色とりどりの「応」
トイレ休憩が終わり、いよいよ俺達の入場が迫る。
一応俺は格下扱いなんで青コーナー側。
つまりアイツより先の入場になる。
アイツの実績を考えれば、その事に何ら不服はあらへん。むしろ当然とすら思っとる。
運営の係員が呼びに来て、鈴本さんと新木さんが救急箱やら水やらを手に取った。
不破は相変わらず手ぶらや…
円陣を組み鈴本さんが手を差し出しながら言う。
「勇…お前がグングニルに入って来た時、俺は正直ええ様には思っとらんかった…」
「知ってますよ…当たり強かったですもん♪」
「だから追い出すつもりで通常以上にシゴいたつもりや。せやけどお前は俺の指示通りに動き、こなし、全部乗り切りよった…そうなるとお前…俺も認めざるを得んやろ。せやから今は純粋にお前の1ファンや…今日はセコンドとしてや無い…お前の悲願が叶う事を1ファンとして応援させて貰うで!」
「あざっす♪」
次に新木さんが鈴本さんの差し出した手に自分の手を重ねた。
「俺は勇が来た時から…いや!セレクトでプロレスやってる時からファンやったけどな!誰かと違って♪」
「知ってますよ!最初から優しかったですもんね〜誰かと違って♪」
鈴本さんの咳払いを無視して新木さんが続ける。
「お前はこの日の為に格闘技を続けて来たんかも知れん…けどな?勝ったなら勝ったで狙われる立場になるし、敗けたなら敗けたで又アイツを追っかける事になる。これが到達点ではあらへん…まだ先がある通過点のつもりで闘ってこい!」
「ウッス!」
次は鼻の頭を掻きながら不破が手を重ねた。
鼻の頭を掻くのはコイツが照れとる時のクセや…
まぁガラに無い事をやってる自分に照れとるんやろな。
「俺はお前に敗けた後でも、暫くはお前の実力に疑問を持っとった…」
「せやろな…実際、俺自身がお前に勝てたんはマグレやと思っとるしな」
「よう解っとるやんけ♪」
「謙遜じゃアホ♪」
「フン…まぁええ。でもな練習に付き合ってて気付いたんや。お前は俺に無い物を…大事な物を持っとるっちゅう事に」
「……?」
「それはな…強くなる事を、強くなれる自分を楽しめるって事や。その概念は俺にはあらへん。俺は薄汚れとるさかいなぁ…金儲けの為に技を磨き、技を奮って来た。せやけどお前は純粋に強くなれる自分に悦びを感じれる奴や。それは才能やで…その才能、これからも大切にしてくれや」
「なんや…お前から真面目に激励されると尻がムズ痒くなるのぅ…でも、ありがとな。肝に銘じるわ♪」
「お、応……」
不破が再び鼻を掻いたのを見届けて、最後に俺がオープンフィンガーグローブ付きの手を重ねる…つもりやったんやけど……
「待て待て待てぇ〜ぃっ!!」
騒がしい声を発しながら控室へと飛び込んで来たのは、嵐のボンバーガール…そそぐちゃんやった。
「この私抜きで円陣を終わらせようとは、なかなかええ根性しとるやんか…」
「いや…そんなつもりは無かってんけどな…ハハハ…
来てくれたんやな!心強いし、何より嬉しいわ♪」
「あったり前やん!愛しのダーリンの晴れ舞台やで?その直前に顔出さへんほど薄情な女やないわっ!」
「凶暴ではあるけど…」
うっかりボソッと呟いた不破を、そそぐちゃんが睨めつける。途端に首を竦めて小さくなる不破…
この2人のパワーバランスは永久に変わらへんのやろな♪
ま、ウサギとライオンみたいなもんやな…ハハハ!
そのウサギの前脚の上にライオンが前脚を重ねる。
「もう皆んなが長々と色んな事を言うたやろから、私は単純で明確な一言だけ…」
「ん?」
「勝って!」
「応よ!まかせときぃ♪」
「あ、ゴメン…もう一言…ええかな?」
「どした?」
「怪我…気を…つけてね…」
「ん!ありがとな!」
そして今度こそ本当に俺の番。
グローブのせいで皆よりデカくなった掌を最上部に重ねた。
「こういうのん苦手やから上手く言えんけど…俺がこのリングに立てるんは、間違いなく皆んなのお陰です!本当に感謝してます!だからこそ…今日は皆んなに恩返ししたいんで、最後の力を貸して下さい!!」
「気に入らんのぅ…」
不破が睨みながら俺に言う。
「恩返ししたいや無くて、恩返ししますって言い切らんかい!それと…最後の力だぁ?ここに居る者はこれからもお前の味方やろがい!今日お前が勝とうが敗けようが、今後も力貸すわいっ!!のうっ!?」
不破の問い掛けに皆が笑顔で頷いてくれる…
そして俺は言われた通りに言い直した。
「今日は必ず恩返しするんで、統一王者になった後もお力添え宜しくっす!!」
「せや。それでええねん」
最後に1番下にある自らの手を鈴本さんが高く掲げた。
それに押し上げられる形で、皆の重ねた手も高々と掲げられる。
そして頂点に達した時、鈴本さんが大きく声を張った!
「出陣やぁっ!!勝ちに行くぞぉっ!!!!」
「応っ!」
「うおうっ!」
「お〜!」
「おぉぉ〜っっ!」
それぞれの「応」で応えながら、俺達は花道脇へと向ったんや。




