その男…マスカラス
昨日、山田から報された金木の負傷…
それもかなりの重傷で今は入院してるらしい。
「口止めされとるから…」
そう言って渋る山田を口説き落とし、ようやく入院先の病院を聞き出した。
んでもって今日は〝三猿〟揃い踏みで冷やかし…ゴホンッ…もとい見舞いに行くところや。
場所は兵庫区と長田区の間にある西市民病院。
ちょうど帰り道やし好都合やわ。
「それはそうと…やっぱ手ぶらで行く訳にゃいかんやろぅよ?」
島井が〝ゴリラ〟丸出しの顔でそう宣った。
「手ぶらねぇ…俺はやっぱ〝手ブラ〟してる女の子が好っきやなぁ♪」
柔は〝エロ猿〟丸出しで宣う。
ハァ~…こんな連中と同じカテゴリーに括られとるとは…頭痛いで実際…
「ん…どしたよ勇、頭なんか抱えて?ははぁん…さては見舞いに何を持ってくか考えて、知恵熱でも出したか?」
「やかましいわっ!このエロ猿っ!!」
「ようよう…そこのアホ猿とエロ猿…目くそ鼻くそで言い合っとらんで、真剣に見舞いの品を何んにすんのか考えろや」
「じゃかましい!クソゴリラッ!!」
俺と柔が一言一句と違わずに反論すると…
「誰がクソゴリラじゃいっ!ゴリラはええわいっ!クソは余計じゃボケッ!!」
あ…ゴリラはええんや…
「まぁまぁ、そないウホウホ言うなや♪」
柔が両胸を左右の拳で交互に叩いてドラミングの真似をすると…
「ちゃう!それはちゃうど柔…」
「何がちゃうねん?」
「ほんまのドラミングはこうやっ!拳やなくて掌で叩くんが正解やっ!よう覚えとけっ!!」
「お…おぅ…」
さ、流石や…流石は〝ほんまもん〟や…
勉強なりましたゴリラパイセン!あざぁす!
で…結局俺達は近くのコンビニで、飲み物やらお菓子やらとムフフな雑誌を買って病院へと向かったんや。
「お、お前ら…なんで?」
金木は、病室に入った俺達を見るなり驚きを隠しもせんと呟いた。
「そないに驚かんでもよ、まるで豆が鳩鉄砲を喰らったみたいなツラしとるでお前♪」
「逆っ!!」「逆やっ!!」「鳩鉄砲てお前…」
柔、島井、あげくは金木までが同時に突っ込み入れて来よった…
「や、やだなぁ君達…わ、わざとに決まっとるやろ!ギャグですやん、ギャグッ!ハハハ…」
空回る反論と我が身に突き刺さる白い視線…
その時、病室の温度は急速に下がって行った…
って!ドキュメンタリーっぽく言うとる場合とちゃうっ!!
本題に入るで本題にっ!!
ベッドに横たわる金木は、傷どころか痣1つ無い綺麗な顔をしとった…顔は…やけどな。
というのも、右足と右手はギプスで固められとるんやもの…
「酷ぇザマだな…オイ…」
「おめえのツラも大概やけどな…」
闘った者同士、何やら通じる物が芽生えたんやろな…柔と金木が照れくさそうに言葉を交わした。
すると柔、手に持っていたコンビニ袋からムフフな雑誌を取り出すと…
「せっかくこんな素敵な物を持って来てやったのに、その手じゃする事も出来へんなぁ…」
そんな事を言い出しよった…
ほんまこの男の頭ん中はエロスで出来とるんちゃうやろか?
「フ…心配すんな…俺は〝左手派〟だ」
コイツもコイツやなオイッ!
てか金木っ!お前、もっとニヒルでクールなキャラやったんちゃうんけっ!?
もうええっ!こんな奴等の世界に引きずり込まれたら、こっちまで頭ん中ピンク一色になってまうっ!
