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中指 立てたら  作者: 福島崇史
244/248

第3ラウンド

試合再開後の俺は、情けない程に及び腰やった…

このラウンドを凌いでコーナーに生還する。

その事だけに神経を集中させた。

結果…当然ながら逃げの一手でブーイングの嵐や。

レフリーからは注意も受けた。ま!イエローカードを貰わずに済んだだけ“めっけもん”やけどな。

その甲斐あって、どうにか凌ぎ切った!

愛しき青コーナーでは、クソむかつく不破の顔が待っとった。それでも今はお前の知恵に頼らざるを得ん…

期待しとるで不破。……むかつくけど。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


「お前に有利なラウンドのはずやったのに…残念やったのぅ♪へっへっへ」


「何ワロてんねん…やっぱむかつく奴やで」


「あんっ?そんな事言うんやったら秘策を授けたらへんどっ!?」


「お?無い知恵絞って対策を考えてくれたんかいな?泣けるやんけ♪」


「……なら秘策を授ける。頑張れ!以上っ!!」


「あ、冗談っす…僕、言い過ぎちゃったかなぁって…不破さん、僕マジ反省してるっす…」


「ったく……まぁ秘策は教えたる。教えたるが…これは総合格闘技の技術や無い。不破式の技術…つまりはギリギリでヤバ目の技や。お前に使う覚悟はあるか?」


「当然や。柔がジークンドーを使い、新しい一面を見せて来たんや…俺も新しい一面を見せな失礼ってもんやろ?」


「ほぅか…なら教えたる。手ぇ出せや」


「み、右手?…左手?」


「面倒くさい奴っちゃのぅ!右でも左でもええわいっ!!」


「お、おぅ…すまん…」


「ええか?ここをこうして…これをこうして………」

………………………………………………………………………………………………………………


不破が教えてくれた事は意外な程にシンプルやった。

むしろMMAで使う選手が居ない事が不思議なくらいや。

せやけど“コレ”が絶対的に有利な展開をもたらしてくれるなんて、そんな都合のええ事は考えてへん。

恐らくこのラウンドでアイツが狙ってくるであろう

“あの技”……

その時こそが使い時!切り札はその時までは見せへん!


「セコンドア〜ウト!!」


お?もう時間か…


「なら…皆さん…行って来ます!」


鈴本さんも新木さんも、試合展開について一言も口出しして来ぇへん。そこは俺と不破を信頼しての事やと思う。だから俺は感謝の気持ちを込めて頭を下げた。


「おう!行って来い!!」


鈴本さんが笑顔で言う。


「好きに暴れて来いや!!」


新木さんも笑顔で言う。


「死ねばいいのに♪」


不破も笑顔で言う。

……やっぱコイツは一回キッチリとシメなアカンな…


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


「ラウンド3〜…ファイッ!!」


無機質な金属音が響く。


アイツは…柔はどんな様子や?

ん!ええ顔しとる!!

フットワークも軽い。ダメージは全く無さそうやな。

挨拶代わりの高速ジャブが顔を掠める…

チッ!スピードも落ちてへんか。

3ラウンド目やのに流石のスタミナやのぅ。


頭部のガードを外さへんまま、ローで前足の内股を狙う!

柔が腰を引いた為に空振り。

チャ〜ンス!このタイミングを狙ってたのだよ柔くん♪

俺は空振った蹴り足で更に踏み込む!

身体の流れた柔を目掛けて弾丸タックルじゃい!!


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


へっ!そう来ると思ったで勇!

舐められたもんやのぅ…そんな浅はかな作戦で俺からテイクダウンを奪える思ったんかいや!

そもそも…や。

腰を引いてる相手に胴タックルを狙うなんざぁ愚の骨頂や。

こちとら懐が深くなってる上に前傾姿勢…

簡単にガブれるんだよ!

ほぅら、こんな風にな♪

んでもって…ここをこうして…こうじゃ♪


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


と、遠い!

柔の身体がメッチャ遠い!!

アホやったぁ!そりゃ相手は腰引いてるんやもんな…

ここは胴や無くて、揃ってた両足を狙うべきやった!

ほらやっぱり!

余裕でガブられたやんけ!!

潰されんなよ俺!

更に懐へ!

あ、ヤベ…


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


へへへ♪

勇…お前のその悪いクセ…治ってへんのぅ♪

タックルをガブられた時、潰されんように焦って首を上げる…お陰様で軽々と首を取れたで!

ギロチンチョークじゃいっ!!

どうするよ?

この技はスタンディングは勿論やが、前に倒れても後ろに倒れてもお前が不利や!

ましてMMAラウンドやからロープにエスケープも出来へんぞっ!?

詰んだんちゃうけ?


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


し、しもたぁ…!

こ、この体勢はマズい!!

前、後ろ…どう倒れても深く極ってまう!!

かと言って腰を落とす訳にもいかへん…

アイツの方が身長が低い、俺が腰を落とせば余計に深く極る…

ここはポイントをズラしながら、反撃のチャンスを窺うしか…いや…待てよ?

前後にも下にも逃げられへんけど、反撃の可能性が一箇所だけあるやんけ♪

プロレスラーの首…舐めんなぁ〜〜っ!!

「フンガァ〜〜ッッ!!!」


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

へ?

え?え?え?

う、嘘やろ!?

ちょ…!タイツ握んなや!

待て待て待て!身体が…俺の身体が浮いとるやん!!

視界が上下逆さまに…

ま、まさか…こ、この体勢は…っ!?

ブ!ブレーンバ……


“ズドンッ!!”


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


どないやっ!!

前後にも下にも逃げられへんのやったら、お前を上に持ち上げりゃええって訳よ!

富士の裾野って呼ばれる程に鍛えた首じゃい!!

お前の体重くらいなら軽々と上がるんじゃっ!!

ついでに敬意を払って、捻りを加えた垂直落下式にしといたったで!

これがプロレスラーじゃいっ!!


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


ク〜…た、たまらんのぅ…

い、今のは…し、痺れたわ…

ま、まさに…プロレスラーって感じや…

せやけどな勇…

落として追撃せぇへんのがお前の甘さや!

路上ならまだしも、ここは柔らかいリングやぞ?

ブレーンバスター一発で決まる訳あらへんやろがいっ!

技を決めて油断しとるなら、今の内に有難く抑え込ませて貰うで!!

そぅら…横四方も〜らいっ♪

おっとっと…暴れんなって♪

幾ら暴れてもよ…お前の下手くそな寝技じゃ、柔術家の抑え込みからは逃げられへんって。

とか言ってる間に…足を押えて…これを跨いでっと…

マウントも〜らいっ♪


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


し、しもたぁ〜〜〜〜っっ!!!






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