気がついたら俺は…
気がついたら俺は控え室に居った…
「ア、アレ…?…………え〜っと……せや!試合っ!試合はっ!?俺はどないなったんやっ!?」
「なんや…お前、自分の足でリング下りたのに覚えてへんのか…?」
「試合の途中までは覚えてるんやけど…痛っ…!」
「頭…痛むんか?せやったらやっぱ病院行った方がええんちゃうか?」
「大丈夫…大丈夫っすよ!それより結果を…試合がどうなったんか……それが知りたいんすっ!!」
「見事な負けっぷりやったでぇ。まぁ…もっとも相手さんは、勝ったとは言え担架でリング下りて病院直行やけどな」
「…………そうかぁ…やっぱ俺は負けたんか…………てか病院て!…俺、アイツに…そんな酷い怪我負わせたんすか………」
「ちゃうちゃう。勝負がついて勝ち名乗りを受けとる最中に、意識が飛んで倒れよったんや……バタンッてな」
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気がついたら俺は救急車の中やった…
「ん…?こ、ここはっ!?試合は…試合はどうなったんや!?」
「おお、気がついたか…ったく心配させよってからに」
「それより試合は…?俺、勝ったんすかっ!?負けたんすかっ!?」
「ハァ………」
ため息ついてからの間が長い…
って事は…やっぱ俺は負け…たんか?
「ようやったな!勝ったんはお前や。統一チャンピオンおめでとう!」
「へ…?あ、いや…あの…じゃあ何で俺、救急車なんか乗ってんすか?」
「なんや…全く覚えてへんのんか?」
「いや…断片的には…」
「そうか。驚いたでほんま…レフリーに高々と右手を揚げられとる最中に、突然糸の切れた人形みたいにガクンッ!やからな…」
「そんな事が…それで救急車なんすね…」
「あんな倒れ方は異常やからな、一応病院で検査して貰う。ベルトの授与やら何やらは後日改めてって事になるやろな」
「そうっすか…へへへ…」
「なんや?突然に笑たりして…今になって喜びが込み上げて来たんか?」
「いや…そうや無いっす。せっかく勝っておきながら記憶に無いなんて……締まらねぇなって…」
「それでも勝ちは勝ちや。検査終わって異常が無くても、暫く練習は休ませるからな…その間に試合を観なおして、改めて実感を噛み締めぇや」
「ええ…そうしますわ…」
そう答えると俺は、揺れる救急車の天井をボ〜っと眺めた。
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「ほんまやったらこの後でベルト授与式やらセレモニーがある予定やったんやけど、なんせ当のチャンプが病院直行で不在やからな…日を改めてって事になったけど、当日はマスコミが殺到するやろなぁ。対戦者のお前にも少なからず取材の申し込みは来る思う…どうする?」
「どうするって?」
「受けるかどうか…や。ソッとしといて欲しいんやったら断ったるぞ」
「いや…全部受けて下さい」
「ええのんか?」
「はい。負けたのは確かに悔しいけど、俺はこの試合に関しては胸を張っときたいんす。何一つ隠し事もしたぁ無いし、敗者として逃げる様な真似もしたぁ無い…一点たりとも“やましさ”を残したぁ無いんす…
だからもし取材の申し込みあったら、何でも話しますよって伝えて下さい」
「…………わかった」
そう答えると同時に控え室のドアが開いた。
そこに立ってたのは、めちゃくちゃ優しい眼差しで俺を見る太陽の如き男と、鬼の形相ながら目にいっぱいの涙を溜めた愛しき女子格闘家やった




