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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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一本拳

マウントを取られると同時に不破の声が耳に飛び込んだ。


「勇!今や!アレ使え!!」


せやっ!さっき教わったアレ!

え〜と…ココをこうして…コレをこうして………

こうじゃっ!

柔が右のパウンドを落とすタイミングで、伸び切ったアイツの左脇腹へアレを叩き込んだった!


「コオゥ……ッ!!」


太い空気の束を吐きながら、柔が脇腹を抱えた!

重心の浮いた今が抜け出すチャンス!

俺は奴の股下に両手を差し込み、ブリッジしながら頭の方向へと持ち上げる!

踏ん張れない柔は、呆気ないほど簡単に前へと倒れ込んだ。

その隙に奴の股下を抜け、見事マウントから脱出!!

しかし……こうも上手い事イクとはなぁ…

ちょっとだけ不破の事を見直したわ。ちょっとだけ…な。

俺は奴が「秘策」を授けてくれた時の事を思い出してた…


「ええか?何も難しい事や無い。親指を中に入れ込む形で拳を握ってみぃ…」


「こうか?」


「ん……。で、第1関節を曲げた中指をスライドさせて、握り込んだ親指に乗せてみぃ…」


「えっと…こうやな?」


「おう。それが古流に伝わる拳の形…久米巻一本拳くめまきいっぽんけんや。本来は人中やら眉間やらの急所を打つ拳やが…そない上手い事いかへん。まして不器用なお前なら尚更や」


「悪かったな!」


「ええから聞け!とりあえず打撃の応酬では使わず温存せぇ…で!奴にマウントを取られたら、そいつでアバラの隙間をガツ〜ンッといったれ!」


「お、応…でもよ…こんな単純な事が通用するんけ?」


「心配すんな。効果は絶大や…ただし…」


「ただし?」


「一回こっきりしか使われへん…いわば騙し手みたいなもんや。その代わりに奴の動きはガクンと落ちる…そっから先の事は自分で何とかせぇ」


こんなやり取りがあった。

んで…立ち上がった柔は、アイツの言うた通り脇腹を抑えて苦悶の表情や…脂汗までダラダラ流しとる。

第3ラウンドはまだまだ時間が残っとる。

つまり…俺の勝機って事や!

せやけどな1つだけ自分に課しとる事がある!

それは…プロレス技で勝つ!って事や。

勝つまでのプロセスは格闘技や武術に頼る!

なんぼでも頼る!!

でもフィニッシュへの流れはプロレス技のみでイカせて貰うで!!


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


んぐ…しもたでぇ…

やっぱあの不破って男…疫病神やったか……

まさかこういう形で古流の技術を使って来るとは…

しかも打撃の攻防で使わせず、俺がマウントを取った瞬間まで温存とは…な。

お陰でアバラ2本はイッてもたな…

息すると痛ぇ…

折れちゃあ無いやろけど、ヒビは入っとるな。

骨がイッた事がバレたら問答無用で止められる…

絶対にレフリーに覚られんようにせな。


とは言うても…や

さっきまでみたいには動かれへんな。

さぁて…どうすっか?

てか…あのアホの事や…これを機とばかりに攻め込んで来よるやろぅな…

マジでどうすっか?


ほぅら…やっぱ来よったで……


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


柔よ…

動きの鈍った今のお前は、練習用ダミー人形に見えるで♪

ほな遠慮なくイカせて貰いまっさ!

先ずはっと…プロレスの代名詞っちゅうても過言やないこの技!

ロープに走ってからのドロップキックじゃい!!


「どっせいっ!!」


よしっ!軽く払われたけど、大きく体勢は崩せた!

んじゃもう1回ロープに飛んで…と!


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


ド、ドロップキックたぁ舐められたもんやのぅ!

いくら動けんちゅうても、そんな大技まともに喰らうかい!!

んで又ロープに飛ぶってか?

今度は何んや?

ラリアットか?

ショルダータックルか?

ん?両足が揃った…やと?

まさかもっかいドロップキックか!?

ざけんなよっ!んなもん躱して自爆した所を今度こそ仕留めたる!!


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


かかった!

俺がわざと足を揃えたのを見て又ドロップキックと思ったみたいやな♪

躱そうと身体を横に開きよった!

ところがどっこい!!

ドロップキックはドロップキックでも……

膝への低空ドロップキックじゃい!!

よっしゃ直撃!

崩れ落ちたところを…

どうする?首を取ってネックチャンスリードロップ行くか?

いや!今ならパワーボムも狙えるな…

よっしゃ!ここは一発、派手なパフォーマンスでも見せてお客さんにアピールしたろかい♪

俺はガブる様に柔を上から抱えた…

そしてそのまま頭上へと引っこ抜く!!


“勝った!MMAルールでも…プロレス技で勝てるんや!”


そんな想いが脳裏をよぎると同時に、不破の呟きが耳に飛び込んで来た…


「アホが…」




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