堪えて無いっ!?)


「あ!それとマット敷いてくれん?マットって意外と重いやん?俺達今から闘うし、無駄な体力使いたぁ無いねん♪」


(ヌッ…こ、殺す…いつか絶対に俺の手で殺す…)



なんや柔の奴、ブツブツ言いながら恨めしそうに俺を睨んではる…

口動かしとらんと、シャキシャキ手を動かせっちゅうねんっ!


数分後…

柔がモタモタと作り上げた〝リング〟で俺達は対峙してた。


「さて…これは喧嘩というよりもシュートプロレスvsショープロレスの闘い。プロレスルールで()るっていうのはどうかな?」


「望むところや♪ただしっ!凶器の使用と5秒間の反則、それとリングアウト…これは無しやぞっ!!

決着は打撃によるKO、関節技でのギブアップ、柔が危険と判断したレフリーストップ、ほんでもって…3カウントによるフォールやっ!」


「いいだろう。では始めよう…」


「柔…さっき言ったルール覚えたか?いや…そもそも覚えられたか?お前アホやからなぁ…なんや心配やわ…」


「えっと…勇君…君は正大より先に俺と闘うべきではないかと思うのだが?」


そんないつものやり取りをしてる間に、正大が足を広げ上体を低い場所まで折って見せる。

どうやらもうゴングは鳴ってるらしいな。

へぇ…なかなか堂にいったレスリングスタイルの構えや。

弟相手に練習しただけの我流とは思われへん。

さてと!俺も負けてられんなぁ♪


タックルを警戒して少し深めに腰を落とすと、俺は両手の指をイソギンチャクみたいにウネウネさせながら前へと差し出した。

プロレスの定番、力比べをするためやっ!


「フッ…やっぱ君はバカだね…」

正大はそう呟くと、その手を払いのけてタックルを仕掛けて来よった。

プロレスの定番を無視するとは、なんちゅう風情の無い奴や…俺は悲しいでぇ正大。


もともとタックルを警戒してた俺は、素早く反応して上からガブる。

(上手く潰した!)

そう思った俺の下で正大が呟いた…


「かかったね♪」


その直後、俺の左足首を電流が流れたような痛みが襲ったんや…


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