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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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500?いや…700+α

中指を立てた俺を冷たい目で見ながら、正大の奴がこんな事をぬかしよった…


「本当のプロレス?ハンッ!笑わせるねぇ…逆に訊くけど本当のプロレスってなんだい?」


()ってみりゃ解るだろうさ」


「へぇ…でも一応言っておくと…君のプロレスじゃ僕のプロレスには勝てないよ?」


「あん?」


「恐らく君のプロレスってのは、一番メジャーでポピュラーなスタイルなんだろ?もちろん僕も大好きではあるんだが…残念ながらリアルな闘いの場では通用しない。だからこそ僕はシュートスタイルのプロレスを選んだんだ。君と闘う理由は無いし無駄な争いはゴメンなんだが、どうしても御所望とあらば証明してあげるよ…ショープロレスではシュートプロレスには勝てないって事をね」


奴の言葉で心がささくれ立つんが判った…

お前にプロレスの何が解ってるねんっ!…と。

挑発するのもそれに乗るのもプロレスの定番やけど、アカンアカンッ!ここは努めて冷静に冷静に……

なんておれるかいっ!!


「知った風な事ぬかすなボケがっ!!」


声を荒げた俺を冷たい笑顔で正大が見返しとる。

それがまた俺の怒りを更に燃え上がらせたっ!


「お前がシュートスタイルを選んだのは構へんわいっ!それこそ俺も一番好きなスタイルやしなつ!せやけど…何が許せんて…それを…それだけを本当のプロレスやと考えとるお前の(おご)りじゃっ!」


「へぇ…で、どうすると?」


「プロレスっちゅうのはお前が考えとるより遥かに奥深い…お前の言うシュートスタイルも、新日のようなストロングスタイルも、コミカルな試合で客を喜ばせるようなスタイルも全部がプロレスやっ!もっと言うなら他の格闘技をもリングに上げる事が出来る…こんな懐の深さを持った格闘技が他にあるかっ!?

いや、絶対にあらへんっ!

そんな格闘技の王様プロレス…その王道ってのをお前の身体に教えたるっ!!」


これを正大の奴、鼻で笑いよった…

もう無理…

もう完全にオコや…

俺はいつもの様に戦闘スタイルとなるべく服を脱ぎ始めたんや!

けど…


「おいおい…こんな所で始めるつもりかい?しかもシャワーも浴びてない君の裸に組み付かれるなんて僕はまっぴらゴメンだねぇ」


そう言うと正大はポケットからスマホを取り出して、おもむろに何処かへ電話をかけよった。

小声でボソボソと話してるんで内容は聞こえんけども、俺はそれが終わるのを大人しゅう待った。


「あ、ならば今から3人で伺います。はい…はい…ではそういう事でお願いします…はい、では後程…一先ず失礼します」


電話を終えた正大が流し目でこちらを見た。

そして第一声が…


「不惑君、今500円持ってるかい?」


「は?」


「500円あるかと訊いているんだが?」


「嘗めんなっ!いくら貧乏高校生の俺でも500円くらい持っとるわいっ!!」


叫んだ俺は財布を抜き出すと、その中身を確認する為に小銭入れ部分のファスナーを開いた。

そして念の為に柔へと声を飛ばす


「柔っ!お前も金は持っとるか!?」


「アホ…お前こそナンパ師を嘗めんな!500円も持っとらんでお姉ちゃん引っ掛けた時どないすんねんな…」


「いや…700円やねんけど…あるか?」


「は?いや…今アイツは500円言うてたぞ?」


「それにつきましては残念なお知らせが…」


「お、お前…まさか…?」


「スマンッ!今財布を見たら300円しか入ってなんだんやっ!200円貸しといてくれっ!!いや…なんなら500円奢ってくれっ!!」


すると柔、天を仰いで目を掌で覆いながら…


「かぁ~…勇くんっ!300円持っていながら、それには手を着けずに済まそうって魂胆…君は最低だよっ!そんなんやから童貞なんだよっ!もう最低と童貞を足して〝最童貞〟と名乗る事をオススメするよっ!!」



「や、柔…それはチィと言い過ぎちゃうか?」


「いえ、ちっとも」


「……その称号、甘んじてお受け致します」


「宜しい!ならば500円出してしんぜよう♪」


「ははぁ~」


こんなやり取りを見て正大がクスクスと笑い出した。


「関西人は日常会話も漫才だって言うけど、アレって本当なんだねぇ」


「やかましいわっ!で…その500円は何んの為の金なんや?」


「神戸市立垂水体育館…僕がいつも弟との練習で使わせて貰ってる場所なんだが、そこのトレーニングルームは空いてさえいれば誰でも500円で利用出来るんだ。体操用のマットも備え付けてあるし、僕達が闘うにはもってこいの場所だと思ってね」


「なるほど…ね」


俺達はそのまま一緒に下校し、山陽電車で垂水を目指す事にした。

そして俺は駅へと向かう道中、大事な事を思い出す…


「柔…1つ頼まれてくれんか?」


「なんや勇、改まって…どした?」


「悪いんやけどな…」


「……」


ゴクリと柔が唾を飲む音を聴きながら、俺はその願いを伝えたんや…


「往復の電車賃も頼むわ…」


夕方の通学路に、俺が頭を(はた)かれる音と正大の笑い声が響いた…


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