そんな危機感を覚えた俺は、早々に本題を切り出した。
「で…誰にヤラれたんや?」
「ミル・マスカラス…や」
「え~と…はい?」
「だから!ミル・マスカラスや言うてんねん!」
「お、お前!そんなん誰が信じるねんっ!!てか…ほんまにマスカラスにヤラれたんやったら、むしろ羨ましいわっ!!」
病室のドアが開き、顔だけ覗かせたナースが口許に人差し指を当てて、興奮する俺を一瞥…
さ、さぁせん…
シュンとなる俺を押し退けてゴリラが前に出る。
「山田からはお前が何者かにヤラれて入院したって事と、入院先であるこの病院の事しか聞いてへん…詳しゅう話してくれへんか?」
「やっぱ山田が言うたんやな…あのアホが…」
金木は舌を1つ鳴らしてから、昨日の出来事を話し始めた。
「いつもの通り、アイツらとつるんでパチンコ行った帰りの事や…」
「ちょい待てや!パチンコてワレ…高校生がパチンコ行ってええんかいやっ」
「ん?パチンコは18歳からOKやろが…俺達は18歳やど?まして高校行ってへん俺達が行って何んの問題があんねや?」
「…なんか…スマン…」
いや島井よ…そない謝らんでも、君の疑問はまったくもって当然至極やで…と思ったが、ここで口を挟んだらまた話が進まんようになる、そう思ってグッと堪えた俺は偉い。
「で、アイツらは勝ってたんやけど、俺は早々に銭を溶かしてしもてな…先に帰る事にしたんや。ほんで、店を出て駐車場に入った時や…ソイツが現れたんは」
ここでも〝え、お前…車乗ってんの?〟って訊きたかったんやけど、グッと堪えた俺はやっぱ偉い♪
「1つ言うとくけど、別に車持っとる訳ちゃうぞ…家に帰るんに駐車場を抜けた方が近道やからってだけの理由や」
こ、こいつ…俺の心を盗み見よったっ!?
なんなの?エスパー?ニュータイプ?
「ソイツは大してガタイがええって印象や無いが、タッパだけはあったな…185はあったと思う。服装は上下とも学生服やった。それも変形やなく、真面目っ子御用達の純正学生服や…そんでもって顔にはミル・マスカラスのマスクを被ってたって訳や」
「なるほど…そういう事かいや。で、尋常のタイマン勝負やったんか?」
「まぁ…そうと言やぁそうやし、ちゃうと言やぁちゃう…」
「ハッキリせんのぅ」
「ソイツは出て来るなり、タックルで俺を倒しやがってな…で、何をされてるかも解らん内に手足をイワされてたんや…そんで立たれへん俺を見下ろしながら、こんな事を言いよった…〝これは復讐…お前が悪いんやで〟ってな」
「復讐…か。身に覚えは?」
「フンッ!んなもんあり過ぎてわかるかいや」
「ま、せやろな」
ここで島井に代わって柔が問い掛けた。
「タックルを仕掛けて手足を折った…て事は組技系格闘技の使い手って事よな?」
「多分…な。あまりに一瞬の事やったし見極める時間すら無かったからな。でも…あれは柔道や無いと思う。レスリングでも無い。強いて言うならプロレスっぽい印象やった…それもUWFがやってたような格闘系プロレス…のな」
これを聞いて黙ってられる俺や無いっ!
火の点いた俺は又も声をあげてたんや。
「マ、マジかっ!?それは是非とも探し出して手合わせせんとアカンなっ!!」
すると…
やっぱりドアが開いて、さっきのナースが…
さ、さぁせん…
何このデジャヴ?再放送早すぎるやろよ…
まぁ俺が悪いんやけども…
「不惑よ…スマンな…約束守れんで…」
不意に告げられた謝罪の言葉…
あら、しおらしい…
えらい申し訳なさそうにしとるやんけ…
コイツ、最初のイメージとだいぶちゃうな…
せやから俺は、元気づける為にもこう言ってやったんや
「アホッ!お前との対戦は中止なった訳ちゃうぞ!あくまで延期や延期っ!!どうせなら万全のお前と闘りたいからの、今は治療に専念せぇや」
「…せやな、そうするわ」
「んで…そのマスカラスやねんけど、もちっと手掛かりになる事はあらへんのか?声とかに覚えは?」
「マスクのせいで、声はくぐもってたからなぁ…あ!せやせや!一番大事な事を忘れとったわっ!不惑、すまんがそこの引き出し開けてくれや」
「引き出し?あぁこれか?」
金木が顎で指したチェストの引き出しを開けると…
「それな…ソイツが現場に落として行ったもんや。どや?ごっつい手掛かりやろ?」
問われた俺は黙って頷くしか無かった…
だってそれは、俺達の通う育友高校の校章やったんやから…




