狂犬は禁句を遠吠えて
前代未聞!エキシビジョンでまさかのKO決着!
そんな波乱のオープニングマッチが終わり、ついに本戦が始まる。
1試合目は3分5ラウンドのキックルールや。
出場するのはシュートボクシング出身の御手洗 一太選手。
戦歴はシュートボクシング、キックボクシングを込みで7戦5勝1敗1引き分け。
まだフレッシュな新人やけど、勝った試合は全てKO勝ちっちゅう期待の新人でもある。
で、初対面で彼の名前“御手洗一太“を「おい!トイレ行ったか?」とからかった対戦相手は、もれなくKOされるってジンクスがあるらしいわ。
禁句っちゅうやっちゃな…
対するは“キック界の問題児、荒神 雷斗選手。
何が問題児かと言うと…
これまでダウンした相手を蹴りつけたり、踏みつけたりして何度も反則負けを喰らってるんよ…
そのせいで戦績は15戦6勝9敗。
その内で反則負けが5つ!しかもそれら全てが勝つ流れだった事を考えると、実質11勝4敗と言っても良いかもな。
で!そんな暴れん坊やから、ついたアダ名が“ケルベロス”。倒れた相手を蹴るから“蹴るベロス”って訳やな。
そして例に漏れず、御手洗の事をからかったらしいわ。
因みに彼には弟が居って、名前は荒神 風斗。
元々はアマレスの強化選手やってんけど、オリンピック選考から外れたのを切っ掛けにプロ格闘家へ転向。
この後のグラップリングマッチに出場するんやけど、こちらも兄に劣らず問題児…
アマレスの試合では反則の関節技を使うわ、総合の試合でもギブアップした相手の腕を意図的に折るわ…
ある意味、兄貴より厄介な奴かもな。
で!そんな暴れん坊についたアダ名は“オルトロス”
先に述べた反則行為をもじって“折るトロス”になった訳やな。
「蹴るベロス」と「折るトロス」の狂犬兄弟…
しかし運営もこんなリスキーな選手をよく起用したもんやで。
お?そないこない言うてる間に、両選手のリングイン
が終わっとるやんけ。
経験豊富な荒神が格上扱いの赤コーナーか…まぁそうなるわな。
手足が長く、しなやかな筋肉の付き方してるわ。
バランス良さそうやな。
対する御手洗は……ビックリする程に手足が短いな。
しかもガッチガチのゴリマッチョ!
特に広背筋と肩口の筋肉は異常に発達しとる。
打撃系の選手とは思われへんな…
ジュニアヘビーのプロレスラーって言われても信じそうな身体や。
まぁマイクタイソンの例もあるし、インファイトに持ち込めたら凄ぇ力を発揮しそうやわ。
お!レフリーのチェックも終わり、いよいよ始まるみたいやな♪
耳に心地いいゴングの響きと共に、御手洗が前に出る!
予想通り、マイクタイソンと同じピーカーブースタイルで上体を左右にブンブン振ってるわ!
逆に荒神は驚くほど基本に忠実なアップライトスタイル。ちょっと意外やわ。
狂犬なんて言われてるから、もっと奇抜な戦法を取るかと思ってましたスンマセン!
御手洗の振り子運動を止めようと、荒神が長い腕でジャブを連打する。しかし御手洗の振り子は更に速さを増しながら前へ!
ところが!御手洗の体重が右に移動したタイミングで、荒神が左足を鞭の様にしならせた!!
自らの振り子運動のせいで、この左ミドルがカウンターになってしもた御手洗。頬が膨らみ、一瞬動きが止まる!
この機を逃さず荒神が右肘を高々と振り上げた!
ところが…奴の肘が振り下ろされるより早く、御手洗の左フックがボディにめり込んだんや。
しかもそれだけでは止まらへん!
ボディにめり込んでた左が目にも留まらん速さで顔面へ!ボディから顔面へのダブル!!
荒神は肘を下ろすタイミングやったからガードがガラ空き…そのまま横倒しにリングへと墜ちた。
目を開いたまま泡を吹き、両腕を天に向けたまま痙攣する荒神!
当然レフリーはカウントも取らずにゴングを要請。
1ラウンド1分2秒…
御手洗選手の持つジンクスは又もや守られる結果になった。
俺もアイツと闘る事があれば、絶対に禁句は口にせんとこう…そない固く誓ったわ。




