Higher than him!
アレ?えっ…?俺……倒れたん…か?
何や?何を貰たんや?
えっと…確か…
カウンター狙いの蹴りを空振りさせて…
そこへ逆カウンターのタックルを…狙ったはず……
ってぇ…鼻の辺がズキズキしよる…
鉄臭い匂いがこびりついとるし……
て事は…正面から何か喰ろたんか?
パンチ?いや、タックル狙いの俺は中腰やったはず…
そこにパンチ当てれる程アイツは器用やあらへん。
となると…膝…か?
えぇいっ!考えとってもしゃあない!
とりあえず立たな!
てか…こんだけ考えられるっちゅう事は冷静やな…俺…
ダウンカウントは?今…5か…
手…よしっ動く!
足…動くけど感覚は鈍い…マジィな効いとるやんけ…
ゆっくり休んどる場合や無いな…
急がなカウントアウトしてまうぞコリャ…
先ずはうつ伏せなって…と
元気な腕の力で上体起こして…からの…
フンガァ!
踏ん張らんかいっ!俺の両足っ!!
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「よっしゃよっしゃ上出来や♪」
ニュートラルコーナーに立つ俺に、リング下から不破が上機嫌な声を掛けて来た。
「やたら繰り返し練習させられた技が、こうも綺麗に決まるとは思わんかったわ…」
「ヘヘン♪どうよ?俺の指導力は」
ドヤ顔がムカつくけど、確かにコイツの指導通りに動いて、見事にダウンを奪ったのは事実や…
悔しいけどそこは認めなしゃあないやろな。
「へいへい…凄い凄い。で…こっからどないするよ?柔の奴はこの程度で終わらへんぞ。立った後の戦略は?」
この問いに不破が不敵な笑みを浮かべた。
そして鼻の穴をおっ広げながら言った答えは…
「知らんっ!!」
「……えっと…はい?聞き間違いかな?知らんって聞こえたんやけども…」
「お♪そない聞こえたんなら耳はええみたいやのぅ!頭は悪いクセに♪」
「お前…ざっけんなよこの野郎!何ヶ月も偉そうにトレーナー面しといて、作戦がコレ1つってか!?
完全なる給料ドロボーやんけっ!!」
すると不破の顔面からスッと表情が消えた。
気持ち悪い程の無表情…それを俺に向けたまま静かに口を開く。
「なんやお前?1から10まで俺に丸投げ…1から10まで俺の言う通りに動いてアイツに勝ちたいんか?それでお前が…不惑勇が暮石柔を越えた事になるんか?それでええんなら事細かに指示を出したるぞ?」
「ングッ……」
「どうするよ…アン?」
「……悪かった。確かにお前の言う通りや…」
「俺はお前が優位に立つ切っ掛けと、お前の優れてる部分を活かすヒントを与えた…こっからはお前の闘いや。
思うようにヤッて来い!プロレスラー不惑勇のポテンシャルを見せてみぃっ!心配すんな…セコンドとしての指示は出す。せやけど戦法、技のセレクトは自分で考えぇ!」
「解った…俺の力で柔を越えたる!」
セコンドの鈴本さんと新木さんも無言で頷いてくれた。
なら…あとは心残りの無い闘いをするだけや!
俺の力で…俺のやり方で…アイツよりも高みへっ!!
「お?そろそろお友達が立ちそうやぞ…見てみぃアレ、生まれたての山羊みたいやんけ…間違いない!効いとるぞ!このラウンドで決めて来いっ!!」
柔はロープを掴みながら必死に立とうとしてた。
ようやく立ち上がり、ファイティングポーズを取った時にはカウント9やった。
不破の言う通り、間違いなくダメージは残っとる。
せやけど…俺は見逃してない…
柔が嫌ぁな笑顔を貼りつかせとった事を…




