格闘技を始めたきっかけ
第2ラウンド開始1分を過ぎた頃やった…
奈良がアグレッシブに前へ出たんや。
両腕をブン回しながらトミーを追う!
追われるトミーは、ガードを固めながらも円を描くようにしてリングを華麗に舞う!
奈良の打撃もガードの上から何発かはヒットしとるけど、当然ながら致命傷には到らへん。
これに苛ついて焦ったんか、奈良が強引とも思える深い踏み込みからの右フック!
トミーのガードは前方で固められとるから、横はガラ空きに等しい!
奈良は距離も踏み込みも抜群、当たれば倒れる一撃や!
ほんでもって、まさに当たるっ!そう思った時やった…
「あ…」
「あ…」
俺と不破が同時に呟いた。
ガードが間に合わんと察したトミーが、めちゃくちゃ大きくスウェーバックしたんや。
当然バランスを崩して後ろに転けた。
スリップダウンとは言え転べばジャッジの印象は悪いし、何よりパウンドの追撃を受ける危険がある。
まんまと奈良が拳を振り上げながら後を追う!
ところが…やっ!
トミーの奴、倒れると同時にヘッドスプリングの要領で跳ね起きながら、その足を奈良に正面から叩きつけよった!!
これが鼻っ柱にクリーンヒット!
思わず顔を押さえながら鑪を踏む奈良っ!!
立ち上がったトミーが、勝機とばかりに奈良を追う!
俯いて顔を覆った奈良には見えとらへんっ!!
「終わるのぅ…コレ」
「せやな…」
俺達はトミーのフィニッシュブローが何かを見届ける作業に入った。
するとトミーの奴、又もや予想の斜め上を行く技を出しよったんや!
俯き気味でガラ空きになっとる奈良の後頭部…
そこへ高速の脹脛が上から降ってきよった!
なんとトミー…この局面で浴びせ蹴りを出したんや。
しかし浅い!これが脹脛や無くて踵やったら決まってたんやろけど、奈良は膝をついただけで倒れてない!
レフリーも止めに入ってないので、トミーが更に追撃を加える!
コレがまた変り種の技…
捻りを加えた右の掌底打ち!
オープンフィンガーグローブを着用しとるのに、拳やなくて掌底…
アイツ、ある意味変態やな…
流石に奈良もこの一撃で崩れ落ち、追撃を防ぐようにレフリーが覆い被さって庇う。
と同時にゴングが打ち鳴らされ、MMAマッチに終止符が打たれた。
「よう…?」
不破が言う。
「あん…?」
俺が応える。
「俺な、あのトミーって奴の動きに既視感あんだわ…」
「俺もやねんけど、何やったか思い出されへんねん…」
顔を見合わせ頷き合った俺達は、大急ぎでスマホを取り出して奴の事を調べた。
「おい勇…既視感の正体がわかったで…」
「ん?どれどれ…」
「ここ見てみぃ…格闘技を始めたきっかけの項目や…」
「え〜と、なになに…?子供の頃にハマッた対戦格闘ゲームがきっかけで自らも格闘技を始める。特にやり込んだゲームは餓狼伝説で、好きなキャラはアンディ・ボガード…………あっ!!」
「そうや…あのヘッドスプリングからの蹴りは、アンディの超裂破弾がモチーフやろな…」
「浴びせ蹴りも掌底も、アンディのバックボーンである骨法の技…やな…」
「まさかこの令和の御時世にMMAで骨法の技が見られるとはのぅ…堀辺創始も天国で喜んではるやろ…」
「いや!ほんまの骨法に超裂破弾なんて無ぇしっ!それに堀辺創始はアンディを見て“あんなのは骨法では無いっ!”て言うてはったし!!」
「………」
「………」
「最後のアップ始めよか…?」
「せやな…」
何とも言えん空気の中でミット打ちを始めた俺達。
15分のトイレ休憩を挟んでいよいよ出番や!
気持ちを切り替えていざ出陣っ!!




