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中指 立てたら  作者: 福島崇史
233/248

もう一つの控室

あの日…

半ば奴の思いつきで無理矢理に交わさせられた約束。

あの時はまさか実現するやなんて思ってへんかった。

だってそうやろ?

俺と勇、お互いが格闘技で何らかの王座を手にし、それらを賭けて統一戦を闘う…

はたから見りゃ完全にガキの戯言や。

ところが、その約束が現実のもんとなった。

互いの努力が実を結んだんや。

いや…もちろん周囲の人間の尽力もある…そっちの方が大きいと言えるかも知れん。

確かに王座に就いたんは俺と勇の努力の結果やろう…

せやけど統一戦の実現に関しては俺達の力だけじゃ及ばんかった事や。


フフッ…しかしオモロイもんやのぅ人生っちゅうのは♪

俺は柔術なりMMAなりで何らかの王様になれる自信はあった。

でも…正直、勇のアホは無理やろなと思っとった。

アイツは器用貧乏って名の不器用やからな…

教えられた事は体得するまで努力する、努力が出来るって部分に関しては天才やと思う。

そんで体得した技術は一定のレベルまで磨き上げる。

何をやらしても“そこそこ”出来る奴…

良く言やぁバランスファイターってやつや。

せやけど俺からすりゃ、突出したもんが無い相手…

つまり“怖さ”があらへん。

コレが俺のアイツに対する印象や。


とは言え…や。

コレはあくまで身近な存在やった頃の話。

肌を合わせんようになって随分な時間が経っとる…

もちろんプロレスラーになってからも、総合格闘技をやるようになってからもアイツの事は見てきた。

けど、必ず俺の知らん部分を持ってるはずや…それが判らん以上は昔の印象を鵜呑みにするんは危険やろな…

勇よ、お前の成長と怖さを身体で感じさせて貰うで!

ヘッ!ゾクゾクとワクワクが込み上げて来るやんけ♪


「柔…どした?独りでニヤニヤしてからに…」


「あ…いや…別に何でも無いっすよ」


「そうか…ならええんやが。そろそろ出番も近いでな、最後に動きの確認しとこか?」


「ウス!」


俺はトレーナー兼セコンドの田邉さんに跨がると、ポジショニング・極め・締め・パウンドのパターンを反復した。

次は田邉さんが俺に跨がり、俺は下からの脱出・スイープ・三角締め・腕十字・アームロックを繰り返す。


「よっしゃ!ええやろ。ええか柔…ラッキーな事に1ラウンド目はMMAルールや、初っ端で勝負を決めてまえ!親友との勝負やろうが感傷的になるな!秒殺するつもりで行け!ええな?」


「勿論そのつもりっすよ。俺はプロの王様…奴が手にしたんは所詮アマチュアの王座…プロとアマの違いを見せつけたりますわ♪」


この台詞を吐いた直後に胸が“トクンッ”と鳴った…

自分で言っておきながら、身体が…心が…“ほんまにそうか?”と問い返して来た様な気がした…


「おう!その意気や♪」


俺の真意なんか知らへん田邉さんは、上機嫌でセコンド道具の最終チェックに入る。

と、同時にセミファイナルの試合に決着がついた。

これから15分程のトイレ休憩を挟み、いよいよ俺達の約束の地へ向かう事になる…

ふいにドアがコンコンと鳴り…


「暮石選手、そろそろ花道へのスタンバイお願いします!」


俺はピシャピシャと自分の顔を叩くと…


「ッシャア!!」


自身を奮い立たせる為に声を張った。


田邉さんが控室のドアを開き、もう1人のセコンドでジムの後輩、上月こうづきが俺を先導する。

そして控室のドアを潜った瞬間…


“トクンットクンッ“


俺の胸が今度は2度鳴った。


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