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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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いよいよセミファイナルのMMAマッチ…

コレが終わるとついに俺の…いや、俺達の出番や!


身体を冷やさん様に、常に軽く動きながらモニターに視線を送る。

リング上では既に青コーナー側の選手が対戦相手を待ち構えとる。


奈良なら しのぶ

一昔前にMMA界で猛威をふるった、アマレスとボクシングをベースにしたファイトスタイル。

今ではあまり見んスタイルやけど、やっぱその安定感は抜群や。

アマレスでは国体出場、ボクシングは試合こそしてないものの、プロライセンスは取得済みらしい。

身長173cm、体重78kg

めっちゃ四角い…箱みたいな身体や。

昔のマンガでゴールドライタンってのがあったらしく、それに似てるってんでライタンってアダ名が付けられとる。

まぁこのガタイならボクシングの試合は難しいやろな…

試合経験が無いってのも納得やわ。

プロでの戦績は12戦8勝4敗。

引き分けは無いのを見ると、勝つにせよ敗けるにせよ思い切りがええ闘いをする選手って印象を受けるな。

で、そのライタンが睨みつける赤コーナー側の花道を、ゆっくりゆっくり歩いて来てるんが…


トミー・トンプソン。

アメリカのMMA界で話題になっとる男で、近くUFCからも声が掛かるんちゃうか?って言われとる。

バックボーンの格闘技は一切無く、純度100%のMMA選手。つまり1からMMAスタイルだけを学んで、今の地位を築いたって訳やな。

ある意味、変な知識や癖がついてない分、吸収や成長は早かったんかも知れんな。

格闘技歴5年、戦績は18戦全勝16KO(一本勝ちも含む)

…しかもこの戦績には柔術の試合やグラップリングのみの、専門外の試合も含まれとる…ある意味で化物やな。いや、天才か?

身長177cm、体重80kg…バランスのええ身体つきしとる。まぁ相手が相手やから細く見えてまうけどな。


ようやく両者がリングに揃い踏み。

コールもレフリーチェックも終わり、いよいよゴングを待ってる状況。

ここで俺も疲れを残さん様にアップを終わらせた。

冷やさん様に汗を拭き、ガウンに袖を通して椅子に座る。

後ろでは鈴本さんと新木さんが、救急箱やら水やらの備品を最終チェックしとる…

しとるっちゅうのに、不破のアホは俺の横でパイプ椅子に腰掛けてモニターを睨んどる。


「いや…お前も手伝えや!」


「さっきその話はしたやろがい…俺はお前の教官であってセコンドや無い。もう忘れたんかい?」


そういやぁそんな話したな…ま、えっか。

諦めの溜息と共にモニターへ視線を戻すと、ちょうどゴングが鳴った直後。

両者が中央で間合いを取り合っとるところやった。


奈良はボクシングスタイルで頭を振りながら小刻みにジャブを繰り出す。

当てる為っちゅうより、距離を測ってるって感じやな。

対するトミーは前に出した手でそのジャブを払いながらローで自分の距離を掴もうとしとる。

そんな中、ファーストコンタクトは奈良が有利な形で訪れた。

トミーのローを掬う様に掴んだ奈良!

そのまま打撃を放つか?それとも掴んだ足を押して倒すか?

そう思った時、奈良は意外な動きに出た…

掴んだ足を脇に抱えながら引き込んだんや。


「へぇ♪」


隣で不破がニヤリとしながら呟いた。


「ん?なんや嬉しそうやなお前…?」


「あの奈良って奴…上手いぞ」


「そうなん?」


「人間の身体ってぇのはなぁ、片足立ちの時に押されてもケンケンでバランスを取ろうとするんやが、急に前へ引かれると対応出来ずに転んでまうんや。これは役立つ事やからお前も覚えとけよ」


「勉強させて貰います師匠!」


「大御所芸人の楽屋に挨拶行った若手芸人かお前は!」


不破のわかりにくい喩えをスルーして試合へと目を戻す。するとテイクダウンを奪った奈良が、執拗に足関節を狙ってるとこやった。

アキレスが極まらず足首固めへ…

足首固めも極まらず、転がりながら膝を狙う…


「あっちゃ〜…あとが良くないのぅアイツ…」


「確かにな。MMAで足関節に固執すんのは危険やわなぁ…」


「それもあるが…極めが甘過ぎる。あの展開、俺やったら3回は極めれてるで!」


「はいはい。強い強い」


「………試合出れん身体にしたろかワレ…」


いつもの“とっぽい“返しも華麗にスルーして試合展開に集中。

転がり過ぎてロープ際で縺れ合う両者、もう結構な時間を膠着状態のままや。

それを見かねたレフリーがブレイク。

スタンディングからの再開を促した。

客も膠着状態がストレスやったんやろな、歓声と拍手が一斉に沸き起こった。


その後も大した展開に発展せんまま5分が経ち、1ラウンドが終了。 

とんだ“凪展開“にインターバル中も客席から野次が飛ぶ。

そして第2ラウンドがスタート。

又もや暫く小技の応酬が続き、フラストレーションの溜まった客席からはついにブーイング!

俺の横で不破のアホも親指を下に向けながらブーイング…

楽しそうで何よりです………


せやけど…ラウンド開始1分を過ぎた時!

とんでも無い展開に客席が沸きに沸く事になったんや!



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