マスクの下の意外な素顔
金木が襲われてから5日が過ぎた…
そしてその日、犯人は呆気ないほど簡単に見つかる事になったんや。
事が転がり出したのは、俺のクラスのヤンキーグループがしてたこんな会話からやった。
「おい聞いたか?室戸工業の橘までヤラれたらしいで…」
「これで何人目や…金木を皮切りに、橋下、下田、児島、ほんで今回の橘やろ?考えたら全部が多田中学出身やんけ…」
「それも全員が名の通った奴ばっかりや…どれも不意討ちみたいなやり方やったらしいけどよ、それでもこのメンツを潰したとなればかなりヤバイ奴なんやろな…」
「なんや聞いた話じゃ、犯人はタイガーマスクの覆面被っとったらしいで!」
「え?俺が聞いたんはマスカラスやったで!」
「まぁなんにせよ面が割れるのを嫌がっとるらしいな…俺達は多田中の出とちゃうが、気をつけるに越すこたぁ無いな」
「へへっ!名の知れた奴しか狙わん犯人が、お前みたいな三下を狙う訳あらへんやろが♪」
「…お前に言われたぁ無いわアホが」
すかさず俺はその輪に入って行った。
「なぁなぁ!自分等も金木の事知っとるん?」
「ん?おぉファッキューかいや…お前が話し掛けてくるん珍しいのぅ…どないしたんや?」
「俺はファッキューとちゃうっ!不惑 勇やって何回言わせんねんっ!!」
「へへっ細かい事はまぁええやんけ♪で…なんやったかいな?」
「金木の事や」
「あぁ…金木を知ってるかって話やったな。
当然知っとるわいな。俺達の世界でアイツを知らんかったらモグリやで」
「アイツ…そないに有名なんや…」
「てか…不惑こそ金木を知っとるんか?お前は確かにバカ強いけど〝不良〟ってのとはちゃうし…なんや意外やのぅ」
「ああ、ほんまやったら近々アイツと闘り合う予定やったんでな…」
「アイツって…金木とっ!?マジかいやっ!?」
「応よっ!でも金木がヤラれてしもたからな…対戦は延期や。で!大事な対戦相手をヤラれて黙ってられんからな、犯人探し出して金木との前哨戦にしたろ思ってるんや♪」
「かぁ~~…ほんまにお前は格闘バカよなぁ…いや…成績も悪いし普通にバカなだけか♪」
「やかましいわっ!!」
と、まぁ…こんな流れで大きな手掛かりを得た俺は、その日の放課後直ぐに柔と動き出したんや。
もう1つの手掛かりである現場に落ちてた校章…
うちの学校では学年ごとに校章の色を変えてある。
一年は白
二年は緑
三年は赤…
現場に残されてた校章は赤やった、つまりは俺達と同じ三年って事や。
三年で多田中学出身、そして身長が185cmほどの男…
そりゃこれだけ情報が集まれば、狭い学校内での事やし見つけるのは造作も無い。
答えに辿り着いた柔と俺は、図書室の入り口に立っていた。
そしてその答えとは、意外すぎる男やったんや…
「勇、その条件に合うんはアイツしかおらへん…」
「え?いや…でもよ…まさかアイツ…が?」
「多田中学出身、高身長、ほんでもって…中学時代はヤンキー連中にいじめられてたらしいわ」
俺は犯人が金木に残したという言葉を思い出していた。
〝復讐〟という言葉を。
「なるほどねぇ…そりゃ条件にピッタリだわな…」
「せやろ!で…どうするよ勇?」
「ん…ちょっくら行って来るからよ、柔はここで待っとってくれ」
「え?ちょ、ちょい待てや…おいっ!勇…勇ってばよっ!!」
喚く柔を背後に残して、俺はその男の所へと歩き出した。
「なぁ!ちょっとええか?」
「え?あぁ…不惑君か。僕に何か用かい?」
振り返るなりその眼鏡男子が発した標準語…
イラッとしつつも俺は努めて冷静を装った。
「忙しいとこ悪いな…ハハハ…」
「いや…で?」
「あぁ…1つ訊きたいんやけどな、自然界で毒を持った生き物って一目で判るように派手な色をしとるやん?アレって何て言うんやっけ?」
「随分と藪から棒な質問だね…もしかして君が言ってるのは警戒色の事かな?」
「おぅっ!それそれ♪じゃあ次の質問な?毒を持ってる事を警戒色で報せる奴と、毒を持ってるのに普通のナリして毒なんか持ってません!って顔してる奴…どっちの方が質悪いと思う?」
「そりゃあ…後者だろうな…」
答える奴の表情が固くなったのが判った。
「やっぱそうよなぁ?なぁんや自分でもちゃんと判っとるんやんっ!」
「何が…言いたいんだい?」
「自然界の動物もそうやけど、人間でもそうやろ?ヤクザや不良ってのは、一目で判るような見た目して警戒色を発してるんよなぁ…
一番 質が悪いんは政治家や医者…弁護士や教師みたいな、高い社会的地位を隠れ蓑にして澄まし顔で悪さする奴等と思うんよ…
〝僕達、毒なんかありませぇん♪〟てなツラしてさ」
言いながら俺は、奴へと挑発的な視線をぶつけてみた。
「だから…何が言いたいのか…って訊いているんだが?」
「知らばっくれんじゃねぇよ、もう解ってるくせしてよ!お前みたいな奴が一番 質が悪いっつってんだよ!!」
「……」
俯いた奴が、無言のまま指で眼鏡を押し上げる。
眼鏡の隙間から、ゾッとするような視線を俺に向けながら…
俺はその視線を跳ねのける様に見返すと、わざと低い声で呟く様にして言ったんや
「もう何の話かは解ったよな辻斬り野郎よ?
ここじゃ何んだし場所変えるぞ。ちぃとツラ貸せや…え?生徒会長、正大 公明さんよ…」




