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中指 立てたら  作者: 福島崇史
232/248

色とりどりの「応」

トイレ休憩が終わり、いよいよ俺達の入場が迫る。

一応俺は格下扱いなんで青コーナー側。

つまりアイツより先の入場になる。

アイツの実績を考えれば、その事に何ら不服はあらへん。むしろ当然とすら思っとる。


運営の係員が呼びに来て、鈴本さんと新木さんが救急箱やら水やらを手に取った。

不破は相変わらず手ぶらや…

円陣を組み鈴本さんが手を差し出しながら言う。


「勇…お前がグングニルに入って来た時、俺は正直ええ様には思っとらんかった…」


「知ってますよ…当たり強かったですもん♪」


「だから追い出すつもりで通常以上にシゴいたつもりや。せやけどお前は俺の指示通りに動き、こなし、全部乗り切りよった…そうなるとお前…俺も認めざるを得んやろ。せやから今は純粋にお前の1ファンや…今日はセコンドとしてや無い…お前の悲願が叶う事を1ファンとして応援させて貰うで!」


「あざっす♪」


次に新木さんが鈴本さんの差し出した手に自分の手を重ねた。


「俺は勇が来た時から…いや!セレクトでプロレスやってる時からファンやったけどな!誰かと違って♪」


「知ってますよ!最初から優しかったですもんね〜誰かと違って♪」


鈴本さんの咳払いを無視して新木さんが続ける。


「お前はこの日の為に格闘技を続けて来たんかも知れん…けどな?勝ったなら勝ったで狙われる立場になるし、敗けたなら敗けたで又アイツを追っかける事になる。これが到達点ではあらへん…まだ先がある通過点のつもりでってこい!」


「ウッス!」


次は鼻の頭を掻きながら不破が手を重ねた。

鼻の頭を掻くのはコイツが照れとる時のクセや…

まぁガラに無い事をやってる自分に照れとるんやろな。


「俺はお前に敗けた後でも、暫くはお前の実力に疑問を持っとった…」


「せやろな…実際、俺自身がお前に勝てたんはマグレやと思っとるしな」


「よう解っとるやんけ♪」


「謙遜じゃアホ♪」


「フン…まぁええ。でもな練習に付き合ってて気付いたんや。お前は俺に無い物を…大事な物を持っとるっちゅう事に」


「……?」


「それはな…強くなる事を、強くなれる自分を楽しめるって事や。その概念は俺にはあらへん。俺は薄汚れとるさかいなぁ…金儲けの為に技を磨き、技を奮って来た。せやけどお前は純粋に強くなれる自分に悦びを感じれる奴や。それは才能やで…その才能、これからも大切にしてくれや」


「なんや…お前から真面目に激励されるとケツがムズ痒くなるのぅ…でも、ありがとな。肝に銘じるわ♪」


「お、応……」


不破が再び鼻を掻いたのを見届けて、最後に俺がオープンフィンガーグローブ付きの手を重ねる…つもりやったんやけど……


「待て待て待てぇ〜ぃっ!!」


騒がしい声を発しながら控室へと飛び込んで来たのは、嵐のボンバーガール…そそぐちゃんやった。


「この私抜きで円陣を終わらせようとは、なかなかええ根性しとるやんか…」


「いや…そんなつもりは無かってんけどな…ハハハ…

来てくれたんやな!心強いし、何より嬉しいわ♪」


「あったり前やん!愛しのダーリンの晴れ舞台やで?その直前に顔出さへんほど薄情な女やないわっ!」


「凶暴ではあるけど…」


うっかりボソッと呟いた不破を、そそぐちゃんがめつける。途端に首を竦めて小さくなる不破…

この2人のパワーバランスは永久に変わらへんのやろな♪

ま、ウサギとライオンみたいなもんやな…ハハハ!

そのウサギの前脚の上にライオンが前脚を重ねる。


「もう皆んなが長々と色んな事を言うたやろから、私は単純で明確な一言だけ…」


「ん?」


「勝って!」


「応よ!まかせときぃ♪」


「あ、ゴメン…もう一言…ええかな?」


「どした?」


「怪我…気を…つけてね…」


「ん!ありがとな!」


そして今度こそ本当に俺の番。

グローブのせいで皆よりデカくなった掌を最上部に重ねた。


「こういうのん苦手やから上手く言えんけど…俺がこのリングに立てるんは、間違いなく皆んなのお陰です!本当に感謝してます!だからこそ…今日は皆んなに恩返ししたいんで、最後の力を貸して下さい!!」


「気に入らんのぅ…」


不破が睨みながら俺に言う。


「恩返ししたいや無くて、恩返ししますって言い切らんかい!それと…最後の力だぁ?ここにもんはこれからもお前の味方やろがい!今日お前が勝とうが敗けようが、今後も力貸すわいっ!!のうっ!?」


不破の問い掛けに皆が笑顔で頷いてくれる…

そして俺は言われた通りに言い直した。


「今日は必ず恩返しするんで、統一王者になった後もお力添え宜しくっす!!」


「せや。それでええねん」


最後に1番下にある自らの手を鈴本さんが高く掲げた。

それに押し上げられる形で、皆の重ねた手も高々と掲げられる。

そして頂点に達した時、鈴本さんが大きく声を張った!


「出陣やぁっ!!勝ちに行くぞぉっ!!!!」


「応っ!」


「うおうっ!」


「お〜!」


「おぉぉ〜っっ!」


それぞれの「応」で応えながら、俺達は花道脇へと向ったんや。


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