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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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エセプロレス

逃げられないように、俺と柔で正大を挟んで歩く。

端から見たらドラクエⅡのパーティーみたいやろなww

…まぁそれは置いといてや…

向かった先は、呼び出しの定番でもある体育館裏や。なんかベタでスマンな…

で、着くなり正大が又も眼鏡を押し上げながら言いよった。


「こんな所に僕を連れてきて、一体どうするつもりかな?」


「そりゃお前次第やけど…とりあえずは事の経緯を聞かせて貰おか?」


「経緯?ハンッ!!そんな大仰な事なんて何も無いさっ!世の中のクズ連中に正義の鉄槌を下した…ただそれだけの事じゃないか!何が悪い!?」


〝クスクスッ〟


壁に背を預けて話を聞いてた柔が失笑を漏らした。

これに正大の奴が目を見開いて突っかかる。

「な、何が可笑しいっ!?」


「え?いや、そりゃ笑うだろ…そんだけ中二臭の漂う台詞吐かれちゃよ♪」


「グッ…」


「正義の鉄槌が聞いて呆れるわ…大仰はどっちやねん。結局お前は個人的な恨みを晴らしただけやろ…え?いじめられっ子」


「へぇ…僕の所に辿り着いただけあって色々と調べたみたいだね…そうさっ!君の言う通りだよっ!!力で僕を捩じ伏せた連中に報いを与えた…それの何が悪いっ!?」


「それ自体は悪いたぁ思わねぇよ。ただし…やり方は気にいらねぇ。顔を隠しての不意討ち、それがお前の正義か?やってる事ぁ匿名で人を攻撃するネット民と変わらんやないか」


柔が鋭い視線を向けたけど、正大の奴は悪びれる様子もあらへん。

あげく吐き棄てる様に言いよった…


「あんな連中に天誅を下すのに手段もクソも無いだろうよ?僕が中学の3年間で受けて来た苦痛に比べれば、あんなものじゃ足りないくらいだよ。本当なら鉄パイプなりナイフなりで致命傷を与えたいくらいだっ!でも犯罪歴で僕の経歴に傷をつけたくなかったんでね、堪えた事を褒めて欲しいくらいさ♪」


これを聞いた柔は1つ深い溜め息を吐き出すと…


「勇…もう行こうぜ。こんなクソ野郎と関わったら俺達までクソ色に染まってまうわ」


「な?ぼ、僕がクソ…だって?校内一の成績を誇る僕を、底辺を這う君達がクソ呼ばわり…正気かい?」


反論する正大の言葉をガン無視する柔…

まるで聞いてないって体で明後日の方を向いてはる。こっからは俺の出番やな。


「お前さぁ…勉強は出来るかもしれんけど頭は悪いみたいやな?」


「は?勉強出来るのに頭が悪いって…言ってる意味が解らないのだが?」


「勉強が出来るってのは、足が速いとか野球が上手いとか将棋が強いとか…そういう特技の1つでしかあれへん。やってええ事と悪い事の区別もつかへん…言ってええ事と悪い事の区別もつかへん…そんなお前みたいな奴をホンマのアホって言うんやで。それにお前は成績を自慢しとるみたいやけど…我が育友高校ごときのトップて…そないに自慢出来る事とちゃうやろよ…」


「……ッ」


「あぁ…それと1つ聞いとかなアカン事があったんや。中学時代に反撃もせんといじめられとったお前が、こんな行動を起こそうと思ったきっかけは何んや?突然に強ぅなった訳ちゃうやろ?何が連中を襲うほどの自信に繋がったんや?」


俯いた奴が、俺の問いにボソリと答えた…


「プロレス…だよ」


「プロレスがどしたって?」


「ここ数年…勉強の息抜きでプロレスを見始めてね…ハマった僕はあらゆるプロレス関連の本を読み漁った…古い雑誌から最新の物…そして技術書まで…ね」


「技術書ねぇ…」


「キャッチ キャン レスリング…プロレスラーを目指す君ならば当然知っているだろうが、関節を極めても良いレスリング。かのプロレスの神様カール・ゴッチが使っていたアレさ。その技術書で得た知識を弟の身体で試しながら技を覚えた…

技って奴は不思議な生き物でねぇ、覚えれば覚える程に〝使ってくれ使ってくれ〟と訴えかけてくるのさ。で、思い付いたのが今回の復讐劇って訳だよ♪ああいう連中なら例え怪我をさせても警察には駆け込まないからね、下らないプライドがあるからさ♪」


「はぁ~…柔の言う通りホンマにクソやな」


「だから言うたやろ、もうええやんけ放っといて行こうぜ勇」


「いや…放っとかれへん!」


「は?」


「こいつは俺の愛するプロレスを間違って使った…それだけは許されへんっ!!」


「許されへんてお前…どないするつもりやねん?」


「決まっとるやんけっ!このエセプロレスラーに俺がホンマもんのプロレスっちゅうのを教えたるっ!!」


俺はそう叫ぶと、正大に向けて右手の中指を立てて見せたんや。


(お前も未だエセプロレスラーやんけ…)←柔の心の声


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