中指畳めば
悪ぃな勇よ…絨毯爆撃と行かせて貰いまっさ♪
先ずは景気づけの一発や!
おほっ♪外に弾いて避けよったか…
ならやっぱ避け切れん数で行くしか無いみたいやなぁ!
“カーン”
ん?何や…この無機質な金属音は?
今は大事なところやねん、邪魔せんとってくれや!
何やねん!誰や!俺の腕を引っ張るんは!?
邪魔すんなっつってんだろ!!
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「やめぇ!ゴングや暮石!!離れんと反則敗けにすっぞ!!」
レフリーの怒号で柔は正気を取り戻した。
マウントを取ってからのアイツ…完全に目がイッてた。
あんな柔を見るんは初めてやわ…
んでアイツは…
「すまんかったな……」
そう呟いて俺の上から退くと、足早に自陣へと戻ってった。
俺もコーナーに戻り、鈴本さんが用意してくれた椅子に腰掛ける。するとリング下から不破が声を掛けて来た。
「オイ…」
「あん?」
「オメェ…今回は儀式やんなかったな?」
「儀式?あぁ…中指の事かいな……」
「応よ。なんか訳でもあんのか?」
「……前にアイツには中指立てとるからな。それに…」
「それに?」
「この試合は…この試合だけは不遜な真似したく無かったんや。むしろ、中指だけを折り畳んで突き出してやろうかと思ったくらいやで♪」
「フッ…中指を立てたら不遜やから、中指だけを折りゃあ敬意…ってか?」
「ま、そんなとこや。だからよ…勝っても敗けても、試合後には中指を折ってアイツに向けてやるつもりや」
「ほうか…ま!好きにせぇや」
「おい不破!あんま喋らせるな!休ませてる意味あらへんやろが!」
苛だった様子で鈴本さんが不破を睨んだ。
「へいへい…さぁせんね」
首を竦めた不破が適当な返事を返す。
そしてインターバルが半分になった頃、再び口を開いた不破。
「あ、せやせや!大事な事を忘れとったわ」
「ん?」
「俺と繰り返しやった練習…覚えとるか?」
不破と繰り返した練習…
パンチに膝を合わす練習…
タックルに膝を合わす練習…
とにかくやたらと膝を使わせようとしとったな……
「ああ覚えとるよ」
「次のラウンドで使え」
「え?もう使ってええのん?」
「どういう意味や?」
「いや…必殺技っちゅうのは温存しとくもんかなぁ…なんて思ったからよ」
「何が必殺技じゃアホ!そんな都合のええもん武の世界にあるかい!だいたいカウンターの膝なんざぁ散々使い古された技術やろが!!そもそもお前が出し惜しみ出来る立場かバカチンッ!!」
「酷い言われようやなしかし…もっとこう…選手のヤル気を沸き立たせる事が言えんかね君は?」
「じゃあヤル気の出る事を言ってやろぅか?」
「おう!言うて言うて♪」
「上手くやりゃあ…このラウンドで勝てるぜオメェ」
「マジか!?」
「上手くやりゃあ…だよ。確率は…そうさなぁ…50%ってとこか」
「ニブイチ…」
「膝を使い始める前に、何度かハイキックを見せるの忘れんなよ?」
「ん…ああ…でも俺、あんま蹴り上手くねぇぞ?」
「知っとる。それでもええ。とにかくハイを何度か見せろ。捨て技やが、当たってくれりゃあ儲けもんやしな」
「わかった」
会話が終わるとほぼ同時に、インターバルの終わりを告げるブザーが鳴った。
「セコンドアウト!セコンドアウト!」
忙しなくリングアナの声が響く。
俺はゆっくりリング中央へ歩を進める。
対角線上のアイツは俺よりゆっくりと向かって来た。
そして…
「ラウンド2〜〜」
「ファイッ!!」
リングアナとレフリーの声が重なり、俺のステージであるロストポイント制ラウンドが始まった。




