決着目前
パワーボムを狙って柔を抱え上げる！…が…
ふいに飛び込んで来た不破の
「アホが…」という呟き。
嫌な予感がした俺は、抱え上げる勢いを殺して狙う技を変更した。
“ツームストンパイルドライバー”
しかも本気のやつや！
勿論プロレスの試合でも本気やけど、それなりに暗黙の了解ってのはある。
相手に怪我をさせない…コレや。
つまりプロレスでパイルドライバーを使う時は、正座する形の自分の足をクッション代わりにして衝撃を弛める訳やが…
今回はちゃう！
ダイレクトに柔の頭部をマットへ落とす！！
俺の体重と柔の体重…2人分の体重が衝撃と化して、柔の首と頭頂部を襲う。
もしかしたら……
頸椎をイワしてまうかも知れん……
そうしたら柔の身体には障害が残る……
俺に出来るんか？
親友を壊すだけの覚悟は？
僅かに生じた迷いの時間…
ここで再びあの声が聴こえた…
「つくづくアホやのぅ…」
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
クッ…しもたっ！
俺ともあろう者がブッこ抜かれるたぁな…
この勢い…狙いはパワーボムか！？
柔術使いのMMAチャンプが、プロレスラーのパワーボムで沈んだらお笑い種やんけっ！！
せやけどパワーボムで来てくれるってんなら、こっちにもヤリ様はある！
ん…？
アレ…？
なんや勢いが弱まったぞ…？
頭上まで振り上げられるかと思ったら、単に逆さ吊りの体勢……
て事はパイルドライバーかっ！？
ん…？
アレ…？
なんや動きが止まってるんですけど…？
さてはコイツ……
舐められたもんやで！
まぁそれならそれで好都合じゃい！！
オラッ！！
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
イデッ！
アダッ！
アダダダッ！
な、なんやっ！？
や、柔の奴…足をバタつかせやがって！
痛っ！
クッ！コノッ！！
フングッ…！！
金的に頭突き…やと？
ヤベ！踏ん張りが…効かへん…！！
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
ヘッ！もたもたしてっからよ！
レフリーにバレねぇ反則は、反則や無くてテクニックや♪勇…お前にもこの理屈、解んだろ？
しかもフルで直撃させず、体勢を崩させる程度のダメージだけ与える…やっぱ俺って天才やのぅ♪
とは言え…や…
体勢を崩してパイルドライバーは免れたもんの、胴体へのフックを外さへんとは流石やのぅ…
せやけど体力の回復した俺なら、この状態を抜け出すんは簡単や♪
手首を掴みながら脇下を潜れば…ホラ！簡単に…
簡単に……簡………アレ？
ま、万力…！？
ウ、ウオ〜ッ！？
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
ほんま悪かったでぇ…すまんかったな柔……
男の勝負に迷いなんか持ち込んで…よ。
せやけど安心してくれや。
もう迷わへん！今度こそ本気で潰しに掛かったるわ！！
うおらっ！！
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
ま、また抱え上げた…やと？
しかも今度は勢いがパイルドライバーのそれや無い！
今度こそパワーボム…かっ！？
それなら俺もフランケンシュタイナーでも使って返したろかいっ！盛り上がるやろうしな♪
え…？
おや…？
イヤイヤイヤイヤイヤイヤ！
勢いが止まらないんですけどっ！？
ど、どこまで抱え上げるつもりやねん！
このままやと頭上を通過して…
わ、脇下を！両脇下を掴まれた！
し、しかもここから見える景色は…勇の後ろ側の客席！
後ろ向きで抱え上げられ、十字架に磔にされたみたいなこの体勢は…ま、まさかっ！？
「スプラッシュマウンテンかっ！？」
「スプラッシュマウンテンじゃいっ！！」
俺達の声が重なると同時に、俺の見る景色は客席から天井を通過し、逆側の客席へと移って行った。
まぁ…逆側の景色は上下が逆さまやってんけど…な…
俺の記憶はここまででプツリと切れてるんやけど…
暫くしたら…何か金属音の様な物が…聴こえた気が…する…んや……
